ガラス作家の夫と、陶芸家の妻。富良野市麓郷にアトリエを構え、夫婦で創作活動を行うのはアトリエマブチの馬渕永悟さんと理絵さんです。眺めるうちにどことなく優しい気持ちにさせてくれる、2人の作品。使う素材や作っているものは異なるのに、ふんわりと包み込むような温かさを同じように感じられるのだから不思議です。そんな作品の生まれる場所を訪ねました。(取材時期/2020年6月)
Shop Data
atelier Mabuchi
URL https://www.ateliermabuchi.com/
ガラス作家と陶芸家が出会ったとき
小ぶりのグラスに、キンと冷えた麦茶。それは、毎年夏になると本誌前編集長の家で供される一杯。
女性の手にもほど良く馴染むサイズで、ガラスの薄さもちょうどいい感じ。ひと口飲むと心底リラックスできるのは、さりげなくグラスに施された、繊細な模様のせいかもしれない。
プツプツプツ…ソーダ水のような大小さまざまな泡が、ストライプになっていたり、螺旋を描いたり。涼しげな印象も与えてくれるアトリエマブチのグラスを作るのは、ガラス作家の馬渕永悟さん。愛知県で生まれ、愛知教育大学在学中に基礎を学び、その後、石川県の金沢卯辰山工芸工房に通う。そこは、金沢の伝統工芸を継承するべく設立された、漆芸や金工などの担い手も育てる場所。馬渕さんはここで、陶芸を学ぶ理絵さんに出会った。
札幌市出身の理絵さんは、札幌市立高等専門学校(現・札幌市立大学)の工芸コースで基礎的な陶芸の技術を習得、ものづくりの道を目指した。
ポツンポツン…雨粒のような点々や、桜、山吹、藤などの植物を思わせるやわらかい色と柄が、コロンとした磁器の上に弾むように描かれている。幾何学模様が楽しいブローチは、見方次第で、花や山に見えたり、田園風景に感じられてきたり。2つの作品には、そんな優しさと温かさが共通しているように思える。
ふんわりとやさしさに包んでくれる2人の作品
2人の工房は、アパートの一室。あるのは小さな電気窯がひとつと、背中合わせに置かれた机がふたつ。ここに引越ししてきてからリサイクルセンターで購入したという、がっしりとした学習机。永悟さんの机にはガラスのパーツと、壁には趣味の釣竿が。理絵さんの机には制作中の作品と、作品のトーンに合った色合いのポスターやポストカードが並ぶ。家族として暮らしながらも、それぞれの作家性が際立つ作品は、紛れもなくこの場所から生まれているのだ。
「ガラスは残るもの。作るからには、納得のいくものにしないと」と語る、永悟さん。農業にも携わり、「生長する作物のエネルギーが、ものづくりの源になっています」と教えてくれる、理絵さん。2人の作品が揃うアトリエマブチは、2013年にスタート。富良野の豊かな自然の中で、現在は2人の女の子(9歳と5歳)を育てながら、コツコツと制作を続けている。
丁寧に作られた、永悟さんと理絵さんの作品たちは、素材もアイテムも異なるけれど、並べて眺めると、まるで共鳴しているかのよう。そして、毎日の生活に、そっと優しく温かい気持ちを添えてくれるのだ。
馬渕さんより。2022年6月にオープンした南富良野の新しいホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道南富良野」さんのロビーに、私たちの作品を置いていただいています!金山湖をイメージしてそれぞれの素材で作った一点ものの作品です。近くへ行かれた際は、ぜひご覧くださいね。
この記事の掲載号
northernstyle スロウ64号
「手紙に添えて」
コロナ禍を受けて。届けたい足元の豊かさ、今、変わらない思い、気づいたこと、考えたこと。変えていこうとしていることを綴った手紙。