遊び心が形になった、彫金アクセサリー〈nico craft〉

札幌市南区に工房を構える、〈nico craft(ニコクラフト)〉の岩本裕規さん、由希さん夫妻。銅や真鍮、シルバーなどの金属と、七宝焼きの技法を組み合わせて、さまざまな作品を生み出しています。ふっくらと丸い頬が愛おしい人形もあれば、ヤドリギや植物の種をモチーフにしたアクセサリー、さらには微生物や昆虫を模したブローチまでも。自分たちの「好き」「欲しい」に正直だから、作品には愛と温もりがあふれているのです。

Shop Data

nico craft(ニコクラフト)
住所 札幌市南区石山東6丁目13-1
電話番号 011-557-3516
URL https://www.nico-craft.com

工房をつくったのは、「好き」を形にしたいから

岩本夫妻の工房は、札幌の市街地から車で30分ほどのところにある。緑色の外観が可愛らしい、自宅兼工房兼ギャラリー。あちこちに飾られた作品たちと、その間を彩るドライフラワーなどの植物が、2人の好みをそのまま表している。2人が素材として扱うのは、銅や真鍮、シルバーなどの金属。裕規さんの主な作品は、小さな人形のオブジェや看板、時計などのインテリア小物。妻の由希さんの作品は、身近な動植物をモチーフにしたブローチやピアスなどのアクセサリー。

8年ほど前にここに工房を開く前は、2人して定山渓の彫金工房に勤めていた。フクロウなどのいわゆる「土産物」を100個、200個とつくるのが仕事だった。技術的な面のことを言えば、「そのときの経験がベースとして今にも活きています」と語りつつも、一方で心の中には「自分の好きなものをもっと追求してみたい」という思いも募っていったそう。 「好き」の気持ちに従ってものづくりをしてみたら、一体どんな作品が生まれるのだろう。そんな思いから、岩本夫妻のnico craftは誕生した。

アイデアの源は、生活の中にあるワンシーン

裕規さんが人形をテーマに作品を作り始めたのは、幼少期の原風景に影響を受けてのこと。「田舎の集落みたいなところで、山に囲まれて育った」という裕規さん。その頃駆け回っていた野山や、よじ登って遊んでいた大きな木の記憶が今も残っている。「そのときののびのびした気持ちや、楽しかった気持ちを作品に込めているのかもしれません。誰にとっても『原風景』というのがあるはずで、それを少しでも思い出す作品が作れたらと」。

また、「ストーリーのあるものの方が、面白いと思うんです」というのも、裕規さんの言葉。とはいえ、理屈っぽいのは好きじゃない。だから、新しい作品のモチーフを思いつくのは決まっていつもの日常生活の中。3歳になる息子がおもちゃで遊んでいる姿を見ているうちに、人形の表情のイメージが湧いてきたり、散歩中に近所で見つけた野の花をジーッと観察していたら、おしべとめしべの形が面白いことに気が付いたり。

植物や動物など、「人の手が加わっていないもの」からアイデアをもらうことが多いというのは、夫婦2人ともに共通している。

生活の中で「ん?」と思う事柄があったら、なぜそう思ったのかを掘り下げてみる。そんなふうにして、興味を持った対象の細部を見つめることで、作品の表現の幅を広げてきた。

遊び心、わくわく感を大切にする人へ

nico craftの作品は、基本的にはオーダーがメイン。百貨店などで行われるイベントに出展することもあるが、そうでないときに作品に触れたい場合は、事前に連絡をした上で工房を訪ねて。絵本のような世界観の、看板や表札、植物や動物のブローチ(ときにはアメーバなどの微生物や、ジンガサハムシのようなマニアックすぎるモチーフも)。

なにより大切にしている価値観だから、夫妻はどんな人にとっての「好き」にも笑顔で真剣に向き合ってくれるのだ。

この記事を書いた人

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片山静香

雑誌『northern style スロウ』編集長。帯広生まれの釧路育ち。陶磁器が好きで、全国の窯元も訪ねています。趣味は白樺樹皮細工と木彫りの熊を彫ること。3児の母。