“生花”を革で表現するアクセサリー作家〈コヅツミ〉

画用紙ほどの薄さの、白色の牛革を、切り出し、成形、染色、縫い付けて仕上げるコヅツミの松田さん。北広島市で活動するアクセサリー作家です。松田さんが作品のモチーフにするのは、花や植物。その理由は、かつて少女の頃に抱いていたある夢があったからです…。

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コヅツミ
URL https://www.instagram.com/_kodutsumi/?hl=ja

牛革を切り出すところから、手で生み出す

花びらを1枚1枚切り出す繊細な手つきを見つめながら、初めてコヅツミの作品を目にしたときのことを思い出していました。とあるクラフトイベントサイトの、小さな作家紹介欄。数百と並ぶ作り手たちを、見るともなしに流し見ていたとき。ふと、ページを送る手が止まりました。他とは何か違う気がしたのです。

今思えばそれは、途方もない手作業が生み出す「クセ」のようなものだったのでしょう。月並みに言えば手仕事の温かみとも表現できるでしょうし、個性と言ってもいいかもしれません。とにかく不思議なほど惹きつけられて、「作り手に会ってみたい」と、そう思ったのでした。

作品の元になるのは、画用紙ほどの薄さの、白色の牛革。切り出し、成形、染色、縫い付け、仕上げ。ただの真っ白な四角い革が、作り手の松田志津香さんのセンスと手業によって、生花のように瑞々しい立体感を手に入れるのです。

松田さんが自宅に招いて見せてくれたのは、花びらを1枚ずつ切り出す作業や、水を含ませて成形する作業、そして、ブローチの土台に縫い付ける作業。下書きや型紙はないため、花びらの形や大きさはランダム。それらをバランスよく組み合わせ、リース状に整えていきます。「フリーハンドだと、型を取って作るのとは仕上がりが違うんです。それが良いから、手切りにこだわっています」。

フリーハンドだからこそ生まれる、切り口の微妙なブレや個体差。1つのブローチにつき30枚ほども縫い付けられた花びら一つひとつが、「1点もの」であることが、コヅツミの作品の最大の魅力だとは言うまでもないことでしょう。

加えて、松田さんが子どもの頃から大の花好きであったということ。小学生までを過ごした東京では、「よく花を摘んで、蜜を舐めていました」。その後両親と共に北海道で暮らすようになり、結婚。ますます花好きになっていた松田さんは、花屋で働く夢を持ち、フラワーコーディネーターの資格を取得します。さまざまな花を組み合わせ、空間に合ったアレンジメントを作る資格。植物の知識や色彩感覚、花言葉なども学びます。結局、機会に恵まれず花屋に勤めることは叶いませんでしたが、こうして今、別の形で花を表現するようになったのです。

菜の花、シロツメクサ、ビオラ、マーガレット、クローバー…。ブローチのモチーフに親しみやすい花が多いのは、松田さん自身が、身近にある「派手ではない」花が好きだから。あまりデフォルメはせず、色や形はできる限り本物に近く。もしくは本物のイメージを崩さないようなデザインを心がけているそうです。

あくまでも自然体で、親しみやすく、さり気なく。「特別なときだけでなく、普段から使ってもらえたら」。摘んできた花を飾るような気持ちで、いつも身に付けていたいブローチです。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.59
「生きて、活きる、花」

ドライフラワーやスワッグ、ハーブティー。花期が短い北海道で、1年中花を楽しむ達人たちの暮らしのアイデアがいっぱい。

この記事を書いた人

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片山静香

雑誌『northern style スロウ』編集長。帯広生まれの釧路育ち。陶磁器が好きで、全国の窯元も訪ねています。趣味は白樺樹皮細工と木彫りの熊を彫ること。3児の母。