有機栽培の農家が営む、野菜がもりもり食べられるカフェ〈菜びより〉

古い商店を改装した店内。

「野菜が足りない…」。仕事や家事に追われて日々忙しく生活していると、そんな風に思うことはありませんか。シャキシャキとした野菜を噛みしめて、心も身体をリセットしたいときに足を運びたいのが、やさい屋カフェ菜びよりです。有機栽培の野菜を使ったシンプルだけど個性的な料理の数々。生きる力が蓄えられて、また明日から頑張ろうと思えるのでした。

Shop Data

やさい屋カフェ 菜びより(小笠原農園)
住所 幕別町南勢224-3
電話番号 070-4795-6334(要予約)
営業時間 11:00~16:00
定休日 日・月・木曜、祝日
URL https://www.facebook.com/saibiyori/
https://www.instagram.com/saibiyori/

菜びよりランチ(1,450円)

気づけば野菜が足りない人々に

月並みな表現になるが、”野菜をたくさん食べると元気になる”というのは本当だと思う。不自由なく食べ物が手に入る世の中で、野菜は意識的に食べないと不足してしまうもの。野菜を食べるのをおろそかにしてしまうと、身体はもちろん、心まで弱っていく気がする。北海道に住んでいる私たちは、郊外に行けば畑は広がっているけれど、そこで採れた作物が必ずしも私たちの口に入るわけではない。 暮らしているからといって、野菜を充分食べられているとは限らないのだ。 生産現場の近くにいるのに、気づけば便利な加工食品ばかりを食べてしまう日々…。私たちの身体にはいつだって野菜が足りていない。

店の前にある直売スペース。おすすめは茹でたトウモロコシ。

そんな「野菜をもりもり食べたい」という願いを叶えてくれるのが、幕別町にあるやさい屋カフェ菜びよりだ。隣接する小笠原農園で採れた有機野菜を活用した料理が味わえる。トウモロコシ、ピーマン、ナス、人参、アスパラ、パプリカ…。それぞれの野菜が主役の料理が、プレートに少しずつ。素材の味を大切にした優しい味つけで、野菜のみずみずしさや甘さ、力強さを感じられる。これに加えてサラダビュッフェがついてくるのだから! なんだか”野菜の国”に招待されたような気持ちになる。

3人がそれぞれのかたちで輝く

この野菜の国を切り盛りするのは、3人の素敵な女性たち。野菜を育て、直売も担うオーナーの小笠原美奈子さん、野菜料理を研究し続けるシェフの佐々木夏菜子さん、ケーキやコーヒーの焙煎を担当する小笠原咲子さん。穏やかで柔らかい雰囲気を纏いながら、強い芯を持っている3人だ。

左から小笠原咲子さん、小笠原美奈子さん、佐々木夏菜子さん。

夫の就農に伴い、40歳で農家になった美奈子さん。消費者に野菜を届けようと思ったきっかけは、小笠原家で育てられていたトウモロコシを食べたときのこと。「こんなにおいしいとうきびがあるなんて。もっと知ってもらいたい」。やると決めたら揺るがない美奈子さん。農業を始めた翌年には直売所を開いた。幸い、小笠原農園はトラックがよく通る国道に面していた。気づけばトラック運転手の間で茹でとうきびのおいしさが広がり、「他の野菜もほしい」と言われるように。4年目になると自宅近くの商店だった建物を購入。以降5年にわたって夏の間だけ直売所をオープン。固定客が増えて知る人ぞ知る直売所に成長していった。

「野菜をおいしく食べてもらえる場所があったら…」。直売所を経営しながら、次なる夢をひそかに抱いていた美奈子さん。思いが通じたのか、だが美奈子さん自身は農家としての仕事もあり、店を開くにはシェフが必要だと考えていた。どうしようかと悩んでいたときに、帯広市内で野菜料理の店を出していた佐々木夏菜子さんと巡り会う。野菜をおいしく調理してくれて、盛りつけも上手で、センスだって抜群。これ以上ない相方が見つかったのだ。

一方で夏菜子さんも「いつか畑の真ん中でお店を開きたい」と考えていた。小笠原さんの野菜のおいしさと、夫婦の人柄に背中を押されて、決意したという。

夏菜子さんの料理は「教えてもらったら家庭でも作れそう」がコンセプト。たとえば、ズッキーニのコロッケ。夏にたくさん採れがちなズッキーニを細かくして、コロッケにしてしまうというアイデアだ。その他、野菜の良さを活かすため、レシピで使う調味料は醤油、砂糖、塩、酢、味噌くらい。シンプルだけど、個性的な発想から生まれた野菜料理たち。「もしかしたら私でも作れるかも?」。普段から家庭で料理をする人の心を掴み、野菜への関心を高めている。

冒頭で述べたように、すべての料理にサラダビュッフェがついてくるのが菜びよりの特徴。採算が合うのか心配になるが、農家が運営しているから可能なのだとか。美奈子さんは「春先の野菜が少ない季節は野菜がなくなってしまうことがあり、制限を設けたりしようか悩んだこともありました。でも当初のコンセプトである”野菜をたくさん食べられる”を思い出して、今は自由に食べられるスタイルにしています」と話す。野菜のドレッシングも「もりもり食べられる」理由のひとつ。季節によって3種類のドレッシングが変わることも。味を変えながら永遠に食べられそうだ。

小笠原咲子さん。菜びよりのスイーツとドリンク担当。農園の仕事も行う。

2021年春からは3人目の仲間が加わった。美奈子さんの娘、咲子さんが東京からUターンしたのだ。「じっとしているのではなく、身体を動かす仕事が合っている」とパンや菓子製造の専門学校に進んだ咲子さん。卒業後は東京のカフェで働き、若くして店長として運営を任されていたそう。ただ、東京で自分の店をオープンさせるイメージが湧かずに悩んでいたところ、母・美奈子さんから菜びよりの図面を見せてもらい、「やってみたい」と心が大きく動いたのだという。東京時代に身に付けたケーキ作りや、コーヒーの焙煎。咲子さんによって店には彩りが増えて、ますます人気が高まっている。

菜びよりは「おいしい野菜」を発信する場所

最後に小笠原農園を支える大黒柱の紹介を忘れてはならない。美奈子さんの夫、保さんは少し変わった経歴を持つ。38歳のときに20年続けた公務員の仕事を辞めて、実家の農家を継いだ。いや正確には、実家で行っていた農業を母体に、有機栽培という全く違う農業を始めたと言ったほうがいいだろう。年々、農家一戸あたりの耕作面積が大きくなる十勝で、農薬や化成肥料を使わないのはかなりの少数派だ。でも仲間はゼロではなかった。近隣で有機栽培を行っていた先輩農家に相談したり、遠方の勉強会や講演会にも足を運んで勉強した。最初は豆や小麦といった穀物から。次にレタス、トウモロコシなどの野菜に挑戦し、就農から10年が経った今では30品目以上の作物がすべて有機栽培となった。

38歳で農家に転職した小笠原保さん。

有機栽培は病害虫との戦い。「10年やってみて、毎日しっかり観察することが大切だとわかりました。でもまだ10回しか作っていないから。まだまだ満足していません」。就農当初から変わらない、おいしい野菜を作るという目標。「菜びよりは発信の場。いずれは畑で収穫をしてもらうような体験の仕組みをつくりたい」と畑の真ん中で話してくれた。

美奈子さんの夢もやさい屋カフェだけでは終わらない。子どもたちが農業を身近に感じられるようにしたいというのが、夫婦共通の思いだという。「目指しているのは、いろいろな人がふらりと寄ったり、滞在もできる村」。おいしい野菜を軸に、まだまだ仲間が増えていきそうな予感がした。

この記事を書いた人

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猿渡亜美

剣山がきれいに見える十勝の山奥で、牛と猫とキツネと一緒に育ちました。やると決めたらグングン進んでいくタイプ。明治以降の歴史や伝統に心を揺さぶられ続けています。