羊毛の持つ不思議な力を信じて。〈玉山知子さん〉

地元の七飯町で暮らしながら羊毛フェルトの作品制作を続けている玉山知子さん。玉山さんと羊毛フェルトの出会いは、2003年。娘を抱いて訪れた一軒のおもちゃ屋の小さな羊毛フェルトの人形でした。そのあとすぐに自分でも羊毛フェルトの小物を手作りするようになった玉山さん。最初は子どものために始めたものづくり。作家としての道を歩むことになった背景には、当時暮らしていた十勝ので出会った人々の存在がありました。(取材時期 2021年2月)

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玉山知子さん〈yoomoo felt works tama〉
Instagram https://www.instagram.com/yoomoofeltworkstama/?hl=ja

玉山知子さん。フェルト作家として活動する傍ら、ワークショップの講師としても活動しています。

始まりは、小さな羊毛フェルトの人形から。

玉山さんと、羊毛フェルトとの出合い。それは2003年ごろ、娘を抱いて訪れた一軒のおもちゃ屋でのこと。何げなく扉を開けたその店で、玉山さんが心奪われたのは、小さな羊毛フェルトの人形でした。「不思議なくらい、目が釘づけになったんです」。その後すぐに、自分でも羊毛フェルトの小物を手づくりするようになった玉山さん。「本当に見よう見まねだったけど、面白かった。初めて羊毛に針を刺した時の感覚は、今でも忘れられないくらい」。羊毛の、ほわっとした手触りと温もり。編むのとも織るのとも違う、針で刺し固めるという手法。「ちょっとくらい失敗しても、最終的にはなんとかできる」。優しく大らかな羊毛フェルトの魅力に、玉山さんは深く包まれていきました。

最初はひとりで、子どものために始めたものづくり。作家としての道を歩むことになった背景には、当時暮らしていた十勝で出会った人々の存在があります。まず、玉山さんと同じように、幼い子どもを育てる地域の母親たちの存在。何かと集まる機会も多く、時々玉山さんが先生になり、羊毛フェルトの小物を作るようになりました。「赤ちゃんが羊毛を握って泣き止んだり、手を動かすうちにお母さんたちの会話や表情が柔らかくなったり。その様子を見て、あぁ、これはすごいなと思って。羊毛には『何か不思議な力がある』って、確信しました」。

子どもたちとフェルトの小物を作る玉山さん。

それからもうひとり、羊毛にまつわるすべてを教えてくれたのが、スピナーズファームの創業者である故・田中忠次さんです。「スロウ2号(2004年発行)を読んで、田中さんのことを知って、すぐに通い詰めました」。スピナーズファームは、羊を飼い、その羊毛で小物を作ったり、編物やフェルトの体験教室も開催する牧場。「田中さんは、私にとって最初の先生。初めて講師の仕事を受けた時も、たくさんのアドバイスをくださって。田中さんのおかげで、今があると思います」。

自由さと丈夫さを活かしたものづくり。

玉山さんは今、地元の七飯町で暮らしながら制作活動を続けています。「フェルトってね、なんでもできるんですよ」。たとえばコースターのような平面的なものから、動物をモチーフにしたマスコットなどの立体的なものまで。ふわふわした質感を残したり、ぎゅっと丈夫に固めたりと、質感まで自由自在。「ホントに面白い素材に出合っちゃった」と、楽しそうに笑います。

幅広い作品を手がけた中で、玉山さんが気づいたのは、「羊毛と、土から育つ植物の相性の良さ」。そこにヒントを得て生まれたのが、羊毛フェルトの花瓶カバーです。羊毛フェルトに包まれた花瓶に花を活けて、部屋の中の明るい場所へ。表面の細かな繊維が日の光に照らされて、花瓶全体が柔らかい光を纏まといます。丸みのあるフラスコの形も相まって、なんだか周りの空気までほんわりと丸くなったよう。きっと、この空気の変化こそが、玉山さんが言う羊の持つ不思議な「何か」。それはとても優しくて、温かくて、心を解きほぐしてくれるものでした。

水分を弾きやすい羊毛フェルトは、生花を活ける花瓶やカップを置くコースターにぴったり。

しずくのコースターは5年ほど前、函館市の喫茶店・classicのために手がけた大切な作品です。今回2人にお願いして、通販の機会をいただきました。「クラシックの店主の近藤伸くんが描くイラストに出てくる男の子の顔が、よーく見るとしずくの形に見えるなぁと思って。この形に決めました」。穏やかな形のコースターはほど良い厚みで、カップをふわっと受け止めてくれます。張りのある羊毛と、繊細な羊毛を重ねてフェルト化させることで、フェルトの表情はより豊かに、より丈夫に仕上がるそうです。所々で色合いや質感が変わるので、もしシミができても目立ちにくいのがうれしいですね。

羊毛フェルトは、羊毛をチクチク刺したり、ゴシゴシ擦ったりしながら、人の手で繊維どうしを絡めて作るもの。行程の一部に石鹸水を使うものの、その他特別な材料は使いません。雨の日も、雪の日も、基本的に外で過ごす羊の毛から生まれたフェルトの小物は、水をよく弾いてくれますから、花瓶の水を替える時も、カバーは付けたままで大丈夫です。

フェルトを固める作業の様子。「手じゃないと駄目なんですよ」。

ずっと変わらないフェルトへの思い。

玉山さんは結婚するまで医療・福祉の現場で働き、高齢者に向けたリハビリの一環で、さまざまな手工芸の指導にも携わっていました。「あの時作ったもの、フェルトでもできるな。あの時本で見たもの、フェルトで作ってみたいなって、当時をよく思い出します。あの頃は、まさか自分が作家になるなんて思わなかったけど、不思議ですよね。全部つながってるの」。小さな人形にどうしようもなく心惹かれてしまったあの日から今日まで。玉山さんの羊毛フェルトへの思いは変わることなく、たくさんの人への感謝を胸に、作家としての道を歩き続けています。

チクチク、ゴシゴシ。一つひとつ手作業で生み出される、玉山さんの羊毛フェルト。深く長い冬の終わり、素朴な羊毛の手触りとほんわり温かい空気が、皆さんのもとへ届きますように。

スロウ日和編集部

スロウなお買い物公式サイトでは、本文で紹介した花瓶カバーの他、フェルトのブローチなども販売しています。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.66
「思いを叶える場所へ」

暮らす場所や環境を真剣に考えよう、という機運が高まりつつある昨今。暮らしを現在進行形でつくり続ける人たちの物語を届ける。

この記事を書いた人

立田栞那

立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。