”長沼”を表現する、1棟貸しの宿〈MAOIQ〉

生い茂る木々、チラチラと揺れる木漏れ日を眺めながらまどろむ時間。針葉樹に降り積もる雪を前に、深く深呼吸をする時間。想像してみるだけで、スッと肩の力が抜けるような気がします。MAOIQには、そんな「時間」が流れています。小高い丘を上った林の中にある1棟貸しのバケーションハウスで過ごす、何てことのない、特別な時間。きっと誰しもに、「自分だけの時間」が必要なのでしょう。オーナーの武隈さんもまた、そんな時間を求めて長沼町へやって来た人でした。(取材時期 2022年1月)

Shop Data

MAOIQ(マオイク)
住所 長沼町加賀団体
電話 0123-76-9226 
URL https://maoiq.jp

※宿泊の詳細はHPからご確認ください 

オーナーの武隈洋輔さん。「MAOIQは、食材も飲食店も温泉も、なんでも揃っている長沼だからこそできたと思う。僕は皆さんが作るすばらしいものを集めているだけですから」。

移住者が創る、日常の圏外の空間

田園と山の風景が広がる長沼町の中でも、特に小高い丘の上にあるMAOIQは、1棟貸し切りのバケーションハウスだ。「日常の、圏外へ。」をコンセプトにしたこの宿泊施設を営むのが、武隈洋輔さん。2015年に住まいを札幌から長沼へ移し、2017年にMAOIQをオープンさせた。


移住のきっかけを作ったのは、何とジンギスカン。元々ジンギスカンが大好きで、各地の店を訪ねていたという武隈さんは、「長沼ジンギスカン」のおいしさに魅了され、町内の店に足繫く通っていた。中でもお気に入りは「成吉(じんきち)」。この店は町内の山側へ向かう坂道の途中にあり、そこから見下ろす町の風景がとても美しいのだそう。
長沼に何度も通ううち、ジンギスカンの味はもちろん、風景や町の雰囲気そのものにも少しずつ惹かれていった武隈さん。いつかは地方移住をと考えていたこともあり、暮らす場所として長沼町を意識するようになった。

MAOIQの建物。宿泊には長沼のパンやソーセージ、平飼い卵などと、オリジナルの自家焙煎珈琲の朝食セットが付いている。夏はウッドデッキで、冬は薪ストーブの前でいただく朝食は、素朴ながらとても贅沢。

住む場所を探しながら町内を巡っていた際に見つけたのが、現在MAOIQのある土地。売りに出ていたため気になってはいたものの、そのときすぐには購入しなかった。しかしそれから5年ほど経ち、春先にまたこの土地を訪れた際に、雪がなく、葉もない状態の見晴らしのいい風景に改めて心を奪われる武隈さんがいた。「やっぱりここがいい」。そうして武隈さんは、土地を手に入れた。


初めに建てたのが、現在MAOIQとして宿泊施設にしている建物。元々は武隈さんが暮らすための住居として新築した。ところがその完成から間を置かず、隣に建っていた住宅が空くという話が舞い込み、見に行ってみたところ、「すばらしい…」。長沼町に来てから、招いた友人の誰もがこの環境を気に入ってくれたことから、「独り占めするのはもったいない」という考えが膨らみ始めていた時期でもあった。ということで武隈さんは隣の建物へと引っ越し。かくして正面に建てた住宅は、ほぼ住むことなく宿泊施設に活用されることになったのだった。

MAOIQの内部の様子。アンティーク調の家具で設えられた空間。
MAOIQ komfortの様子。北欧風インテリアに囲まれながら団欒を。オプションで地元のワイナリーのワインも味わえる。道の駅などで新鮮な野菜を購入し、備え付けのキッチンで調理するのも楽しい。

運命的な、土地との出合い

移住を考えたとき、一つのハードルとして立ちはだかるのが、「良い土地に出会えない」という問題。条件の良い土地は当然狙っている人も多いわけで、土地の持ち主と直接繋がりのある身内の中で売り買いされることが多いため、市場には出てこない。また、運よく土地が見つかっても、自分の望む使途と土地オーナーの意向が合わなければ譲ってもらえないことも少なくない。武隈さんの場合は、自らの足で、季節を変え何度もこの場所を訪れていたからこそ縁を引き寄せることができたのだろう。MAOIQ開業に至るエピソードは、まるで導かれていたように感じてしまうほど鮮やかだ。


「春にはエゾヤマザクラが花を咲かせ、カッコウの鳴き声と共に夏がやってきます。美しい水田はどこまでも続き、秋には穂をつけた稲が風に揺れます。見渡す限り果てしなく広がった冬の雪原は、寒さを忘れさせてくれるほどの美しさ。」


これは、MAOIQのホームページに記されている一節。この場所が、武隈さんにとっての大切な時間をくれる拠点であるということが、この言葉から伝わってくる。自身が心底ほれ込んでいるからこそ、訪れる人にもその魅力を実感を伴った形で伝えることができるのだろう。

現在、宿泊に貸し出している建物はMAOIQ、MAOIQ komfort、maoiqnokoyaの3棟。そして近所には、1組ずつ時間貸しの喫茶室koyamame roasteryもオープンさせた。長沼町の魅力を伝えつつ、それぞれの「自分だけの時間」、「日常の圏外」をどう提案できるのか。武隈さんの空間づくりは、かっこよくて、温かい。

空港から30分という好立地のため、首都圏からの長期滞在者も多数。移住希望者からの相談を受けることも多いそう。

この記事を書いた人

片山静香

片山静香

雑誌『northern style スロウ』編集長。帯広生まれの釧路育ち。陶磁器が好きで、道内はもとより全国の窯元も訪ねています。趣味は白樺樹皮細工と、木彫りの熊を彫ること。1児の母。