花が咲き、野鳥がさえずる楽園へ・初夏の草原編〈小清水町〉

長い冬を越えて、生命力にあふれる初夏の北海道。短い夏を心ゆくまで味わいたくて、小清水町でバードウォッチングツアーに参加してきました。鮮やかに咲き誇る初夏の花々、この季節を謳歌するようにさえずる野鳥たち。ガイドの湯浅さんや参加者の皆さんと歩く中で、「ひとりでは見落としてしまいそうな自然の営み」に触れることができました。この記事ではそんな一日の様子と、小清水の野鳥情報をお伝えします。※野鳥の写真提供/小清水観光協会(取材時期 2024年6月)

Spot.1 小清水原生花園

青空に恵まれ、海風が吹き抜ける朝。最初の目的地は、オホーツク海と濤沸(とうふつ)湖に挟まれて細長く伸びる「小清水原生花園」です。小高い丘になっているこの場所は、遠い昔は海だったところ。砂が堆積したことで砂丘となり、その上に自然の花畑が広がっています。この日はエゾキスゲやエゾスカシユリ、ハマナスなどの花々が鮮やかに咲いていました。「原生花園=花を楽しむ場所」というイメージでしたが、実は「野鳥たちの楽園」でもあるそうです。花に集まる虫は野鳥たちの栄養源に、茎にトゲがあるハマナスなどの植物は外敵から身を隠す住処に。つまり、花が咲くということは、野鳥たちにとっても住みやすい環境でもあるのです。

写真左/鮮やかなレモン色が広がるエゾキスゲの群生は、6~7月が見頃です。
写真右/エゾスカシユリに集まるエゾシロチョウ。花粉を運び、時には繁殖期の野鳥の貴重なたんぱく源(餌)にもなっています。

緩やかな傾斜を歩いて展覧ヶ丘展望台に到着すると、四方八方から野鳥たちの鳴き声が聞こえてきました。草原性の鳥はわかりやすいソングスポット(鳥がよくとまってさえずる場所)でさえずっていることが多いそうですが、初心者の目には、ただただ草原が広がっているようで、どこに鳥がとまっているのかもわかりません。湯浅さんが教えてくれる方向に双眼鏡を覗いてみると、風に揺られる草木の上にホオアカの姿が見えました。名前のとおり頬が赤っぽく、黒と赤褐色の首飾りのような模様が特徴の野鳥です。風の音に負けじと、さえずりを繰り返していました。

※草原性の鳥は森林性の鳥に比べると、低木や草の茎にとまっていることが多く見つけやすいという特徴があります。

野鳥の賑やかな鳴き声に耳を傾けていると、「ジッジッジッ」という音が繰り返し聞こえてきました。これはノビタキの鳴き声です。目線を上げて鳴き声がする方向に目を凝らすと、ハマナスの低木のてっぺんにとまって鳴いているノビタキがいました。ちょんと飛び出た茎の上や牧柵の上など、人からも見えやすい場所にとまる習性があるそうです。すぐに飛び立つ気配がなかったため、双眼鏡より何倍も倍率が高いスコープ(望遠鏡)で覗いてみると、ノビタキの羽毛1本1本が確認できるほどはっきりと観察できました。一見地味に見える野鳥でも、それぞれの模様や仕草は実に個性豊か。じっくり観察するうちに、その愛くるしさに惹きつけられてしまいました。

この日は、ほかにも木の枝にとまって尾羽をくるくる回すモズや、数羽の群れで空を切るように羽ばたくアマツバメを観察できました。草木の中に身を潜めるシマセンニュウには出会うことができませんでしたが、「ジョビ、ジョビ、ジョビ」という鳴き声を聞くことができました。鳥の鳴き声の聞こえ方は人それぞれ。姿が見えない分、草木の中の世界への想像が広がります。そして、どんな野鳥に出会えるかはその時々のお楽しみ。こちらのことなどお構いなしに、自由に生きる野鳥との出会いこそがバードウォッチングの魅力なのかもしれません。

Spot.2 木道(濤沸湖周辺)

次のスポットは、小清水原生花園から道路を渡った先にある「木道」。濤沸湖は海水と淡水が混ざり合う汽水湖で、渡り鳥たちの重要な飛来地であることからラムサール条約にも登録されています。湖周辺にある木道からは、濤沸湖周辺の花や野鳥を観察することができます。

湿地性のヒオウギアヤメが群生し、満開を迎える6月下旬には薄紫色の花畑が広がります。

木道を歩いていると早速、「ズビャーク、ズビャーク」と、しわがれた大きな鳴き声が聞こえてきました。こちらは、オオジシギの鳴き声です。どうやら草木に紛れて地面で鳴いているようです。

土の中にいるミミズを捕まえるのに役立つ、長いくちばしが特徴のオオジシギ。

さえずりに耳を澄まし、地面のほうに目を凝らしているとき、頭の上を大きな野鳥が1羽、遠くの空に飛んでいきました。オジロワシです。大きな翼で力強く羽ばたく姿は、今日観察したどの野鳥よりも迫力があり、予想していなかった突然の出会いに胸が高鳴りました。

少しずつ小さくなるオジロワシを双眼鏡で追っていると、空から「ズビャーク、ズビャーク」という鳴き声が聞こえてきました。草木の下にいたオオジシギが空高く舞い上がったのです。かと思うと、今度は「ゴゴゴゴ」と音を立てながら急降下。これは主に早朝に見られる求愛行動で、この音から別名「雷シギ」とも呼ばれているそうです。鳴き声を聞いて期待を膨らませていたこともあり、出会えた感動が大きく押し寄せてきました。特徴的な長いくちばしも観察することができて大満足です。

一日の終わりに

花に癒やされるのはもちろん、野鳥たちの個性や愛らしさ、そしてそこに生息する虫たちについても焦点を当てることができ、目の前に広がる自然がぐっと豊かに見えるような一日となりました。体験の終わりに、湯浅さんが「ちょっとした自然があれば、気軽にできるのがバードウォッチング」という話をしてくれました。原生花園のようなスポットだけでなく、近所の公園や散歩道でもきっとたくさんの野鳥に出会えるはず。小さな自然の営みは、身近な場所にあふれているのかもしれません。これからそんな視点を持って、身の回りの自然に目を向けていきたいです。

小清水ツーリストセンターでは、野鳥の情報はもちろん、バードウォッチングを楽しむためのアイテムや、小清水町で出合える野鳥グッズを購入することができます。小清水町に訪れる際は、ぜひ立ち寄ってみてください。


小清水町は、一年を通してバードウォッチングが楽しめるまち。冬、真っ白な森の中、野鳥に癒やされた物語を公開しているので、ぜひ覗いてみてくださいね。
スロウ日和編集部

小清水町の初心者向けバードウォッチングツアーの情報は、小清水観光協会のWebサイトをご覧ください。5~7月の夏期は早朝ツアーも催行しています。

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。