美深にぽつんと光る星を頼りに。この地を深く知る宿〈青い星通信社〉

村上春樹の『羊をめぐる冒険』に導かれて、美深町を知った星野智之さんと鶴史子さん。美深に10年以上足を運ぶ中で、宿となる建物と出合いました。当時は廃屋だったのですが、星野さんは外壁の石煉瓦に心を奪われます。こうしてオープンした「青い星通信社」。ラウンジの読書スペースや書斎、鶴さんが作る料理、それぞれにある物語。ここに泊まると、美深のことがもっと好きになるに違いありません。

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TOURIST HOME&LIBRARY 青い星通信社
住所 美深町紋穂内108
電話番号 080-9002-7724
URL http://aoihoshi.co.jp
宿泊料金 1泊2食付15,500円~/人※詳しい料金などはHPで確認を。

『羊をめぐる冒険』の舞台へ足を運んで10年以上

まるで、物語のワンシーンに入り込んだような気分だった。風景に溶け込む、石煉瓦積みの建物と木製の扉。扉の重さに驚きながらゆっくりと開けると、宿のオーナーの星野智之さんと鶴史子さんの「遠い所よくいらっしゃいました」という声に、ストンと肩の力が抜ける。星野さんは編集者として、鶴さんはキャビンアテンダントとして働いていた。村上春樹を研究してしまうほど、彼の作品が好きな星野さん。ある時、「美深町が『羊をめぐる冒険』の舞台かもしれない」という記事を見て、初めて美深という町の存在を知る。そして早速、記事で紹介されていた美深の宿を訪ねた。かれこれ10年以上紡がれ続ける星野さんと美深のストーリーは、地方誌のたった一文がきっかけだったのだ。

廃屋の独特な素材感に惚れて、宿を始めようと決意

近くの通信塔を管理する官舎だった建物と出合ったのは、美深に足を運び始めて10年後のことだった。「背丈を超える草に覆われていてね。近くまで見に行くにも苦労しましたよ」。当時は「廃屋」だったこの建物。よくよく見ると、「見たことも無い色合いと質感」の石煉瓦が外壁を覆っていた。この石煉瓦積みの外壁に、星野さんは心を奪われる。当時ふわっと頭に浮かんでいた、「美深で宿をできたら」という構想が、現実味を帯びた瞬間だった。

石煉瓦を残した書斎で本を読む愉しみ

そんな廃屋との出合いから2年。別の宿で、鶴さんと2人、修業を積んだ後、2019年6月に、青い星通信社をオープンした。宿名「TOURISTHOME&LIBRARY」を掲げている青い星通信社。ラウンジには、2人が持ち寄った本が並ぶ読書スペースや、石煉瓦をそのまま内壁に残した書斎がある。ソファで本を読むのも良し、書斎から宗谷本線を眺めるのも良し、星野さんや鶴さんと、美深談議を楽しむのも良し。提案されずとも、過ごし方が何通りも思い浮かぶ。

美深産食材の物語を耳にしながら、料理をいただく

美深に住んで日が浅いはずの2人だが、それを感じさせないほど美深通。そのアンテナは、鶴さん手作りの食事にも活きている。夕食のコース料理には、小麦粉や蜂蜜、ジャガイモなど美深産の食材がふんだんに使われる。「この蜂蜜は、蜂と日本全国を渡り歩いていて、夏は美深を拠点にしている養蜂家さんのものでね…」と、一つひとつの食材の物語を聞くと、より一層食卓が輝いて見える。宿で過ごしていると、2人がこの地で感じている魅力が、じわじわと伝わってくる。またいつか、青い星通信社の重い扉を開いたら、この土地の魅力にさらに引き込まれてしまうだろうと、容易に想像できるから不思議だ。

(取材時期 2019年10月25日)

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スロウな旅北海道⑩

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