「ないものは作ってしまおう」が合言葉。〈ミチヒト〉

旭川市の緑道エリア。小さな個人店で賑わうエリアの一画に、プロダクトアート工房ミチヒトはあります。主たる活動は、オーダーバッグ製作。そのほかにもアウトドアで楽しむコーヒーの魅力を伝える「ミチヒトコーヒー」、そして緑道エリアをイメージしたブランド「緑道帆布」、「星降る道の豆コーヒー」という幾つものブランドを主宰しています。痒い所に手が届くような、ニッチな用途のオリジナルバッグがかわいい。元公務員の見上道(あゆむ)さん。ミシン未経験の中で、今の店を始めたきっかけとは何なのでしょうか。

Shop Data

ミチヒト
住所旭川市八条通8丁目41-8 ECO EARTHビル1F
電話番号 0166-86-0801
定休日 毎週火・水曜日
編集部立田愛用の品 斜め掛けサコッシュ

※工房は不定休のため、来店の際は事前に電話等にて問い合わせください。

ポーチにバッグ、コーヒーも作る“ミチヒト”

“ミチヒト”という名前が気になり始めたのは、2、3年ほど前のこと。コケシをこよなく愛する雑貨店の店主、加藤美希さん(加藤さんが営む雑貨店「simple」の物語は『訪ねて楽しい雑貨屋さん2(クナウマガジン)』に収録)が教えてくれた「面白いバッグを作っている人」という情報が、ほんのりと頭の片隅に引っ掛かっていた。

思いきって訪ねてみたのは他でもない。スロウ50号掲載の「まちなかぶんか小屋」や、チビスロウでお世話になった「ジャパチーズ」など、編集部と縁ある方々が多く集まる旭川市の緑道エリアの一画に、“ミチヒト”が店舗を構えたとの情報をキャッチしたからである。これはもう、行けというお告げとしか思えない…。

お告げかどうかはさておき、実際に訪れた緑道エリア内の小さなビルの1階には、本当に“ミチヒト”の店舗があった。迎えてくれた店主の見上道さんは、帯広市出身の45歳。毎日の買い物から、本格的なアウトドアでの活用までを網羅したオリジナルバッグやポーチを作る「プロダクトアート工房ミチヒト」と、アウトドアで楽しむコーヒーの魅力を伝える「ミチヒトコーヒー」、そして緑道エリアをイメージしたブランド「緑道帆布」、「星降る道の豆コーヒー」という幾つものブランドを主宰している。

中でも主たる活動は、オーダーバッグの制作。一般的な鞄作家と異なるのは、使用する素材が本格的なアウトドア仕様であるという点だ。テントなどに使われるシルナイロンや、建築資材として有名なタイベックなど、軽量かつ防水性や耐候性に優れた素材を組み合わせて、使い手の「かゆいところに手が届く」バッグを一点一点手づくりしている。

ないなら自分で作ってしまおう。今までに出会ったこうした精神を持った人たちの中でも、見上さんはずば抜けてフロンティアスピリッツに満ちあふれていた。どちらかというと寡黙で淡々と語る印象だが、ひとたびバッグの話を始めれば、出てくるこだわりポイントの数がとにかく多い。素材の特性や全体のサイズ、ファスナーの種類や向きに、持ち手の長さ…。使う環境に合わせてすべての要素が細かく調整されている。「なんとなく付けた」などという抽象的な理由はゼロ(その割には、一見無駄に思えることに並ならぬ労力を注ぎ込むタイプなのだが、その詳細は後半で紹介することにする)。

「実はこれ、生地を3回変えて作り直したんですよ。お客さんには言ってないんですけど」。ついつい発注者以上に仕上がりにこだわってしまう、それが見上さんという人なのだった。

有り余るほどの機能性を備えた、世界にひとつのバッグ

見上さんが本格的にバッグを作り始めたのは4年前。きっかけは意外なことに、前職の公務員時代に幾度も経験してきた「転勤」。広い北海道、あちらこちらへと引っ越して歩くたびに通勤手段が徒歩から自転車へ、自転車から電車へ、かと思えばまた徒歩へと次々に変わった。それに伴って、「バッグがコロコロと変わる」という現象に悩まされることになった。「徒歩と自転車ではほしいバッグは変わりますが、ぴったり合うものってなかなかないんですよね」。移動手段が変わるごとに最適なバッグを探すことに辟易していた見上さんはついに、「手間をかけて探すよりも作ったほうが早いのでは?」という究極の結論に鞣り着いた。ついでに、趣味として昔から山に登ったり、歩いたり、自転車に乗ったりとアウトドアを楽しむ習慣があったため、理想のバッグを自由に作るなら、機能性を備えたものにしたかった。

しかし、いざ作るといっても技術はない。20年以上にわたり公務員として勤めてきたため、正直なところミシンに触ったことすらもないような素人だった。まずは知人から古いミシンを譲ってもらい、書店で『初めてのポーチづくり』なる書籍を入手。信じられないような話だが、そんな初歩の初歩から、独学で“ミチヒト”が始まった。


ここでひとつ疑問が生じてくる。自分がほしいバッグを作るだけなら、趣味の範囲で良いのでは? 何故いきなり前職を辞め、バッグ専業に? 

まずはとことん、向き合ってみたいから

見上さんによる答は、「自分への責任感」。長年勤めてきた経験から、まずは自分が本気でやってみないと何も得られないのではないかという思いがあったという。スタート時から“ブランド”としてきちんと立ち上げることで、作り手としての自分に責任も生まれるし、向上心も生まれる。「市場に出すことでお客さんからのフィードバックがある。そうした意見を聞くことで、作るもののクオリティを上げていけるだろうと」。首尾一貫、決めたことには一直線なのが見上さん、ということだろうか。発注者に内緒で3回生地を変えて試作した、というエピソードがここでも思い出される。

覚悟を決めて飛び込んだ世界で、意外にも苦労したのは素材探しだったという。作りたいもののイメージは頭の中にあるのだが、それにぴったりの生地やパーツがない(手に入らない)。既成のアウトドア用品によく使われているような専門的な素材は、一般には売られていないらしい。現在は、個人輸入などもしながら、地道に理想とする素材を集めている。

自分が必要とする物から、アイデアが生まれる

2017年に緑道エリアに店舗を構えてからは、オーダーをメインとしながらも、手に取りやすい既製品の開発にも取り組んできた。さらには、もうひとつのブランドである「ミチヒトコーヒー」の普及にも。なぜここでコーヒーかというと、先に述べた「アウトドアを楽しむ人」である見上さんの本質は、正確には「アウトドアでコーヒーを楽しむ人」なのだ。本人曰く、「山の頂上を目指すより、ずーっと森の中を歩き続けて、湧水でコーヒーを飲むようなのが好き」。だから、バッグと同時にオリジナルブレンドのコーヒーも開発した。「アウトドアに限らず出張先のホテル等、出先で飲むことを想定して、冷めても酸味が出にくくて雑に淹れてもおいしいように考えています」。

この派生形で生まれたのが、「緑道ブレンド」。緑道エリアは、旭川市内でも歴史の深い商店が立ち並ぶ地域。ギャラリーやイベントスペース、カフェなどがあり、近年は空き店舗に雑貨店がオープンするなど「ちょっとオシャレなエリアとして静かな盛り上がりを見せている所だ。草花や木々、そしてアート作品なども並ぶ“文化的”な香りが漂う街並みは、北欧のそれに通じるところがあると話題にもなっている。ここに店を構える多くの店主たちは、とても地域愛の深い人が多いのだそうで、かくいう見上さんもそのひとり。「コーヒーと帆布のバッグが似合う街並み」との独自の解釈から、商店街の人に「緑道っぽい味ってどんな味?」との聞き込み調査を行い、それをコーヒーとして表現した。「『さわやか』とか『冬の恋の味』とか(笑)。実は高校生のデートコースでもあって、大人たちは温かく見守ってます」。緑道ブレンドの売り上げの一部は、地域の清掃や環境整備などを担う団体に届けられている。

スマートな緑道帆布のバッグも、フルーティーで爽やかな緑道ブレンドも、この地域を盛り上げたいとの思いから生まれた愛ある商品なのだ。

ないなら作る精神は、自分が暮らすまちづくりにまで

さらに2018年から、見上さんは近隣の店と共同で「ヒュッゲな時間」というイベントを立ち上げた。ヒュッゲはデンマークの言葉で、訳すと北海道弁の「あずましい」に近いのだそう。まずはここに暮らす人の日常が居心地良くなるように。むやみな集客ではなく、地域の中での情報共有、気持ち良くコラボレーションできるような場づくりこそ、見上さんが今、大切にしていることだ。

ないなら作ってしまおう。その精神はバッグだけに留まったものではなかった。自分の仕事、自分の道具、自分の暮らす街並み…。こんなフロンティアスピリッツが、今をもっともっと面白くしていくのかもしれないと、見上さんを取り巻く環境を見て思わされる。

(取材時期 2018年5月25日)

ミチヒトの商品、購入できます

見上道さん

「スロウ日和をみた」で、緑道に来たらぜひ食べて欲しい!店主おすすめのお店を教えます♪

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.55
「おいしい魚の向こう側」

海の中で起こり始めているさまざまな変化に目を向けながらも、郷土料理や漁師の取り組みなど、純粋な「魚っておいしい」を探して。

この記事を書いた人

片山静香

片山静香

写真と文で自由に表現することに憧れて、編集部へ。10年を迎えても編集の楽しさはずっと変わらず、少しも飽きません!手仕事が生み出すもの、中でも陶磁器が大好きです。