誠実で行動力のある、農家4年生〈坪井ファーム〉

坪井秀貴さんは岡山県倉敷市、紀子さんは北海道苫小牧市出身。2人は京都で大学在学中に出会う。

会社員として働いていた秀貴さん。「農業をやりたい」と妻の紀子さんに打ち明け、夫妻で仕事を辞めて北海道へ。2年間の研修を経て2014年春に就農しました。きゅうりとアスパラを主力商品に、年々規模拡大。子育てと両立しながら、チャレンジを続けています。(取材時期/2017年7月)

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坪井ファーム
住所 長沼町東3線北11番地
URL https://www.facebook.com/tsuboi.farm/

家とビニールハウスを繋ぐのはこの砂利道。車通りはほとんどなく、子どもたちも自由に遊べるという。少し上から眺めるロケーションも抜群だ。

収益性の高いきゅうりでチャレンジ

真夏日が続き、北海道にとって歴史的な夏となった2017年7月。太陽の光がまぶしく降り注ぐ中、坪井ファームを訪れた。就農4年目、まだ新米農家かと思いきや、敷地内に立ち並ぶビニールハウスは15棟。主力商品のきゅうりは今年の暑さの影響もあって一日5千〜8千本を収穫するという。坪井さんの農業が軌道に乗り始めたのは、長沼で先に農業を始めていた先輩農家のアドバイスに真摯に耳を傾け、実行してきたから。誠実さと行動力が坪井夫妻の強みなのだ。

「北海道で農業をやってみたい」という秀貴さんが最初にインターネットで探し当てたのは、長沼町内で10数年前に新規就農をした押谷農園だった。「ほかの農家が休んでいるときに働きなさい」。押谷さんはいつだって甘い話はしない。2年間の研修で、2人は押谷さんの教えを素直に吸収した。ハウスを年間3〜4棟建てること、国の就農支援金のリミットである5年以内に経営を安定させること。実際に坪井さんは就農1年目に4棟、2年目に5棟、3年目に6棟、計15棟のハウスを建てた。

師匠の押谷行彦さん(写真左)

また、主力商品のきゅうりは元々作る予定はなかったものだ。「新規就農者は収益性が高いきゅうりに取り組んだほうがいい」。そう教えてくれたのは2人が「お母さん」と慕う、町内の農家10軒を取りまとめるグループのリーダーだ。今ではこのグループを通じて、札幌圏の取引先にきゅうりを毎日出荷している。教えを守り、目標の少し上までやってみる。達成感に満ちたメンタルをさらに奮い立たせるのは簡単ではないが、この「少し上」というのがミソなのだ。

規模拡大は子育てと両立しながら

1日8千本のきゅうりを出荷するには、夫婦2人の力だけでは到底間に合わない。就農して辛かったことを紀子さんに尋ねると、きゅうりの収穫と子育ての両立をあげて「体力も根性もあるほうだと思っていたけれど、さすがに疲れてしまった」と振り返る。

きゅうりの収穫は朝が早い。朝4時半に起きて1回目の収穫、家に戻って子どもたちを起こして、朝食を食べさせて保育所に車で送り、選別作業を経て、2回目の収穫、子どもの迎え、夕食という体力的にも厳しいスケジュールだ。そんな中で活躍してくれているのが、紀子さんが子育て支援センターで知り合った友人たち。きゅうりの選別バイトに来てくれている同世代の女性が5人いる。「移住したばかりの頃、知り合いがいないので支援センターに通い詰めたんです。そこからつながって」。支援センター、保育所など長沼の子育て環境に助けられながらの毎日だ。6歳と3歳の子どもたちは月曜から土曜まで保育所に通っている。熱が出たり、具合が悪くなったときは一日108円で町内の小児科で預かってもらえるシステムもある。

お昼を過ぎると集まってくるアルバイトの女性たち。30℃を軽く超えたこの日も淡々と選別や袋詰めの作業を行っていた。

家族4人が生活しているのは築50年の中古住宅。就農当初、家はボロボロ、敷地内は木や笹やぶだらけで、紀子さんは「こんなところに住めない!」と泣いたそう。結局、家は秀貴さんが自らの手でフルリフォームをした。1年目は敷地内の草刈りを並行しながらとうもろこしを作り、2年目からきゅうりとアスパラ。4年目の今年は、植えてから収穫まで3年かかるアスパラを初めて収穫することができた。今後伸ばしていきたい商品は、個人向けギフトの要が高いアスパラだという。

そして、もうひとつの目標が、ゲストハウスを兼ねた家を建てること。「僕は無理を言って農業をやりたいという夢を叶えさせてもらったから。次は妻の番です」という秀貴さん。子どもが小学校を卒業するまでに、と期限を教えてくれたが、2人なら案外早く実現させてしまうかもしれない。

取材当時は6歳と3歳だった長男と次男。現在、10歳と7歳となり、3歳の弟もいる。(写真提供/坪井紀子さん)

長沼には農業を始めたいという人がやってくる。坪井ファームにも新規就農を夢見る大阪の青年がアルバイトに来ているという。農業には農地が必要なので、全員をすぐに受け入れることはできない。運とタイミングが重要だが、それでも長沼には人が集まってくる。これは度量の大きい先駆者たちと根性のある後輩たちの「本気」から生まれたものなのだ。

この記事の掲載号

北海道空知 移住の本 りくらす vol.2

空知地方は南北に長く、それぞれに個性豊かな24の市町がある地域です。空知に移住を果たした人たちの、リアルな暮らしの声は、これから移住を考えている人の指針にもなるようなことばかりです。

この記事を書いた人

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猿渡亜美

剣山がきれいに見える十勝の山奥で、牛と猫とキツネと一緒に育ちました。やると決めたらグングン進んでいくタイプ。明治以降の歴史や伝統に心を揺さぶられ続けています。