日高管内唯一の自然湖である豊似湖。上空から見るとハート形をしていることで有名ですが、周辺の豊かな自然も大きな魅力の一つ。湖を囲む森にはエゾナキウサギをはじめとする野生動物が暮らし、貴重な環境として保護されてきました。そんな大自然の中でリフレッシュしようと、豊似湖の畔を歩いてみることに。湖を眺めながらのコーヒータイムも挟みつつ、静かな湖畔の散策を楽しみました。(取材時期 2024年9月)
地域の人々の暮らしと共にあった豊似湖
スタート地点の駐車場で準備を整え、いざ出発。今回の散策はガイドの鈴木さんの案内してもらい行います。入口の看板には、湖の周辺で暮らす生き物たちの可愛らしいイラストが。ワクワクした気持ちと共に、森の中へ足を踏み入れます。
坂を上るとパッと視界が開け、豊似湖に到着しました。太陽の光を反射してきらきらと輝く水面に目を奪われます。ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んで、まずはその景色を堪能しました。
そしていよいよ散策をスタート。1kmの道のりを3時間ほどかけて歩いていきます。鈴木さんが教えてくれたところによると、豊似湖があるのは元々沢だった場所。山で土砂崩れが起きたことで土砂が流れ込み、水が堰き止められて湖になったと言います。大小さまざまな岩が転がっているのもそのためかと納得します。
そして地域の人々にとって、この豊似湖の自然は生活の一部でした。「今歩いているこの道は、かつて山で切り出した木を運ぶために使われていました。馬によって搬出していたようですね」と鈴木さん。整備されてはいるものの、所々が岩場になっており、歩きやすいとはいえない道。ここを通って重たい木材を運んでいたと考えると、そのタフさに驚かされます。
足元に目を向けていると、今度は鈴木さんが対岸の山の頂上近くを指指します。「あそこには『猿留山道』と呼ばれる、北海道で最初にできた公道があります。江戸時代に作られてから、海沿いと内地を結ぶ連絡通路として使われていました」。風を利用して船を動かしていた当時、強風が吹き荒れる襟裳岬周辺はとても危険な海路でした。加えて逆風や海が荒れた日など、その日の状況によって船が停滞してしまうため、迅速に伝達することが難しくなってしまいます。そのため船ではなく人の脚で情報を伝達していたそう。
豊似湖と人々との関係性を知り、この大自然を上手に利用してきた当時の人々の逞しさを感じました。
鳥の鳴き声や木の実。森の中での発見を楽しみながら
順調に進んでいましたが、前日に降った雨で増水して先へ進めなかったため、引き返すことに。スタート地点の反対側にある、猿留山道の入り口を目指します。
平らで歩きやすい場所もあれば、大きな岩や急な傾斜も。ありのままの自然の中を、足元に気を付けながら歩みを進めます。
森の中ならではの発見もたくさんありました。時折聞こえてくる「アーオー」という独特な音は、アオバトの鳴き声。姿は見つけられませんでしたが、森に響く笛の音のような声に耳を澄ませます。森の奥からこちらを見る鹿の親子連れに出会ったり、足元に落ちていたくるみやどんぐりといった木の実を拾ったり。一つひとつ見つける度に足を止め、森がくれる楽しみを味わいます。
写真右/森に向かって鈴木さんが鹿笛を吹くと、鹿の鳴き声が返ってきました。
しばらくすると開けたスペースに出ました。大きなカツラの木がある、鈴木さんもおすすめの場所です。
このカツラの木の根元からは水が湧き出ていました。豊似湖は川と直接繋がっておらず、地下を通って水が出入りしている湖。そのため、ここが唯一の湖に水が流れ込んでいる様子が見られるスポットです。なんでも「この水を飲むと病に効く」という言い伝えまであるのだとか。川と繋がっていないにも関わらず水を絶やさないこの湖は、神秘的な場所として捉えられていたのかもしれません。
ドローンで「ハートレイク」の形を確かめて。
斜面を歩き、坂道を上って見晴らしの良い場所へ。目的地である、猿留山道の入り口へと辿り着きました。
「せっかくなので上空からも湖を見てみましょう」と、鈴木さんが取り出したのはドローン。機体が上空へと飛び立ち、しばらくしてその姿が見えなくなると、鈴木さんの手元のモニターにくっきりとハート型の湖が映りました。
湖畔を歩いているだけではわからない、湖の輪郭。ここまでの道が本当にハートを形作っていることを実感し、自然が生み出した偶然に驚きます。
湖を眺めながらのカフェタイムで、1日を振り返って
来た道を戻り、最後にお待ちかねのカフェタイム。木の根っこに腰を下ろして、コーヒーとおやつをいただきました。この日のおやつはえりも町の老舗「うえき和洋菓子店」の「ハート湖ふわブッセ」。豊似湖をイメージした、可愛らしく柔らかい食感のお菓子です。
夕暮れ時の静かな湖を眺めながら、ほっとひと息。凛とした空気の中でいただくコーヒーとお菓子は格別のおいしさです。心地良い疲れも感じて、この散策が充実したものだったことを実感します。
写真では何度も見たことがあった豊似湖。その畔を歩いてみると、上空からの景色では気づけない、とても豊かな自然が広がっていました。きらきらと輝く湖、原生林ならではのさまざまな木々が混ざった森、時折響く鳥の鳴き声…。歩きやすい道ばかりではありませんが、その分、自然が持つ静けさと険しさの両方を味わうことができました。
加えて鈴木さんのガイドのおかげで、豊似湖にまつわるエピソードを知ったり、自分では気づけない森の魅力を発見することもできました。豊似湖は自由に散策可能ですが、森歩き初心者の人や豊似湖について深く知りたい場合には、ガイドツアーに参加するのがおすすめです。ガイドのお問合せは、090-1372-8930もしくはasuzuki.erimo.crcs@gmail.com(えりも町地域おこし協力隊 鈴木亜室)まで。
秋が深まれば紅葉も進み、違った姿を見せてくれる豊似湖。季節を変えて、また訪れてみたいと思います。
「ハートレイク」の愛称が有名な豊似湖ですが、馬の蹄に似ていることから地元では「馬蹄湖」とも呼ばれているそう。言い伝えもいくつかあったりと、地域と豊似湖との結びつきはまだまだ気になるところです!