〝縄文の丘〟がくれる安らぎをおすそ分け〈珈琲舎北こがね〉

縄文時代の人々が温暖な気候の中で、漁業を生業とし、豊かに暮らしていたとされる「北黄金貝塚」。その周辺に広がる穏やかな丘の上に、珈琲舎北こがねはあります。大きな窓からは、内浦湾、湧き水が流れる森などが織りなす長閑な風景を眺めつつ、店主の坂野弘美さんが淹れるコーヒーや手づくりのスコーンを味わえば、きっと心も凪いでいくでしょう。2013年のオープンから10年、「やっと、満足できる店になったかなぁ」というこれまでの物語を訪ねました。(取材時期 2023年7月)

Shop Data

珈琲舎北こがね
住所 伊達市北黄金町49-1730
電話番号 0142-82-3747
営業時間 10:00~17:00
定休日 火・水・木曜
URL
https://kitakogane.main.jp/

縄文時代の穏やかな暮らしに思いを馳せて。

穏やかな丘を下った先にあるのは、ホタテなどの貝類に恵まれた内浦湾、湧き水が流れる森、そして世界文化遺産にも指定された「北黄金貝塚」。縄文時代の人々が温暖な気候の中で、漁業を生業とし、豊かに暮らしていた場所らしい。そう聞いたとき、丘の風景を前にして浮かんだ「長閑」という言葉が、心の中でひとつ深まった気がした。

すべての席が大きな窓に向かって設置されており、風景を眺めながらゆったりと過ごすことができる。

大きな窓からは、店主の坂野弘美さんが「縄文の丘」と呼ぶ風景が一望できる。元々は、坂野さんが家族との時間を過ごすためのセカンドハウスだった場所。2006年、かつて親戚が暮らし、その後空き家になっていたところを縁あって譲り受けることに。それから週末の度に家族で通い、傷んでいた部分を手直ししつつ、バーベキューをしたり、思い思いに過ごしたり。「その時間がすっごく楽しくてね。来るだけで気持ちが満たされたんだ」。

写真右/『スコーン(写真はあずき)』と『こがねブレンド(500円)』。
写真左/『スモークサーモンサンド』。コッペパンは北海道産の小麦を使って坂野さんが手づくりしたもの。

当時暮らしていた小樽から生活の拠点を移し、カフェを始めるに至ったのは2013年頃のこと。「どうやってこの場所を見つけたのかよく聞かれるんだけど、〝たまたま〟だったわけでしょう。この幸運を独り占めしちゃいけないなぁ、ここで得られるパワーを共有していくのが自分の役割なんじゃないかって思うようになって」。

カフェを始めるにあたり、ひとつの指針となった言葉がある。小樽で通っていた店の社長がくれた「自分が行きたいと思う店をつくりなさい」という教えだ。仲間の協力を得て考えたメニュー、趣味で集めてきた北一硝子のガラスコレクション、伊達市の工務店が天然素材を中心に整えてくれたリビングスペース。すべては示し合わせていたかのように調和した。オープンしてすぐは手探りな部分も多かったが、10年が経った今、「やっと、満足できる店になったかなぁ」と語る坂野さんがいる。

「主役はあくまで、この場所だから。自分はマスターっていうよりも、この場所を維持する管理人って感じがしっくり来るよ」そう話す坂野さんの表情には、窓からの風景とお揃いの長閑さが浮かんでいた。

珈琲舎北こがね

ブログ「北黄金今昔物語」では、マスターが綴る開業後の物語を読むことができます!

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.76
「背景、湖畔より」

湖の側に身を置いて暮らしを営む人々を訪ねて。彼らがここで暮らす理由、生業、楽しみ方、それぞれの「ありのままの日々」を。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。