誰かの大切なものを、誰かに伝える仕事<cagicacco>

旭川市のデザイン事務所、カギカッコ。名刺、商品パッケージ、Webデザイン、カタログなど、仕事の範囲は多種多様。クライアント自身の物語、商品の物語。それらを伝えるための「ツール」としてのデザインの在り方を話してくれたのは、代表のゲンママコトさん。手がけるデザインには、たくさんの愛と幸せが詰まっています。

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デザイン事務所cagicacco【カギカッコ
住所 旭川市6条通7丁目31-24 YMS2F
電話番号 0166-73-6027
定休日 金~日曜日
URL http://cagicacco.jp
オリジナルフォント ゲンマさんは、愛娘のために特別なフォントを自作したそう! 可愛くてしかたがないんですね。

デザインを手がけた商品を前にカメラを向けたら、「面白いポーズをしたほうがいいですか?」とちょっと照れ笑いのゲンママコトさん。カギカッコは4人のチームで活動している。

ゲンマさんは考えた。自分はなにをやりたいのか?

カギカッコの代表、ゲンママコトさんは、軽やかに楽しげに自らの仕事について話してくれた。自分が本当にやりたいこと、生き方や暮らし方、仕事の仕方。彼は、それらをとことん考え、選択を積み重ねることの大切さを知っている人だ。

ゲンマさんは福岡県出身。東海大学旭川キャンパス(2014年閉校)のデザイン科に在学中、夢中になったのはカメラだった。大学近くのDPE屋(フィルム現像、焼き付けを行う店)の店主と親しくなり、機械の詳細な仕組みについても教えてもらったそう。仕組みを理解した上でいろいろな写真の撮り方を試すのが、「すごく面白かったんですよね」と声を弾ませる。写真そのものというよりは、無数の部品が組み合わさって出来上がった機械がさまざまに機能する点に魅力を感じていたようだ。

そんなゲンマさんが本格的にデザインを手がけるようになったのは就職後。ファッションテナントビルの企画を行う会社で店舗ディスプレイや店内サインなどを担当するようになり、ビル以外からも名刺やパンフレットの制作を引き受けるようになっていく。そして3年後には、デザイン事務所として独立を果たした。

しかし「次第につまらなくなってしまって」、数年で大手広告代理店に就職することに。「思えば、何も考えないまま流れで独立してしまったんですよね。せっかく独立したのに、独立前と同じことをやっているだけだった。寝る間もないほど忙しいかと思えば突然暇になったりして、収入も安定しない。『サラリーマンはいいなぁ』ってブーブー言って(笑)」。そうして再び、「条件のいい会社」で勤め始めたものの、結果として長くは続かなかったという。

「自分は何をやりたいのか」。ゲンマさんは改めて、根本的な思いと向き合うことになる。デザインの仕事を続けたい。だが、旭川で生計を立てられるほどの仕事があるのか。やはり、札幌に行くしかないか…。

所属する旭川クリエイターズクラブでデザインキャンプを企画したのは、ちょうどその頃。ゲンマさんのようなグラフィックデザイナーをはじめ、各分野で活躍する若手クリエイターとの交流を通して、「やっぱり旭川っていいな」という気持ちが強くなっていく。「一緒に盛り上がれる仲間がここにいる。そんな人たちに会える場所で仕事をしていたい」。

ただし、旭川だけで仕事を完結させるのは現実的でない。ならば、 “外”へ仕事を広げる方法を考えればいい。「自分は北海道に住んでいる。“北海道”って、それ自体がブランドですよね。だったら、北海道のものを“外”へ持って行くためにデザインの力を使おうと考えました」。

そして二度目の独立。一度目とは違い、自分が本当にやりたいことをやり続けるための挑戦。2010年、デザイン事務所カギカッコとして新しい一歩を踏み出した。

デザインは、目に見えない無数の情報を伝えるための武装

「デザインって武装みたいなもの」。ゲンマさんはデザインの役割を、そう表現する。味などの特徴はもちろん、商品の背景にある物語、生産地域のこと、作り手の思い。そうした、目には見えない無数の情報を「伝える」ことが、デザインの果たす役割のひとつ。加えて将来的な販売先や展開方法までも見据えた企画提案力こそ、カギカッコの持ち味だ。打ち合わせを通して、クライアントのやりたいことや目指すものを引き出し、それらを落とし込んでいく。

とはいえ、何をしたいかと聞かれて最初からはっきり答えられる人は少数派。ゲンマさんが時間をかけて自らのやりたいことに辿り着いたように、「打ち合わせを重ねながら、少しずつ方向性が見えてくる」ことのほうが圧倒的に多いそう。

カギカッコのメンバー。

だから、最初の相談内容と違うものが出来上がるのもよくあること。最近携わったという、深川市の納内(おさむない)という地域での仕事がまさにそれだ。

当初の依頼は、地元で手作りする三升漬けを特産品として売り出したいから、そのパッケージデザインを考えてほしいという内容。「この三升漬、すっごくおいしいんですよ!」とゲンマさんの笑顔が一層深まる。ただ、商品単体のパッケージをデザインしても、「地域の人たちが求めているもの」が本当に得られるのか、補助金がなくなった後も継続できるのかが疑問だった。

事例_深川市納内
包装紙を制作。「AWESOME! OSAMUNAI」。納内の驚きの魅力を表現。

そこで提案したのは、「納内という地域を知ってもらうシステムとしてデザインを用いる」というもの。商品を買ってくれた人に、地元の魅力を伝えるために採用したのは包装紙。そこには、「米がおいしい」、「高齢者が多い分、みんなで力を合わせて生活しています」といった住民が暮らしの中で見つけた納内の魅力を、笑顔の似顔絵と共に全面にデザインした。三升漬に限らずあらゆる商品をその包装紙でラッピングし、納内という地域のプラスのイメージを印象づけようというのだ。

こういった地域性の追求は、カギカッコのデザインの大きな特徴のひとつ。「その場所ならでは」という特別な価値は、他にはない個性となる。

“理由のある”デザインができるまで

実際のデザイン作業はどのように進められるのだろう? ゲンマさんからは、「とにかくひたすら考えています」というシンプルな答が返ってきた。納得のいくまで、考えに考え抜いた末に辿り着いた結論。それは、明確な理論に支えられた“理由のある”デザインだ。「何となくいいかも」という感覚的な曖昧さは、極力取り除かれる。

話を聞きながら、頭の中でカメラとデザインの話が繋がっていった。異なる役割を持った部品は、情報。それらが集まってできているカメラは、デザイン。それぞれの情報がどのように作用するかを把握しているからこそ、デザインはその機能を思う存分に発揮できる。それは説得力となって、クライアントや消費者に訴えかけえる力になるというわけだ。そこに、ゲンマさんらしい遊び心がエッセンスとして加えられる。

ここで気をつけるべきは、嘘をつかないこと。よく見せたいがために事実を捻じ曲げることは、作り手の「本気」に対してとても失礼なことだ。作り手の本気には、同じく本気で応える。そこには、ゲンマさんの真摯な愛情が感じられた。

いい仕事に必要なのは、時間と知恵

事務所にあったユニークな家具。恵庭を拠点に、荒巻鮭の箱を利用してユニークなプロダクトを生み出しているユニット「ARAMAKI」の作品。事務所ギャラリーで展示会を企画したこともある。

これからの時代の仕事の仕方についても、ゲンマさんは話してくれた。キーワードは田舎。「経済の中心からあえて距離を置くという考えが必要だと思うんです」。デザイン業界に限らず、仕事の中心は東京という考え方は、いまだ根強い。「理想は東京で地方はその劣化版、とか。東京でやれば予算が付いてこだわれるけれど、北海道ではある程度しかできない、とか。東京の大企業がクライアントだとすごい、とか」。ゲンマさんが挙げる例えは、きっと少なからぬ人が感じてきたことだろう。

しかし旭川を拠点に、主に小規模事業者と一緒に仕事をしてきたゲンマさんは、「時間と知恵があればいい仕事ができる」と言い切る。「東京と同じ土俵に立って、同じ軸で考える必要がない。それはかえって恵まれていると思うんです。おいしいものがたくさんあって、それはごく身近で生産されているもので、その価値を直接感じることができるのが北海道(田舎)。それってすごいことですよ! そういう価値あるものに仕事として携われて、その魅力をいろいろな地域の人に受け入れてもらえるのって、とても幸せで、すばらしいこと。東京で大企業を相手に働くのと同じか、それ以上の価値がある」。

ゲンマさんの言葉が、すっと心に入ってくる。郊外で仕事をしている人たちが、そんな風に自分の仕事に誇りを持てるようになったなら、現在の日本社会はより良い方向へ舵を切ることができるのではないだろうか。

みんなの大切なものに、「」をつける

カギカッコの名前は、車を運転していたときにふと思いついたもの。「カギカッコって、スペシャルなものでしょ。文章の中でそこだけ強調されるし、人が話した言葉に付けられる、コミュニケーションの記号」。

ゲンマさんは、言葉やコミュニケーションを大切にしたいという思いをその名前に託した。仕事で道内各地を訪れながら、「あちこちに「」を付けて回っているんですよ」とニヤリ。

ちなみに、通常カギカッコをローマ字表記するとkagikakko。「kをcにしたらコロコロしてて可愛いじゃん」と、cagicaccoに。字面から受ける印象もぐっと柔らかくなって、ゲンマさんの雰囲気にしっくりくる。

誰かにとっての大切なものにカギカッコを付けて、また別の誰かに伝えていく。そうして、誰かにとっての大切なものを、同じように大切だと感じる人がどんどん増えていく。そんな素敵な仕事が、ここ、北海道旭川で生まれている。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.63
「カヌーで辿る川のはなし」

「カヌーイストの聖地」と呼ばれる川がいくつもある北海道。豊かな自然、歴史や文化。さまざまな角度から北国のカヌーの魅力を伝える。

この記事を書いた人

家入明日美

家入明日美

火の国・熊本出身。野生動物の勉強がしたくて北海道へ移住し、自然のことを伝えたくてスロウ編集部に入る。馬とナキウサギ、やんちゃな飼い猫と怒髪天が心のオアシス。