池田町で学習塾「さくら塾」を開いている片山喜博さんが、この地にやってきたのは2018年のこと。中学校の教員として約10年、道東や道南などで教鞭をとった後、独立の地として選んだのが池田町だった。
「ここと決めた場所はなかったので、地域に学習塾がなくて、移住にあまりお金がかからなさそうなところを探していました。」池田町には、小・中・高等学校がありながらも当時学習塾は1軒もなく、移住のための補助金も手厚かった。さらに羅臼にいた頃、大雪で家が埋もれてしまった経験をした片山さんにとって、池田町の降雪量の少なさも魅力的だった。
移住するにあたり、特にビジネスを始めようと思っている人ほど、地元の人々のリアクションは気になるところ。片山さんも初めは心配していたそうだが「池田町は移住してくる若い世代も多くて、皆さんが元気に活躍しています。よそ者だからと排除する空気が一切なくて、受け入れてくれているのを感じます」と話す。学習塾を始めた当初は赤字も覚悟していたが、1人、2人と生徒が入ってくると自然と後が続き、一年目から目標をクリアできたという。
現在片山さんは塾を主催する傍ら、「さくら書房」という古本・新刊・文房具・駄菓子を扱うお店を営んでいる。塾では子どもたちとしか触れ合えないが、店を起点に、地域のあらゆる世代の人たちとの交流の輪が広がった。その輪の中で、時には子どもたちとお祭りで出店をしたり、イベントを企画したり、塾という枠の外で一緒に活動することも。勉強一辺倒の進学塾では考えられない、「町」という広いフィールドでのあらゆる体験。子どもたちに、塾での学習では得ることのできない、豊かな成長機会を提供したいという片山さん。これからも地域の人たちとさまざまな企画を行っていく予定だ。
「何かしたい」と思ったら、町内にそれを叶える人材や業者が揃っている。「〇〇できるところはありますか?と聞くと、すぐに教えてもらえるのが小さな町のいいところですね。生活する上で困ることは全くありませんでした。」にこやかな笑顔の裏に、強い信念を感じる片山さんのチャレンジは、これからも続いていく。