心の別荘となるサロン、グリーンアーチ

札幌市の西側、宮の森と呼ばれる地区に、ハーブの花が咲くアロマテラピーサロンがあります。50歳から夢を叶えたセラピスト、海老沼佳代子さんが教えてくれたのは、自身と向き合う大切さと、花やハーブのエネルギー、そして、地域を愛する気持ちでした。グリーンアーチは、誰かにとって、そして海老沼さんにとっても心の別荘となる場所なのです。

Shop Data

Green Arch(グリーンアーチ)
住所 札幌市中央区宮の森1条16丁目1-5
電話番号 090-9516-0147
定休日 不定休 ※完全予約制
URL https://green-a.shopinfo.jp
こんな時に行きたい
どうにも行き詰ってしまったとき

●topics 「ガーデンカフェ始めました」
コロナ禍でも、人混みを気にせずゆったり過ごせるようにと、90分間1組のみ(定員1~4名様)の予約制プライベートカフェ「ガーデンカフェ」が始まりました。30分~1時間の間隔を空けて、消毒、換気などを行っています。
オーダーメードハーブティー+季節のお勧めハーブティー+近所の美味しいパン+小さなお土産 \1,000
オプションメニューとしてアロマハンドトリートメント、チェアハンモックでフットバス、フェアリーオラクルカードもあり、それぞれ特別料金¥500で提供しています。

小さなアロマテラピーサロン、グリーンアーチ

「80歳になっても、ガーデンの花々に囲まれて、素敵なアロマセラピストとして働いていたい」。海老沼佳代子さんは、ふわりと包み込むような笑顔で、穏やかに話す。彼女は、ハーブの花がいっぱいに咲く小さなガーデンがある工房で、アロマテラピーサロンを営んでいる。

海老沼さんに話を聞いてみたいと思ったのは、2つの理由から。1つ目はその経歴。子育てを終えてからフローリストとしての道を究め、40代後半でアロマの道へ。50歳で札幌へ移住するまでの道のりに興味をそそられた。2つ目は、「お散歩マップ」の存在。可愛らしいイラストと共に、サロンの周辺にあるカフェやベーカリーなどが丁寧に紹介されている。サロンの情報よりも「ご近所さん」がいかに素敵かを伝える情報がメイン。地域を愛する気持ちが、何とも心地良い。

新緑が少しずつ色を濃くする6月のある日、可愛らしいハーブの花が咲き乱れる海老沼さんのガーデンを訪ねた。

30代後半から築いたキャリア

テーブルの上には、ミントや野イチゴなどを束ねた小さなブーケと、透き通る水色のハーブティー。「札幌は35歳のとき、夫の転勤がきっかけで10年ほど住んだ場所。大好きになって、東京に戻るときには悲しくて泣きました」。静かに話し始める海老沼さん。学生時代は美術の道を志すも、諦めざるを得なかったこと。24歳で結婚し、3人の子育てをする中で、自身の「夢」を忘れていたこと。そして、30代後半になってふと、湧き上がる「衝動」に気がついたこと。「私のサロンに初めてお越しになる方も、不思議と37歳くらいの方が多いんです。自分のこれからを考え始める時期が30代後半なんじゃないかって、そう思います」。

衝動に従った海老沼さんは、フローリストを目指す。「改めて自分の『軸』を考えたとき、昔から大好きだった花をライフワークにしたいと思って」。最初は、フラワーアレンジの教室へ。その後資格のスクールへ通い、5年かけて最高資格である一級教授免許を取得。まっしぐらにスキルを磨き上げ、42歳で札幌の花屋で教室を開講、半年後には店長に就任。その後夫の転勤で再度東京へ戻ってからは、「スーツを着て、数十万円するガラス花器に花を活ける」ような、業界の名店に勤めた。「どうしても働きたいと思えた店。『35歳まで』という募集条件を10歳以上過ぎていましたが(笑)、経験と熱意で採用してくれたのかな」。

パート代でスクールの月謝を捻出する日々から、花屋に勤め、徐々にステップアップしてきた10数年間。「最高に栄誉ある仕事」を任されるようになるまでの海老沼さんには、振り返れば驚くほどの行動力と、ブレない意志があった。

セラピストへの転向、もっと花と寄り添う日々へ

そしてさらなる転機が。日々のご褒美にと、近所のアロマテラピーサロンへ初めて足を運んだときのこと。「自分でも驚くほどの直感というか、強く衝き動かされるような気持ちを感じました」。大好きな花やハーブからエキスを抽出し、それらの恵みを人の手の温かさを介して伝え、心身をゆるめていく。植物のエネルギーに寄り添った世界。これこそが目指すべき次のステージだと確信した。

その頃の海老沼さんは、「四住期(しじゅうき)」という人生観を意識していた。これは古代インドの考え方で、0~24歳を「学生期」、25~49歳を「家住期」、50~74歳を「林住期」、75~ 90 歳を「遊行期」と位置づけるもの。「五木寛之さんの書籍に、『林住期こそ人生のピーク』という言葉がありました。50歳からは自分のために生きがいを求める時期だと。私も、50 歳からまた、わくわくすることに全力を尽くす期間にしたいと思ったんです」。

家族とは、離れて暮らす期間があっても大丈夫

アロマセラピストとしての新しいキャリアを決意した海老沼さんは、2年かけて資格を取得。下北沢にあった自宅の一室をサロンとして開業したのち、50歳のとき、家族と離れて札幌への移住を果たす。「札幌の、自然との近さや暮らしやすさが忘れられなくて。家族が一緒にいられない期間があっても、長い人生の一部と考えれば問題ないと思うんです」。

このサロンは、林住期の大きな挑戦だ。2008年の移住から10年が経つ今。60歳を過ぎた海老沼さんは、たくさんの花に囲まれた小さなサロンで、幸せを感じている。「70歳、80歳になってもずっと現役で、花を愛し、愛と喜びを届けられたら。それが私の幸せです」。

海老沼さんが30代後半にして手にした、自身と向き合う時間。人生を100年と考えれば、それはまったく遅くはない。「林住期」の50歳でさえ、まだまだ折り返し地点。「人生の後半も楽しめるんだって、若い方に、一歩踏み出す勇気を与えられたらいいな」。直感に従って行動し、自ら努力を重ねることで手にした世界の中で、今、穏やかに微笑む海老沼さん。その姿からは、歳を重ねることの楽しさと美しさがあふれている。

海老沼佳代子さん

「スロウ日和をみた」で、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」から心に響く言葉をお伝えします♪

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.63
「カヌーで辿る、川のはなし」

「カヌーイストの聖地」と呼ばれる川がいくつもある北海道。豊かな自然、歴史や文化。さまざまな角度から北国のカヌーの魅力を伝える。

この記事を書いた人

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片山静香

雑誌『northern style スロウ』編集長。帯広生まれの釧路育ち。陶磁器が好きで、全国の窯元も訪ねています。趣味は白樺樹皮細工と木彫りの熊を彫ること。3児の母。