中標津町の街中にある、自家焙煎珈琲のお店「ONUKI COFFEE ROASTERY」。震災を機に地元の中標津町に帰り、本当にやりたいことをしたいと立ち上がった小貫さんの姿がありました。いちコーヒー好きとしての姿勢が表れているところが、ONUKI COFFEEの大きな特徴です。
Shop Data
ONUKI COFFEE ROASTERY
住所 中標津町東5条北2丁目3
電話番号 0153-70-4214
営業時間 9:00~19:00
定休日 月曜・不定休
URL http://www.onukicoffee.com
珈琲好きにも、地元客にも、楽しんでもらえる店を
中標津町の大通りから一本外れた通りにある、一軒家の建物がオヌキコーヒーロースタリー。町の主産業が酪農というこの町に、おしゃれな珈琲屋ができたのは2015年冬のこと。今では、地域住民をはじめ、道内各地から客がやって来る場所になっている。この小さな町で店主の小貫琢さんが珈琲屋を営むまでには、どのような経緯があったのだろうか。
東京に本社を構える大企業で働いていた小貫さん。仕事以外で中心にあったライフワークは珈琲に関することで、なかでも「地方の珈琲屋を訪ねること」を楽しみにしていた。観光地ではない場所にありながら熱狂的なファンがいて、店内はいつも賑わっている。そんな店をいくつも見てきた。「いつか地方で人が集まる店を」とどこかで思いながらも、東京での日々をなんとなく過ごしていた。
大きな転機となったのは、東日本大震災。帰宅困難となり社内で一夜を明かす。抱いたのは、「文句を言いながら働くより、好きなことをやっていたい」というシンプルな思い。
決心がついてからは、仕事を続けながら都内で開催されていたワークショップに参加し、焙煎や抽出の方法などさまざまなことを学び、試した。店を開く場所として選んだのは、小貫さんの地元でもある中標津町。いざ店を始めてみると、何もないように見えた町に面白い人がたくさん住んでいるということが少しずつわかってきた。たくさんの人との出会いを楽しみながら、中標津町で珈琲屋を営む面白さを感じている。
オヌキコーヒーロースタリーで使用する焙煎機はアメリカ製のディードリッヒ。小貫さん曰く「シンプルな作り」の機械なので、ある程度機械に任せても「割といい感じ」の味に仕上がるそう。じんわりゆっくり熱が伝わるところがお気に入りで、色も店の外装と同じマットな茶色に設えてある。
ブラジルとコロンビアをブレンドし、中〜深煎りに仕上げた『DAILY』は、この店の看板メニュー。毎日飲むことを想定した珈琲で、小貫さん曰く「普通の珈琲」。開店前から飲み続けてきたという「自分用」に編み出した珈琲が、店の看板になっているというのは小貫さんらしい。癖のない味わいで、ゴクゴク飲めてしまう。「通常のコーヒーカップの倍量」入っているというのもうれしいポイント。
小貫さんはさまざまな手法を試しながら今の自分に合うものに変えていくスタイル。そのため、良いと思ったやり方があれば、あまり躊躇せずに変えてみて、「また戻ったりもする」とのこと。季節ごとに味の異なるブレンド豆を販売していたり、訪れる時々で手法が変わっていたり。その時だけの味を楽しむことができるのもオヌキコーヒーロースタリーの楽しいところだ。
喫茶店、カフェ、コーヒーショップ…。客である私たちからすれば、特に使い分けることなく捉えている、店の呼び名。店主にしてみれば、そこは自らのこだわりを表す大切な部分。小貫さんは、あくまで「珈琲屋」でありたいと話す。「カフェじゃなくて、あくまで珈琲屋さん」。オシャレじゃなくても、カッコつけなくてもいい。ただ客が、珈琲を味わったり、ドリップの時間を楽しんだりできる店が、この町にあってほしい。目指すのは、小貫さんが東京時代に心惹かれた「地方の珈琲屋」なのだ。
話の節々に繰り返し出てくる、「お客さんにとっては」という言葉。小貫さんは客の立場に立って考えることを、ごく「自然体で」行っている人だという印象を受けた。きっとそれは、自分自身が「珈琲好きの客」だった期間が長かったからだろう。珈琲好きにとっての珈琲屋、地域住民にとっての憩いの場。どちらの視点も持ち合わせ、うまく調和させてきたオヌキコーヒーロースタリーは、間違いなく両者にとってなくてはならない場所になりつつある。