人生を豊かに彩るガラス〈ニーウン・ペツガラス美術研究所〉

北広島市にある、ニーウン・ペツガラス美術研究所は、ガラス作家であるクスモトスケヒロさんが営む工房兼ギャラリー。木製の扉を開けると、まず目に飛び込んでくるのが、長いテーブル一面にずらりと並べられたたくさんのガラス作品。窓から差し込む太陽の光を浴びてキラキラと輝き、あるいは電球の灯りにぼんやりと浮かび上がる。これまで何となく、ひんやりと硬質なイメージがあったガラス。けれどここの作品たちはどれも、どことなく楽しげで温かい。その鮮やかな色合いとも相まって、今にも軽やかに踊り出しそうなのです。(取材時期 2015年)

(2022年7月追記)
現在は「ニーウンペツの森」と名称を変え、ステンドグラス•吹きガラス工房、ガラスギャラリー、間借りカフェ、ベーカリーを併設しています。森の中でクスモトさんをはじめ、それぞれの仲間たちが「大好きなもの」を提案しています。

Shop Data

ニーウンペツの森
住所 北広島市輪厚308
電話番号 011-377-7680
営業時間 10:30〜17:00
定休日 水・木曜 ※ 冬期は土・日曜のみ営業
URL https://lit.link/niunpetunomori

海外に学んだ「圧倒的な」ガラス作品

クスモトさんは大阪出身。専門学校でインテリアデザインを学んでいた頃、吹きガラスやステンドグラス、ガラスアートをテーマにしたゼミが開催されることになり、何の気なしに参加することにしたそうだ。「先生に誘われて、たまたま。そしたら、意外と面白くて。こういうことをやっている人も、あんまりいないよなぁって」。日本ではまだまだ工業的なガラスが主流だった時代。クスモトさんはみるみるうちに、ガラス工芸の世界にどっぷりと浸かっていった。

学校を卒業後、クスモトさんはステンドグラスの工房に勤務。その後渡米し、クラフトスクールに通いながら、現代ガラスアート作家のサーマン・ステイタム氏のアシスタントとして吹きガラスの技術と、ガラス彫刻を中心としたアートとしての表現についてみっちり学んでいった。日本とは比べ物にならないスケールの大きさ、それまで自分が思い描いていたガラスの世界との違いに、「とにかく圧倒されました」とクスモトさん。「吹きガラスは、原料を溶かしてパーツを作るところから、すべて手づくりできるのが面白い」。それは、自らの手で「創り出す」ことの歓びを実感する日々だった。

5年後、帰国のタイミングで北海道北広島へ。彫刻を手がける企業に勤めながら、独立を見据えてアトリエとして使える場所を探した。そしてさらに5年の時を経て、勤務先の近くにあった旧仁別小学校をアトリエにすることに決め、ニーウン・ペツガラス美術研究所の名前で独立を果たす。1999年のことだ。

2011年には建物を一度解体し、小学校の講堂部分をギャラリー兼カフェに、教室を工房として現在の場所に移築。移設に伴う改装の際にも、できるだけ元の状態を残すことを心がけたクスモトさん。幸いにも、かなりの築年数にも関わらず、木造の建物の状態はすこぶる良好。吹き抜けの天井に渡された梁や飴色の床は小学校として使われていた当時のまま使用し、黒板などは外して、テーブルの天板などに。多くの人たちに大切に使われてきたであろうそれらは、長い時間を経てなお、訪れる人々を穏やかに受け入れてくれる。初めてなのに、いつかどこかで出会ったことのあるような…。この空間があることで作品たちがまとう雰囲気もまた、どこか懐かしく、慕わしいものに感じられるのだろう。

クスモトさんの作品は、グラスや皿などの食器類から照明器具、アーティスティックなインテリアまでと幅広い。自身の世界観を表現するための、純粋なアート作品(主にガラス彫刻)も手がけている。「仕事として作品を作るときは、『使い手に求められるもの』を作りたい。だから、目的の作品を作るための『素材として』ガラスを使うことが多いです。ガラスの持つマテリアル(素材)の良さを引き出しながら、いろいろな表情のガラスを形づくっていきたいと思っています」。

素材として、ガラスは面白い性質を持っているとクスモトさんは言う。原料となる色ガラスを1300度ほどに熱して溶かし、さまざまな形を作っていくわけだが、色によって溶ける温度や硬くなるタイミングが違うのだ。そのため、色を多く使うほど割れやすくなってしまう。もちろん、その日の気温などによっても微妙な差が出てくる。そこが面白くも、難しいところ。「いつも、ガラスをなだめすかしながら作っていますよ」。使い込まれた道具に触れる手つきが、とても楽しそうだ。成功するにしろ、失敗するにしろ、「遅くても翌日には何かしらの結果が出る」とクスモトさん。そんなスピード感も「自分の気性に合っていたのかも」。

クスモトさんの言葉には、気負いがない。「こうでなければいけない」と執着するようなこともなく、あくまで自由で軽やかだ。そんな祐弘さんの気性を、作品たちもしっかりと写し取っている。どこにも無理がなく、自然体。だから、華やかな色合いのものであっても、見ていると心が落ち着くのだ。

人は多くの出会いによって生かされている。ものや出来事、人との出会い。その中の何かひとつが欠けても、きっと今はない。見過ごそうと思えば、簡単に通り過ぎてしまっていたであろう、たくさんの偶然。そこに、「ものづくり」という軸を持って真っ直ぐ向き合ってきたことによって、人生はこんなにも鮮やかに色づいていく。

スロウ日和編集部

クスモトスケヒロさんの作品は、「スロウなお買い物」WEBサイトにて購入いただけます!ランプシェード、食器、グラスなどをお取り扱いしています。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.44
「移り住み、つくる暮らし」

移住という選択肢を選びとり、理想の暮らしを実現させようとする人たちのライフスタイルを訪ねた特集。

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。