3度食べてやっと、”わかる”パン〈ごりらのしっぽ〉

「パンはなんとなくやって、なんとなくできるもの。大切なのは語り合いかな」。新得町にある、ごりらのしっぽの岡田さんは、パンを生き物と捉えている節がある。酵母は生きている。生きているのだから、日によって変わっていくのがあたりまえ。それに合わせて作るのが面白いのだ、と教えてくれた。

Shop Data

自家製酵母&石窯焼きのパン ごりらのしっぽ
住所 新得町上佐幌基線82-26
電話番号 0156-65-3678
営業時間 10:00 ~17:00
定休日 月~木曜
URL http://gorilla-no-shippo.com

これぞ、噛み締めるパン

岡田元成さんは不思議なパンを焼く。調理パンや菓子パンの類たぐいは作らない。見た目はゴツゴツした石のような、食べるとこれでもかというくらい硬い無骨なパン。味や香りに炭火で焼いた独特のクセがある。初めて食べた時は「これは何?」という違和感を覚えた。

しかし、それから2回目、3回目と食べるうちにパンの印象が変わっていった。岡田さんのパンは変わらないのに、おいしく感じられるようになっていったのだ。この歯ごたえにアゴが慣れ、少量を噛み砕きながら、じわじわと滲み出してくる味と香りを楽しめるようになったのだと思う。その時に「うちのパンは、3度食べなきゃわかんないんだよ」と、1番最初に岡田さんが言っていた言葉の意味がわかった気がした。

果物と野菜から起こした自家製の天然酵母を20時間かけて発酵させた生地は、成形してから3時間寝かせる。それから約千個のレンガを積み上げて自作した石窯で焼く。「窯に火を入れるのも含めて全部楽しい。いつも見守っている感じでやるのがいいんだよね」。

岡田さんは、元コンピューターのシステムエンジニア。「IT」という言葉が一般的に使われるずっと前からコンピューター関連の仕事をしてきた。東京暮らしが長く、約10年前に仕事を退職し、新得町に移り住んだ。「いい仲間と環境があれば、何でもできる」、と岡田さん。

移住当初は、何が何でもパン屋をやろうとしていたわけではなかった。たまたま、独学でパンを作り始めたら、たまたま、気に入ってくれる人が現れた。その延長線上で店を開くことになったという。建物に必要な材料や家具、石窯に使う薪など、多くのものが「人の誠意のあるアクション」から得られたもの。そうした小さな縁の積み重ねで、ごりらのしっぽは形づくられた。

「自分に与えられたチャンスを断らずに受け入れるんだ。自然の流れに逆らわず、できる範囲で少しずつ。そして、今を楽しむ」。岡田さんはよく笑う。パンには、岡田さんの人柄も含めて人を惹きつける力があるのだろう。

(取材時期 2014年10月25日)

岡田元成さん

「スロウ日和をみた」で、リクエストに応じて何かのモノマネ披露いたします♪

この記事の掲載号

パン屋さんに会いに行く2

キーワードは、北海道産小麦。そのおいしさを伝えたいと奮闘するパン職人、小麦作りから自らの手をかける人、日々の暮らしの中にパン作りがある人…。それぞれの立場から、パンに携わる人たちを訪ねました。

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。