北海道産オリーブの夢を追い、化粧品をつくる〈セキレイ〉

「いつか、北海道産の食べ物だけで食卓を完結させたくって…」と語るのは、セキレイの代表・木村香菜子さんの夫で桜農園の農園主、佳晶さんです。香菜子さんは現在栽培に挑戦中のオリーブの葉と、自生する植物を用いて化粧品を作っています。いつか、オリーブの実も製品に活かせたら…と語る、夢の途中のストーリーを尋ねて。

Shop Data

セキレイ
URL https://se-kirei.com/
ツウな食べ方 黒いパンを肴にワイン
店主の出身地 大阪

北海道産オリーブの夢との出合い

寒冷地の北海道では育たなかった作物が、おいしく収穫できるようになってきました。気候の変化にも対応していこうという農家のたゆまぬ努力と苦労があってのことです。

前例があるということは、到底育てられないと思われていた作物にこれから挑戦する人にとっても、何よりの希望になっていくことでしょう。北海道産オリーブの栽培を夢見て奮闘する夫の木村佳晶(よしあき)さんと、そのオリーブを活かした化粧品を開発する「セキレイ」を立ち上げた妻の香菜子さんに会うため、豊浦町までやってきました。

遠くに羊蹄山が見えるなだらかな丘陵地で、薬草農家の跡継ぎとして就農した佳晶さん。現在、本業の薬草栽培のかたわらで、オリーブの栽培に取り組んでいます。佳晶さんがオリーブの栽培を始めたのは、「寒冷地でもオリーブが育てられる」と確信を持ったことがきっかけでした。

仮説は現実味を帯びて

前職でオリーブの栽培を任せられ、国産オリーブの産地である小豆島で修業を積んだ佳晶さん。オリーブへの関心は日に日に高まり、2010年には単身ヨーロッパへ赴き、オリーブ農家を一軒ずつ回る旅に出るまでに。そしてイタリアの中部で、「何十年に一度の大寒波がきても、この品種は生き残ったんだ」と、あるオリーブを紹介されました。「品種によっては意外に寒いところでも生きていけるんだな」。それが、寒冷地でオリーブが育つ例を知った最初の出来事でした。

さらにオリーブの研究施設で、「オリーブとピノノワール(ブドウ)は土壌条件が似ている。ピノノワールが育つところだとオリーブも育つ」という情報も教えてもらいました。

帰国後調べてみると、北海道でピノノワールの栽培に成功した農園を発見。少しずつ、佳晶さんの仮説は形を帯びてきました。「老後、地元の北海道に帰った時、趣味のひとつとしてやってみよう」。ひとまず、そうして興味に蓋をした佳晶さん。けれど心には、小さな夢の種がしっかり蒔かれていたのです。

夢を口にしたことで、回り始めた歯車

帰国してしばらく経ち、香菜子さんとの結婚を経て、四国の霊峰石鎚山(いしづちさん)に行った2人。そこで出会ったある山荘の主人と意気投合。夢を尋ねられた佳晶さんは、思わず「僕の夢は、オリーブ栽培を日本最北の北海道ですることだ!」と大きな声で口走っていたそうです。本人も、香菜子さんもびっくり。夢を口にしたことで、佳晶さんの人生の歯車は少しずつ動き出しました。

小豆島でオリーブ農家の仕事に携わった佳晶さんは、自然を相手にして働く農業という仕事に心惹かれるようになっていました。「オリーブ栽培に挑戦しながら、農業で生計を立てる道はないだろうか…」。薬事日報という新聞で、北海道に国産生薬の栽培に取り組む農家がいることを知ったのは、その頃のこと。「薬の国内自給率を上げることは、きっとこれから重要だ」と思い、話を聞きに行くことに。

豊浦町で唯一となった薬草農園を訪れると、ちょうど親方が後継を探しているところでした。研修期間を経て、跡を継ぐことを決意。2014年に香菜子さんと共に豊浦町へやってきました。

移住と妊娠、身体の変化を感じながら

前職では会社員をしていた香菜子さん。慣れない農作業の手伝いと、移住による環境の変化。また、ちょうど妊娠と重なって体調に大きな変化を来してしまいます。娘の出産後、元から抱えていたアトピーが重症化。夜も寝られないほどの痒みや痛みは、耐えがたいほどでした。

「体質を根本的に変えたい」。そう思った香菜子さんは、まずは身近なところから、農園の薬草、漢方の力を借りてみることにしました。札幌の漢方薬局に通い、処方してもらううちに症状は少しずつ改善。けれど、体質はそう簡単には変わりません。

「身近に漢方に触れていて、アトピーに悩んでいる自分がいる。これで何かできないかなぁって」。植物が持つ力を借りて、自分自身の体質と向き合う。そうして、同じように悩んでいる人の力になれたなら。そんな思いと共に立ち上げたのが、セキレイというブランドでした。

香菜子さんの思いや植物の特性を理解してくれる札幌の化粧品業者との縁があり、化粧品づくりからスタートすることに。昔からスキンケアに使われ、なおかつ自分たちで栽培に挑戦しているオリーブの葉を使うことを、商品の一番の柱にすることにしました。

オリーブの葉には独自の成分が確認されていて、抗菌や保湿効果が期待されます。そこで、農園で試験栽培しているオリーブの葉から植物エキスを抽出し、配合。その他に、農園に自生している、昔からスキンケアの助け舟として使われてきたスベリヒユと、肌を清潔に保ってくれるクマザサの蒸留水(ハーバルウォーター)も加えています。

遠くに羊蹄山が望める、美しい場所にある桜農園。

周囲のプロに力を借りながら

香菜子さんにとって、化粧品づくりはゼロからの挑戦です。エキスの抽出や成分検査などの専門分野は、迷わず専門家の手を借ります。商品化までの道のりを、「作るからには、ちゃんとしたものを」と、たくさんのプロに相談しながら少しずつ歩いてきました。壁にぶつかっても、一緒に作る人たちとのつながりが「自分を支えてくれた」と話します。

通常の化粧品と比べて使用期限が短く設定されているのは、化学的な防腐剤、界面活性剤、合成香料などを使っていないから。自家栽培の植物由来で作ったセキレイの化粧品は、香菜子さん自身も、納得の使い心地を実感できました。

熱い思いと自信が詰まった商品であることに違いありませんが、香菜子さんはそれを「無理に押しつけたくはないんです」と言います。自身が肌トラブルに悩んできた分、万人に効果があると保証するのが難しいことを心底わかっているからなのでしょう。「悩んでいる人たちの選択肢の一つとなれたら」と、あくまで控えめです。

オリーブのように、ずっと続くものづくりを

いただいた試供品を実際に使ってみました。洗顔料はつっぱることなく、肌に潤いを残してくれる使用感。保湿クリームはスーッと伸びて、ベタベタする感覚は一切ありません。翌朝鏡を見てみると、肌荒れや毛穴の開きが落ち着いているのに何より驚きました。

セキレイのテーマは、「自生と開拓」。ここにあるものや、昔から民間で使われてきたもの。そういった、これまでに培われてきたものを礎にして、オリーブを育てたり、新しい価値を生み出していくことを意味しているのだそうです。

「ところで、オリーブの樹齢を知っていますか?」と佳晶さん。なんと、一度根を張ると何千年も生きることがあるそうです。「そう思うと、自分はまだまだ始めて数年しか経ってないんだなって思うんです」。そう言って明るく笑う2人。サラリとした木村夫妻の印象も、時間に対する考え方も、まるでオリーブのよう。ずっと遠くに広がる未来を夢見て、足元をコツコツと積み上げる日々。2人の豊浦町での挑戦が、これからもっと楽しみになりました。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.65
「羊の傍らで」

可愛いだけではなく、いのちの尊さをも身をもって教えてくれる羊たち。幸せを感じたり、感謝したり、悩んだり。羊との、それぞれのつき合い方。

この記事を書いた人

石田まき

石田まき

スロウ日和編集長。ライター兼カメラマン。初めて訪れた北海道で、空の広さに一目ぼれ。言葉と写真の両方でこの地の豊かさを伝えるため、九州から移住。ホタテが大好物。