穏やかに、軽やかに、暮らしを彩る amamuëkleの甘いもの。

文句なしに可愛い! その上、身体に優しい植物性原料。まるで「我慢しなくていいよ」と誘惑しているかのようなその焼き菓子は、音更町の民家の工房から届けられていました。子どもも大人も女性も男性も、アマムエクルの甘いお菓子を食べたなら、ちょっと幸せ、ちょっと健康になれる…かもしれません。(取材時期/2013年6月)

Shop Data

amamuëkle【アマムエクル】
住所 音更町木野西通19-23
電話番号 0155-67-8047
※店頭販売の詳細については、HPを参照するか、直接お問い合わせ下さい。
URL http://www.amamuekle.jp

心がときめくアマムエクルのお菓子

小さいもの、カラフルなもの、丸いもの、甘いもの。何故だろう、理屈抜きで心がキュッと掴まれるような、そんなときめきを感じてしまうのは。

初めてこのお菓子を見たのは、小さな雑貨屋でのイベントだった。可愛らしいアンティークのガラス棚に並ぶコロコロとしたその見た目に、食べる前からひと目惚れをしてしまった。きっと、根っからの甘党でなくたって誰もが、この色とりどりの姿を見たなら、心がワクワクするのを感じるはず。

アマムエクルのお菓子たちが生み出されているのは、音更町にある、ごく普通の民家の中、そこにある小さな工房(と言ってもちょっと広めのキッチンといった体)だ。ネット販売がメインで、工房の玄関先の小さなスペースと、一部店舗での委託販売の他には決まった販売先はなく、主に受注生産で製造を続けている。

作り手は、岩本大介さんと、妻の朋子さん。大介さんがお菓子の製造を、朋子さんがパッケージやショップカードのデザインを担当している。

2人の息子が部屋の中を元気よく走り回る中、鮮やかな赤い壁が印象的な工房で作られるお菓子は、全部で15種類。これらを店で見かけた人は、きっとまず、その中身のカラフルさと、シンプルかつ目を引くパッケージに足が止まるはず。そして手に取ってよーく見て、くず粉を使ったクッキーや、米粉のガトーショコラなど、日頃あまり見かけないラインナップにちょっと驚き、興味をそそられる。

カラフルな仕上がりの秘密は、紫芋やかぼちゃ、抹茶など色の綺麗な素材を使用し、かつ色の鮮やかさを失わない絶妙な焼き加減を意識しているから。さらに特筆すべきは、今開発中の物も含め、お菓子がすべて、植物性の原材料からできているということ。乳製品や卵はもちろんのこと、白砂糖も一切使っていない。実はこれらのお菓子、商品化するまでに4年の歳月を費やしたという苦労の成果。

そもそも「株式会社sorato(ソラト)」としてデザインやイラストレーション、そして音楽制作などを行っていた岩本夫妻がお菓子作りに乗り出したのは、今からおよそ6年前のこと。互いに在宅で仕事をしてきたこともあり、暮らしについて思いを巡らす機会が多く、結婚後は特に、「衣・食・住」について考えるようになっていたという夫妻。

「食材を選んだり、自炊をしたり、やろうと思えばきちんとできる環境にあったことが大きかったと思います」。これまでにやってきた仕事である、デザインを通したものづくりと、暮らしの核となる「食」をどうにかしてコラボレーションさせたいという思いを抱くようになった。

そんな中で出会ったのが、マクロビオティックのケーキやクッキー。一般的に植物性のもののみを使用するとされるマクロビオティックの食品に、ケーキやクッキーなどの焼き菓子が含まれていることに驚いたという大介さん。動物性のものを使わなくてもお菓子を作ることができるという事実は、夫妻にとっての好奇心の対象となった。

「初めから興味があったわけではないんですが、この先は食がキーワードになるだろうな~ってことはぼんやりと考えていて」。食に関わることをこの先の仕事にしていきたいと考え、その取っ掛かりとしてお菓子作りを選んでからは、長い長い試行錯誤の日々。まずはスタンダードな材料とレシピで作り、その後で、少しずつ材料を植物性のものに入れ替えていく。その繰り返し。「卵の代わりになるものは何だろうとか、牛乳の代わりになるものは何だろうとか、ひとつずつ考えて、その配合も変えながら作っていくんです」。

多少なりともお菓子作りをしたことのある人ならばきっと、卵や乳製品が入らない焼き菓子がどんなに珍しく、そして難しいことかはすぐに想像がつくことと思う。おそらくまったくの素人だったとしても、ケーキを膨らませるには卵やバターが欠かせないことくらいは想像できるだろう。マクロビオティックの世界には、動物性のものを使わない焼き菓子のレシピがいくつもあるようだが、たとえそれを参考にしたとしても、不可欠と思われている材料を別の(植物性の)もので代用するのだから、オリジナルレシピを作るのはたやすいことではない。

さらに、代用品とその配合を研究する一方で、大介さんにはどうしても実現したい目標があった。それは、植物性の焼き菓子を食べた際に感じる「物足りなさ」の解消だ。乳製品を使ったお菓子に慣れ親しんでいる私たちにとって、植物性の材料のみだと、味の面でどうしても物足りなさを感じてしまう。けれど「我慢はしたくなかった」と大介さん。自身を「ゆるい」ベジタリアンと称するだけあって、無理をして決まったものだけを食べたり、食べたいものを我慢したりするわけではなく、楽しく、ストレスなく続けられるような食生活を目指している。

だからこそアマムエクルのお菓子も、「植物性だから」「身体に優しいから」という理由だけで選ばれるのではなく、「味がおいしいから」「進んで食べたいから」という理由で選んでもらえるように、卵や乳製品を使った焼き菓子と比べて味や見た目に何ら遜色ないものを作れるまで、研究に研究を重ねたのだ。そうしてやっと納得のいくものができ、商品として販売を始めたのは、菓子作りを始めて4年後の、2011年夏のことだった。

ネットによる通信販売のみで、広告や宣伝を一切していなかったため、当初注文はそれほど多くはなかったという。けれど最近になって、口コミでゆっくりゆっくりと知れ渡るようになり、十勝管内の雑貨店でのイベントに出店したり、同じく管内の温泉ホテルの客室用茶菓子として使われたりと、その人気はじわじわと広まりつつある。

今でこそ仕事内容はお菓子作りがメインになっているが、大介さんは音楽制作の仕事も行ってきたため、もし構想が実現すれば、朋子さんが手がけるインテリアなどの空間作りのほか、店で流す音楽までも、総合的にプロデュースすることが可能なのだ。まずはその第一歩として2013年4月に始めたのが、工房の玄関先でのささやかな店頭販売。壁を塗ったり、棚を据え付けたり、まだ店舗とまでは言えないけれど、夢のための小さな足がかりとして、少しずつ行動を開始している。

実現について「何年先になるか分からないですけどね」と笑う大介さん、店舗オープンは大きな夢として話してくれたが、現在具体的に取り組んでいるのは「自家製チョコレートの開発」。チョコレートは一般的に、カカオの種子が原料となるカカオマスとココアバターに、砂糖やミルク、ほか様々な添加物を加えて作られている。

一方、現在開発中のチョコレートは、カカオマスとココアバターに、甜菜糖を加えて作るもの。乳製品を加えずに、いかに甘さとなめらかさを表現するか、そこが難しいところだ。すでに販売されている商品として、ナッツをチョコレートで薄くコーティングしたアマンドショコラがあり、楽しみにしている固定ファンも少なくないが、今後はもっとチョコレートをメインにした商品を作りたいのだそう。「箱に入って売られているような、ひと粒のショコラを作ることが目標。アマンドショコラの場合はチョコレートの量が少ないから大丈夫だけれど、ひと粒丸ごとチョコレートとなると、もう少し改善が必要なんです」。

岩本夫妻の話を聞いていて、終始感じたのは、この暮らしを楽しんでいるということ。動物性のものを一切使わないと聞き、初めに思い浮かんだのは「我慢」という言葉。けれど、2人の語り口からはそんな雰囲気は一切感じられなかった。「これしか食べない!」と決め込むのではなく、無理なく、楽しく、できる範囲で動物性のものを植物性のものへ変えていく暮らし。

そんな大介さんに、何故動物性のものを摂らないよう心がけるようになったのか質問しても、確たる答えは返ってこなかった。「身体にいいから?」「野菜が好きだから?」きっかけはいろいろあるのだろうけれど、4年も研究して作り上げたレシピに関しても、ニコニコ顔で「何でだろうな~、でも、できちゃうんです」なんていう姿を見ていると、何かを摂らないことで得られる見返りよりも、摂らずにどこまでできるか考えることを、2人は楽しんでいるのではないかと思えた。

当たり前のことだが、人は食べなければ生きていけない。「食べ物が人を作る」ということは、誰もがわかっていながら、好き嫌いや手間ひまを考えて疎かにしてしまう。健康的な食生活ほど手間がかかると考えている人も多いのではないだろうか。けれど、岩本夫妻の作り出すお菓子は、我慢とは無縁、むしろ積極的に選んで食べたいし、大切な人にも食べてもらいたい。

取材時期/2013年6月

岩本家の子どもたちももちろん、このお菓子を食べながら、すくすくと育っている。取材中ずっと賑やかに駆け回っていた5歳の一葉(ひとは)くんと3歳の楓(かえで)くんの手には、しっかりとくず粉のクッキーが握りしめられていた。「まっちゃ~、まっちゃ~」と食べたい味を主張したり、「1個ちょうだい」「やだ~」と今にも喧嘩が始まりそうな会話をしたり、この家の中でいつも繰り広げられているのだろうと想像がつく、微笑ましいやり取りが終始行われていた。

自分たちが満足できるように、無理せず健康に暮らせるように。そのためならば、手間は惜しまない。棚の上に並べられた焼き菓子の背景には、自身の暮らしを丁寧に考える家族の姿があった。その潔さすら感じる暮らしぶりは、小さく丸い、色とりどりのクッキーのように、軽やかで、心地良いものだった。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ十勝 vol.2
「十勝の暮らし、清らかな流れと共に」

十勝の豊かな資源を考えたとき、私たちの身近にあるのは風景としても美しい湖や豊かな生き物が住む川、おいしい食べ物を育む水でした。十勝の水にまつわる様々な物語をまとめてみました。

この記事を書いた人

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片山静香

雑誌『northern style スロウ』編集長。帯広生まれの釧路育ち。陶磁器が好きで、全国の窯元も訪ねています。趣味は白樺樹皮細工と木彫りの熊を彫ること。3児の母。