週末のみオープンする、石窯パン工房まるの一週間。

オホーツク海に面した小清水町で、店を構えて2019年で3年目になる「まる」。壊れるたびに修繕しながら、作り替えた石窯の数は現在4つ目。石窯の修繕を繰り返すたび、おいしくなるまるのパン。パンの種類は、カンパーニュやフランスパンなどのハード系と、アップルパイやクリームパンなどのソフト系のパンまで幅広い。今では、閉店時間を前にして売り切れることも多い、オホーツクエリアの人気パン屋になりました。まるの営業は、金土日の週末のみ。では、他の曜日は一体何をしているんでしょう?まるの店主、丸山さんが歩んできた日々と平日の過ごし方について聞いてきました。

Shop Data

石窯パン工房まる
住所 小清水町字美和89-3
電話番号 090-1204-2428
営業時間 11:00~18:00
定休日 月~木曜
売り切れ必至の人気商品 もち麦食パン

2時間半で完売。おいしさと人柄が、人気の秘密

石窯パン工房まるは、毎週金、土、日の3日間だけ営業する。取材に訪れたのは日曜日。開店1時間半前に到着した。畑の真ん中に立つ民家。看板がなければ、ここがパン屋だとは気づかない。呼び鈴を鳴らしても返事がない。玄関を開けて中に入ると、7~8足のスリッパがきれいに並んでいた。さらにガラス扉を開けて中を覗くと、店の中央に大きなガラスケースが。そこにはすでに、10種類以上のパンがきちんと並んでいた。

さらにその奥。店内からガラス越しに見える石窯の前で、店主の丸山葉司さんが薪をくべながら火加減を調整していた。とても真剣に。こちらをちらりと見て軽く会釈。そしてまた火と向き合う。

「あと10分もしないうちに食パンが焼き上がります」。そう言うと今度は台所に入って、天板の上に並んだパンに、刷毛で卵黄を塗る。その作業の早いこと。タイマーが鳴れば石窯の前に戻り、パンの焼き加減と火加減を確認。終われば、また台所に。時々は店のほうに来て、床の掃除など開店の準備も進める。その間、ずっと小走りである。民家の床の間(石窯がある部屋は元々は床の間だった)と台所、居間(店の場所は元・居間)の三角形をぐるぐると走り回る。

丸山さん、マラソンに出たら早いかな。そんな取り留めのないことを思いながら観察しているうちに、11時10分前。店の外には7~8人の列ができていた。夕方4時頃、再び店を訪れた。「2時間半で完売しちゃったんですよ。何でしょうね、今日は」と、丸山さんは首を傾げながらもうれしそうだ。緊張感のある朝の印象とはずいぶん違う。「どうしてだろう」と繰り返しつぶやいては、満面の笑みを浮かべている。

石窯と共にある、パン屋まるの歩み

オホーツク海に面した小清水町。ここに店を構えてから、間もなく3年。この石窯も3年目。パン屋の経験は20年以上になる丸山さんにとって、四号目の窯だ。石窯一号の誕生は、約7年前にさかのぼる。

「ぼんやりと、自分で店をやるとしたらどのくらいお金がかかるんだろう、と考えて検索していたら、『石窯造れます!』というページを見つけたんです」。手づくりであれば、かなり安価に石窯を持てると知った丸山さん。突如、独立の夢が現実味を帯びてくる。

その後、津別町に店を構え、記念すべき石窯一号を作った。どうやって?

「これですよ」と見せてくれたのは、『ピザ窯の作り方』という雑誌だった。ここに掲載されていたレンガのアーチの石窯。中央にもレンガを積んで煙突を付ける構造になっている。「本当にこのまま造ったんですが、半年も経たないうちに煙突部分が落ちてきて、もう大変なことに…」。すぐさま石窯二号を造った。「今度は焼き床(上部)の形を四角にしました。全然壊れなかったんですけど…」。店の場所を移転することになり、やむなく石窯三号の出番となる。「二号は頑丈だったけど、実はパンを焼くのが難しかったんです。四角いと熱が回らないのかなと思って、再びアーチに」。レンガではなく、筒状のコンクリートを縦半分にしたようなものを使った。四号もコレである。「しかも熱がアーチの間を通るように、二重構造にしたんです」。その頃には、石窯パン工房まるは、パンマニアの間で話題の店になっていた。

「三号はイメージ通りで、理想的なパンが焼けていましたが…」。訳あって、店をたたむことになってしまったのである。

そして充電期間を経て、遂に石窯四号の誕生。「今度は少し大きくしたいと思っていました。一回にたくさんの数を焼きたくて」。その分、二重構造は諦めた。ところが、「大きくしたら焼き床が高くなりすぎて熱が回らない。焼き板の上に厚さ6センチの耐火レンガを乗せて調節しています。それと…」と丸山さん、四号の話を始めたら止まらなくなった。石膏ボードを使った蓋は1年でぼろぼろになってしまう。「断熱性の石がいいのかな、でも重いよなぁ」。アーチの内側にはヒビが入ってきた。「セメントで補強したら、素材が違っていたようで、膨張して外側までどんどん割れてきて…」。丸山さんと共に3年間歩んできた四号(写真上)を、よく見てほしい。ヒビが入って、補強されて、それでも日々おいしいパンを焼いてくれる姿が、とても愛おしく感じられてくる。

何度壊れても作り直す。石窯にこだわる理由

「なかなかクセがある」。数々の問題の中でも、特に悩まされるのはパンの焼け方。火加減だ。今まで使ってきた石窯はすべて、下に火床があり、コンクリートの焼き板を境に、上が焼き床になっている。「石窯って、よく(内側から温める)遠赤外線効果とか言われますけど、僕のやり方は外側から焼いているんじゃないかな」と分析する。火床で常に薪が燃えているので、その熱気が直火に近い効果をもたらすのだという。「石窯だからもちもちだね、なんて言われるけど、それは多分、小清水町産の小麦、春よ恋を使っているからだと思っています」。

では、丸山さんが石窯にこだわる理由は? 「炭の香りがパンにつく。それをウリにしていますが…面白いからですよ。不器用なんですが、作ることが好きなんです」とうれしそうに笑った。

今では丸山さんのパンに石窯は欠かせない存在となっているが、一号を作るまでは石窯で焼くパンの味なんて知らなかった。「焼ければいいやという思いで始めましたから、焼くたびに気づくことが多くて」。それが面白さにつながっている。

これまでに培った経験をベースにした四号の稼働スケジュールは綿密だ。朝3時過ぎ、火を入れ始める。最初の1時間半は薪を足して温度を上げ、その後40分くらい、燃え尽きるまで待つ。一番手はアップルパイ。煤などが付かないように余熱とおき火で焼く。「この焼き上がりを見て、その日の窯の様子や温まり具合を知るんです」。その後、カンパーニュやフランスパンのハード系を投入。続いて食パン。石窯パン工房まるの一番人気でもある。特に小清水町産のおひさまもち麦を使ったもち麦食パンは、開店と同時に売り切れてしまうほど。ところが丸山さん、近頃悩んでいる。

「今までは、このタイミングが一番きれいに焼けていたんです。薪は加えなくても適度な温度が保たれている。ところが最近は焼き色がつかない。何が変わったのかな…」。石窯の温度は、アップルパイが最も高温で、ハード系は220度、食パンは200度くらいが適温と考える。丸山さんは、温度計を使わない。薪の入れ方で調節しつつ、感覚で操作しているのだ。「ダンパー(吸振器)を付けたほうがいいのかな。そうすると熱が逃げない…でも全然わからないです」。石窯の知識は、独学と同業者との情報交換から。客の中には自分で石窯を造っている人もいて、写真を撮られるのはもちろん、こまごまと聞かれることもあるのだそう。もちろん時間も大切。一番短いのは菓子パン類、15分程度。食パンは40〜45分。

時間、温度、焼き加減までオートマティックで管理できる世の中にあって、丸山さんは、考えて工夫することを楽しんでいる。そうして、自分だけの方法、石窯パン工房まるのおいしい秘密を見つけ出す。

最後に焼くのはクロワッサン系。「発酵も関係してくるので、このタイミングしかないのですが」。石窯の周りでは常に、ほどよく発酵したパンが待ち構えているのだと考えると、がんばれ四号! がんばれ丸山さん! と応援したくなってくる。

おいしさの理由は、発酵と素材

こうして日々四号と格闘している丸山さんだが、「パンは生地づくりで7割決まります。とくに発酵のさせ方が重要、一番難しいです」と力説する。「窯が一つしかないので順番を決めているんですけど、いかに発酵をそこに合わせるか」。発酵が進んでいないと、ビニール袋を被せたり、窯の近くに置いたり。冬の朝は部屋の暖房を強めて発酵を促したり。やはり工夫の連続である。

おいしさの秘密は、材料によるところも大きい。「理由がわからないので曖昧ですけど、小清水町産小麦は、水を多く使ったほうがいい気がしています」。特に高加水のパンが流行っていることもあって、「水をもうちょっと」「もっと入れたらもちもちに」と実験のような試作を繰り返しているのだが、完売した後に客が来ると「試作品ですが…」と言いながら、つい販売してしまうのだとか。「一つだけでも残して食べてみればいいのに、全部売っちゃって答がわからない」と苦笑する。結果、買ってくれた客に感想を訊くことも。

小麦以外の材料も、ソーセージ、ゴボウ、ニンジン、ルバーブジャム、卵など、地元産にこだわっている。「いいもの、おいしいものを使いたいというよりは、地元で頑張っている人を応援したいんです。いざ作りだすと、どんなパンになるんだろうと、自分が楽しむことが先になっていますけど」。

平日は、営業日のための準備期間

最後に、営業日以外の4日間の過ごしかたについて尋ねてみた。するとまた綿密な予定を教えてくれた。

月曜日は薪割り、火曜日は一応休み、水曜日はパン生地以外の仕込み。「一週間分の湯種を作る、買い物をする、なんだかんだで10時間は働いています」。木曜日は金曜日に焼く分のパン生地の仕込み。「ここは6時間勤務と短めにして体調を整え、金土日の3日間に挑みます」。基本的にパン生地は前日仕込みと決めている丸山さんが、日曜日にかける意気込みたるや! 石窯パン工房まるのパンは全部で26種類。最後の日曜日に焼くパンが最も多くて、合計150個くらいと言いながら、「多分、です。数えていないんですよ。でも日曜日は翌日がないんで、行けるところまでやっちゃえ、もうバタンとなってもいいやというつもりでやっています」と全力投球の姿勢を告白してくれた。

丸山さんをそこまで掻き立てるものは、なんだろう? 「結局、作りたがり屋さんなんです。売れなくても作っているパンもありますから。作れるものならたくさん作りたい。パン屋って、そういう人が多いと思いますよ」。そう言って、またうれしそうに笑うのだった。

(取材時期 2019年10月25日)

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.61
「パンは語る」

道産小麦もあたりまえになりつつある現在。BIO小麦や薪窯、酵母。それぞれのこだわりを追い求める、北海道のパン。

この記事を書いた人

スロウ日和編集部

スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。