石炭ストーブの上で、ぐつぐつ煮込んだがんがん鍋

豚ホルモンを中心に、ジャガイモ、大根、人参、ゴボウ、玉ねぎ…。ごった煮のように何でも入れて作る味噌味のホルモン鍋。赤平市ではこれをがんがん鍋と称して売り出しています。炭鉱の歴史や文化を見直そうというムーブメントから生まれたがんがん鍋。石炭ストーブをがんがん炊いて、がんがん煮込んで、がんがん食べて、がんがん語り、がんがん働く。古き良き時代の家庭料理の裾野が広がっています。(取材時期 2012年12月)

Shop Data

焼肉のたきもと
住所 赤平市茂尻中央町南1-7
電話番号 0125-32-2265
営業時間 17:00~22:00
定休日 火曜
URL http://www.akabira-takimoto.jp/

炭鉱時代の食文化を伝えるがんがん鍋

ここ数年、赤平の新しい名物料理としてすっかり定着した感のある「がんがん鍋」。豚ホルモン、豆腐、野菜などが入った、味噌味の鍋だ。ネーミングが新しいため、創作料理ではないかと思われる方も多いかもしれない。しかし、実はこの鍋、赤平が炭鉱で栄えていた頃の記憶を今に伝える、いわば炭鉱遺産料理とも言える存在なのである。

その昔、赤平では数多くの炭鉱マンが働いていた。危険と隣り合わせで体力の要る仕事である。そこで、手軽に精のつく料理としてよく作られていたのがホルモン鍋だった。赤平の各所にあった炭鉱長屋では、毎日のように石炭ストーブの上で各家庭思い思いのホルモン鍋が作られていた。大人数で鍋を囲むようなときには、一斗(いっと)缶を切って鍋として使ったこともあったらしい。素朴で北海道らしい食事風景が目に浮かんでくる。

「昔は“がんがん族”という言葉があったらしいですよ。ズリ山(商品にならない石炭を積み上げた山)には使えそうな石炭も混じっていて、それを拾って一斗缶に入れ、自宅に運んでいく人もいたんですね。自宅では石炭小屋から一斗缶で石炭を運ぶのは子どもの仕事。そんな活気にあふれていた時代を思い起こしながら、赤平をガンガンもっと元気にしなきゃ…。こじつけなんですけれど、そんな理由からがんがん鍋が誕生したんです」と、赤平がんがん鍋協議会事務局の植村真美さんは語る。

がんがん鍋誕生のきっかけは10 年近く昔にさかのぼる。2003年、赤平で国際鉱山ヒストリー会議が開催され、炭鉱の歴史、文化を見直そうというムーブメントに発展。そこから派生して「赤平の食を考える会」が誕生。翌年にはYAMAの唄「炭鉱節」全国大会が開かれ、そこで全国からのお客様に振舞ったのがホルモン鍋だった。がんがん鍋というネーミングが生まれたのもこの頃のことだ。ストーブをがんがん炊いて、がんがん煮込んで、がんがん食べて、がんがん語り、がんがん働く…。それががんがん鍋のモットーだそうだ。

会では赤平名物にしようと市内飲食店に働きかけていった。しかし、当初は「家庭料理だから…」と、反応は鈍かったと言う。わざわざ店で提供するような料理ではないと思われたらしい。それでも会のメンバーはイベントに出展するなど活発に活動を行っていく。そして、札幌で開催されているオータムフェストに出展するうちに、がんがん鍋の知名度は次第に高まっていった。こうした実績を積み重ね、2011年、植村さんと市内飲食店6店が中心となり、赤平がんがん鍋協議会が結成されることに。会の代表には「焼肉のたきもと」の滝本守さんが就任することとなった。

「がんがん鍋は昔はまかない飯のようなものだったなぁ。石炭ストーブの上でごった煮のように何でも入れて煮込んで食べていたんだよ。枝肉を扱っている肉屋さんもけっこうあって、どの家庭でもホルモンがよく食べられていた時代。うちでは以前はしょうゆ味の鍋だったんだけど、あるとき、一度味噌で食べてみるか…と。作ってみたらこれはいけるということになり、それから味噌味が定着したのさ」。そう滝本さんは振り返る。今でも家庭によってベースの味は異なるが、協議会では「味噌味のホルモン鍋」をがんがん鍋の定義としている。

滝本さんの作るがんがん鍋は、ひと言でいえば豚汁風のものである。最初にホルモンを2時間かけてよく煮込むのが焼肉のたきもと流。時間をかけて煮込むことで、ホルモンからダシが出て、何とも言えないうまみが感じられるのだ。ホルモンは苦手…という人もいるかもしれないが、滝本さんの作るがんがん鍋には、ホルモン特有の臭みがまったくといってよいほどない。そして、十分煮込まれたホルモンはビックリするほど柔らかいのだ。具にはジャガイモ、大根、人参、ゴボウ、玉ねぎ、コンニャクが使われる。ジャガイモは崩れやすいので、イモ団子にして加えられているのも特徴のひとつ。

イベントに出展することも多いため、焼肉のたきもとでは豚汁風に仕上げているが、一般家庭でがんがん鍋を楽しむ場合は、白菜や青菜などを使ってもよいだろう。協議会に参加している店には、それぞれ個性的ながんがん鍋が多い。ラーメンやうどんを入れている店もあるし、中にはカレー味という店も。味噌がベースになっていれば、これらのどれもがんがん鍋の一種なのだ。自分好みに自由にアレンジすることが出来るし、がんがん鍋を出しているお店を食べ歩いても飽きることはない。そんな自由さ、気安さも魅力のひとつといえそうだ。他にお互いの店のがんがん鍋を試食する勉強会も行っている。こうした継続的な取り組みが地域の伝統的な食文化を守るだけにとどまらず、広く普及、発展させていくことになるのだろう。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.34
「時を越えて、香る味噌」

各家庭、各地域それぞれに個性を持つ基礎調味料、味噌。老舗味噌蔵や郷土料理を通し、北海道と味噌の歴史をひも解く。

この記事を書いた人

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。