
美唄市の中心部に店舗を構える「日用品と喫茶 Tape」。調味料やキッチングッズ、かごなど、店主の石井由佳さんの確かな目利きによる魅力的な雑貨類と、季節によって変わる軽食やスイーツが楽しめる場所です。石井さんがさり気なく交わしてくれる会話が心地良く、そのセンスでプレゼントを選んでもらおうという「お任せ」の依頼も多々。自然体で地域で愛される、素敵なお店を見つけました。(取材時期 2024年2月)
Shop Data
日用品と喫茶 Tape
住所 美唄市西3条南3丁目3-1
電話番号 0126-38-5306
営業時間 8:30 ~ 17:30
定休日 日曜・祝日
Instagram @tape_bibai
※営業時間など最新情報はInstagramから確認を。

美唄市の中心部にある、小さな店、Tape。
小さな町であればあるほど、「あの店で買いたい」「あの人から買いたい」という気持ちから消費行動を起こすことが多いような気がする。地域の店を応援したいという思いもあるし、店の人やその家族と顔見知りだからということもある。美唄市の中心部に店舗を構えるTapeは、もしこの町に住んだなら通ってしまうだろう店の上位にランクインする。それは、空知管内はおろか、北海道内でもなかなか目にできない魅力的な商品群のおかげでもあるし、店主の石井由佳さんの良い意味で遠慮のない物言いが心地良いからでもある。
この日も、珈琲豆を買いに来た馴染みの女性に対して、「いつもはこっち選ぶでしょ? だから今日はあえてコレにしたらどうかなと思って」と、その女性の好みとは真逆の(と本人が自認していた)味の豆をオススメ。関係性によっては余計なお世話にもなってしまいそうだが、客の女性は「その視点はなかった!」と楽しそうに笑って由佳さんオススメの豆を買い、満足そうに帰って行った。

子どもと共にある、仕事と暮らしのこと。
由佳さんは札幌市出身。東京で長くベーカリーカフェの仕事をしていたが、2016年に、双子の子どもが生まれるのを機に夫の賢さんと共に北海道へ。賢さんは美唄市の地域おこし協力隊となった。そこで、アスパラ羊で有名な西川農場の西川さんからの誘いで「cafe STOVEN」を立ち上げる。自家製の小麦と石窯でパンを焼き、カフェではランチも提供する。店がうまく回り始めたタイミングで、由佳さんは店の運営から抜け、町内にできたセレクトショップの店長として働き始めた。

「生活を整えようと思った」と由佳さん。ストウブを始めた頃、2人の子どもは1歳半。店は順調に地域に馴染んでいったが、由佳さんは深夜までカフェの仕込みをし、翌早朝からはパン製造のお手伝い……。「子どもを店の奥にそっと寝かせてパンを焼いてた(笑)」そんな「ストウブ漬け」の暮らしから、もう少し家族との時間を大切にできるようにとの思いだった。「でも、店に子どもを連れて行っていたおかげで、地域の方が覚えてくれて、ずっと気にかけてくれて。こんなに地域に馴染むことができたのは、子どものおかげですね。そういえば今仲の良いママ友も、最初はストウブのお客さんだっけ」。

雇われ店長時代に聞いた町の人の声を活かして。
町内のスーパー内にある雑貨のセレクトショップで、2年間限定の「唯一のスタッフであり店長」になった由佳さん。店では、食器や文具などを含む全国各地の優れたプロダクトを扱っており、小さな喫茶スペースも併設。ストウブのパンの販売も行った。「ストウブも同じ町内にありますが、高齢だったり車がなくて『そこまで行けない』と言う方が結構たくさんいるのに驚きました」。その後、2年間の契約期間が終わり店自体が閉店となるタイミングの2023年春、そこから徒歩3分のところにTapeをオープンさせた。前述の声を受けて、ストウブのパンの出張所の必要性を感じたことや、ちょうど良くイメージに合う物件が見つかったこと、また、市の事業によって補助が受けられることなど、さまざまな要因に背中を押されての開業だった。

「20歳くらいの頃から、いつかは店をやりたいとは思っていましたが、ずっとパンの世界ひと筋だったので雑貨店を開くとは思っていませんでした」と笑う由佳さん。しかし、雇われ店長時代に出会った客との会話からは、地域の人の「食や調理器具へのこだわり」が感じ取れ、一方で「新型コロナウイルスの影響で札幌に買い物に行っていたのを控えている」という声も多かった。「本当は良いものを買いたいのに、近くで買える場所がないから仕方なく100円均一で買った、という方もいました」。そうした町の人のさまざまなニーズを 耳にしてきた由佳さんだからこそ、Tapeを「いろいろな役割を持った店」にしたいと考えたのだそう。


訪れる人が自由に解釈できる店、Tape。
店内に取り揃えているのは、由佳さんが実際に使って「良い」と感じた全国の調理道具に食器類、「新鮮さがあり、食生活を豊かにする」という基準で選んだ食品や調味料。そしてベーカリーカフェでの経験を活かしたランチやドリンクメニュー。オープン時間が早め(午前8時半)なのは、「仕事前や子どもを送って行った後でひと息ついてもらえたら」との配慮から。「お客さんの年齢層は結構高めかも。遠くてストウブまで行けないという方や、今まで札幌の百貨店で調理道具を買っていたという方も多いです」。 雑貨屋でも、パン屋でも、カフェでも、コーヒースタンドでも。訪れる人が自由に解釈できる余白も、Tapeの魅力の一つだ。

地域の一員として、自分が楽しんで生きていく。
「いろいろと欲張っている自覚はあります(笑)」と、由佳さん。雑貨の仕入れもカフェの仕込みも一人でこなしているから、時にはどちらかに重心が傾いてしまうときもある。でも常に頭に思い浮かぶのは、地域の人の顔だという。「カフェの新メニューを出したら、あの人が来てくれるだろうな、とか。この雑貨はあの人が好きそうだから入れよう、とか」。夫と一緒にストウブの立ち上げに奮闘していた頃から、地域に密着した店であり続けてきたことで、今となっては多くの客がリピーターになっているという。

「基本的には私の好きなものや、ふと『良いかも』と思い付いたメニューなどを出しているんですが、それに対しておいしいと共感してくれる人がいる。私自身『あまのじゃく』なので、定番じゃないものを作ることもあるんですが、それが受け入れてもらえると、うれしいですね」。最近では、「〇〇さんに贈りたいんだけれど、どれがいいと思う?」など、お任せの提案を求められることも。そういったときには、あえていつもと違ったセレクトをオススメすることもあるという。「意外とこれも良いのね! と新しい発見をしてもらえるのも楽しくて」。冒頭の女性客との会話も、そんな日常の一コマだったのだ。 「みんなが見守ってくれている感じがする」と、由佳さん。「自分が楽しんで生きていきたいから、お店をやっているんです」とも。こんなふうに肩の力の抜けた、でも確実に地域に根差した店があること。「地域おこし」、「まちづくり」といった単語は、ついぞ由佳さんの口からは出てこなかったけれど、Tapeの存在は、確かにこの小さな町をちょっと明るく、楽しくしている。



2025年に駐車場がちょっと広くなりました!10台分(雪深い時季は半分くらいになってしまうけど…)あるので、お車で気軽に遊びに来てくださいね。


