豊かな自然と人との縁。仕事も子育ても楽しくてしょうがない〈EZO LEATHER WORKS〉

なりたい自分になる。子どもたちと一緒に、一つひとつ成長していきたい。長谷耕平さんは猟師、革職人、ログビルダーなど、さまざまな仕事をしながら暮らしています。妻の真澄さんは2人の子どもたちをのびのびと育てながら、耕平さんを支えています。池田町という土地の豊かさを存分に吸収しながら毎日を過ごす、長谷さん一家を訪ねました。

Shop Data

EZO LEATHER WORKS
住所 池田町清見163-12
電話番号 015-578-7256
URL https://ezoleatherworks.com/

猟師、革職人、ログビルダーとして山に感謝。

群馬県でログハウスの大工として修行を積んでいた長谷耕平さん。5年ほど経ち、一人で建てられる技術を習得した頃、東京で開催された北海道移住フェアで、町の移住協議会のメンバーでもある赤坂正さん(赤坂建設株式会社 代表)と出会ったことが縁のはじまり。地域おこし協力隊として、エゾシカの駆除にかかわる仕事を募集していると聞いた耕平さん。10代の頃、星野道夫の「ノーザンライツ」を読み、自然とともに生きるネイティブインディアンの姿に憧れ、狩猟に関心をもった少年時代。以来ずっと心の片隅にあった、長年の夢にチャレンジする機会が巡ってきたのです。

念願叶って、猟師としての一歩を切るべく池田町に移住したのは2016年。仕事をする傍ら、狩猟免許を取得し、ハンターとしての活動をスタートさせました。エゾシカの狩猟を始めると、気になったのは廃棄されるだけの皮のこと。天敵だったエゾオオカミが絶滅して以降、個体数を増やしているエゾシカ。崩れた生態系のバランスによって、森林の荒廃や農業被害などが引き起こされ、人間社会との軋轢が生じていました。エゾシカの個体数をコントロールするために行われている有害鳥獣駆除ですが、撃たれた後はそのまま廃棄されてしまうことがほとんど。ジビエの人気が高まるとともに、肉の加工については広がりを見せていますが、まだまだ皮は捨てられるだけ。そんな現状を見かねて、耕平さんは自ら加工を始めます。仕留めたエゾシカの皮を自分の手で、あるいは道外の業者に委託してなめし、全国の職人と協力して革小物を制作・販売する「EZO LEATHER WORKS」を立ち上げました。

D型倉庫内には住居スペースのトレーラーハウスや作業場、革製品の展示スペースがあります。

EZO LEATHER WORKSの製品には、1点ごとにQRコードが記載されているカードがついています。QRコードにはGPSの座標情報が。製品に使われたエゾシカがどこで撃たれかものかを示しています。一般的には知る機会のほとんどない情報です。「エゾシカの一生と、その物語を感じてもらえるきっかけになれば」。エゾシカ1匹1匹の生命をいただいているという、いきものへの感謝の念を大切にしている耕平さんの思いが込められています。

近年は猟師や革職人としてだけでなく、ログハウスの大工の仕事も行っています。遠方からも声がかかるようになり、近年ではログハウス建築だけでなく、サウナ製作や店舗内装なども手掛けており、耕平さんのフィールドはどんどん広がっています。「どの仕事も実は山を起点に複合的につながっているんです」。建築資材に使われる木材も、エゾシカも、自然が育む生命の恵み。常に山と共にあり、山に感謝しながら生きる耕平さんのあり方は、幼い頃に憧れた星野道夫の生き方に重なってきているように思いました。

作業スペースにはエゾシカの角がたくさん。

地域の先輩たちのおかげで、居心地は良くなる一方。

知り合いもいない見知らぬ土地での生活。妻の真澄さんにとって欠かせない存在となったのが、同じフラダンス教室に参加しているおばあちゃんたちでした。子育てのこと、北海道の味つけや漬物の漬け方など料理のこと、池田のまちのこと。人生の大先輩から暮らしの一つひとつを教えてもらったそう。住めば住むほど深まる人との縁。「池田町での暮らしは、居心地は良くなる一方」と真澄さんは話します。

何事にも全力投球な真澄さんが、今のめり込んでいるのが子育てです。「もともと料理を仕事にしていたので、いずれカフェとかもやりたいんですけど、今は子育てにハマっています」。小学1年生の李咲くんと3歳の掌くんと共に、自家菜園で野菜を育てたり、近くの森や川へ遊びに行ったり。時には耕平さんの狩猟に同行し、家族4人で山に入ることもあるとか。「父親が仕事をする姿を見せたい。生命の恵みをいただいて生きていることを知ってほしい」。親としての真澄さんの願いに、子どもたちは撃たれたシカの前でじっと手を合わせることで応えてくれたそうです。子どもたちと体験するあらゆることが新鮮でワクワクする。子育てを思いっきり満喫し、子どもたちと一緒に一歩ずつ前に進んでいる真澄さん。パッと弾けるような笑顔が印象的でした。

池田町に移住し6年。地域の人たちと築いてきた人の輪は、もっと深く、さらに広がりつつあります。「いろいろな時間が本当に豊かなんです。町の人にどんどん恩返しをしていきたい」と真澄さん。長谷さん一家のいけだ暮らしは、より豊かなものになっていくに違いないと感じました。

李咲くんのランドセルは耕平さんが捕獲したエゾシカの革で作ったお手製の品。李咲くんが同行した猟で獲ったものから作りました。

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。