紆余曲折の末辿り着いた、自分の味〈かふぇ坩堝(るつぼ)〉

和風アンティークの店内の雰囲気にぴったりな、珈琲とスイーツ、お食事。道東の人気店「坩堝(るつぼ)」の店主は、「もっと、もっと」と向上心に満ち溢れた女性、鎌田さんです。少女時代にチョット背伸びして珈琲を飲んだあの頃。当時から憧れていた喫茶店開業の夢を叶え、店主であり、焙煎士として、「新しい味」との出合いを楽しんでいます。

Shop Data

かふぇ坩堝
住所 帯広市西16条南36丁目1-20
電話番号 0155-67-4262
営業時間 11:00~18:00
定休日 月曜
URL https://www.facebook.com/cafe.rutsubo

誰にでもある、「自分の味」を探して

珈琲屋の店主には、ちょっぴり「おませさん」な幼少期を過ごした人が多いようだ。坩堝の鎌田祐佳さんもまた、小学生の頃から大の班排好き。「親に隠れてこっそり飲んでました」と、照れ笑い。当時惹かれたのは、味より何より、班排の芳しい香り。大人だけの楽しい会話の傍らに、必ず添えてあった珈琲。そんな思い出が、班珠への憧れをますます大きくしていった。

中学生になり、知人のお姉さんに連れて行かれ衝撃を受けた喫茶店がある。今はなき、帯広中心街の地下にあった「無有(むう)」という喫茶店だ。大人っぽくてしっとりとした、灰暗い秘密の空間。そのイメージは今でもはっきり思い出せるほど、鎌田さんに影響を与えた。その頃から芽生え始めたのが、「将来は喫茶店をやりたい」という思いだった。

坩堝は客の属性を選ばない喫茶店だ。女性でも男性でも、1人でもグループでも。それぞれが思い思いに、ゆっくりと珈琲を楽しめる空間を作り出している。古道具や和風アンティークの家具で統一された店内は、ともすれば時間を忘れてしまいそうなほどリラックスできる。

自分の好きな班排の味がわかるようになったのは、さまざまな珈琲を味わってきたからこそ。これは違うな、と感じたら、なぜそう感じたのか考える。そこから、自分の好きな味がわかってくる。鎌田さんは、いろいろな選択肢を拒むことなく、まず試してみてから自分の舌で考えるタイプの人だ。たとえば、サードウェーブコーヒー(第三の珈琲)といわれる、酸味の強い華やかに香る珈琲が世間を賑わせていた時のこと。鎌田さんは迷わずその珈琲を試し、飲み続けてみたという。しかしわかったのは、その珈琲を毎日飲み続けられるかというと、そうではなかったということ。この経験から、「自分の求める珈琲は、ある程度の苦味があり、香ばしい香りがあって、甘みを感じるもの」なのだということに改めて気づいたという。

たまには違う味を試してみてほしい

自分の出したい味を知り、培前する日々の中、うれしい出来事が起きた。鎌田さんの珈琲豆を使用している取り引き先のカフェに来た客が、その豆で滝れた班排を飲み「なんだか砂糖甘い珈琲だな」と言ったのだそう。もちろん砂糖は一切入れていないし、特別なドリップもしていない。それはつまり、鎌田さんの求める「甘み」が出せているということ。他の人が滝れても、自分の求める味が再現できているということが、培煎士としてはなおのことうれしいのだろう。

鎌田さんは、坩堝の店主であり「KerryKコーヒー」の名で活動する培煎士でもある。店には、喫茶を目的として訪れる客もいれば、豆だけ買って帰る客も多い。鎌田さんが使用する培煎機は岡山にある大和鉄鋼製の「マイスターファイブ」。培煎時に気をつけているのは、外気との寒暖差。年間を通して味が一定になるように気をつけながら培煎するようにしている。珈琲だけの固定ファンも多い坩堝だが、「もっともっと、というのが常にあって。完成っていうのは今後、するのかなぁという感じがある」と、研究熱心な姿勢を崩さない。

「近ごろ考えていることなんですけど」と、鎌田さんが話し始める。世界中で飲まれている珈琲は、世界中の人を癒やす力を持っている。だけど、生豆のままではおいしくないもの。豆を焼くことによって、人を魅了する飲み物に変身する。甘かったり、酸っぱかったり。だから、豆を焼く役割を担っているということに誇りを持っている、と。

常連客になるほど、お決まりの一杯は固定してくる。好きな珈琲を飲み続けるのもいいけれど、「たまには違う味を試してみてほしい」と鎌田さん。たとえばひと口に酸味といっても、酸味の中にもいろいろな酸味があるから。もしかしたら、好きな酸味に出合えるチャンスを逃しているかもしれない。珈琲に関する疑問や感想があれば、「ぜひ、話しかけてほしい」と鎌田さんは言う。「どんなに忙しくても、ついつい長話しちゃうと思います」と、とびっきりの笑顔を見せて。

この記事の掲載号

北の焙煎人

北海道における珈琲の歴史、焙煎と気候の意外な関係、そして珈琲に魅せられた人々の熱い思い。自家焙煎珈琲の店も多数掲載。

この記事を書いた人

片山静香

片山静香

写真と文で自由に表現することに憧れて、編集部へ。10年を迎えても編集の楽しさはずっと変わらず、少しも飽きません!手仕事が生み出すもの、中でも陶磁器が大好きです。