夏の終わりを感じる、肌寒い日。思い出すのはあのお店の温かさ。駒ヶ岳を望める七飯町にある、〈ニーヨル〉です。東京でケータリングの店を営んでいた、店主の原弘美さんが作る料理は、弱った心と体をじんわり温めます。できるだけ町内産の食材を使い、調味料も、できる限りオーガニックで。飾らない、店と味が、ここにあります。
Shop Data
ニーヨル
住所 七飯町字軍川570
電話番号 0138-67-3888
営業時間 12:00〜15:00
定休日 火曜、第1月曜、冬期休業(12〜3月)
席数 12席
「全部じゃないけど、できるだけ」
優しい彩りに心が弾んで、素朴な味わいに身体が喜ぶ。一つひとつの野菜や食材本来の味がきちんと活きていて、すべての料理が幸せに調和する。ニーヨルで出合えるのは、そんな喜びあふれる料理。
「今日のスープは、豆とゴボウを使いました。料理に使う野菜のほとんどは七飯町産。調味料はオーガニックのものを。全部じゃないけど、できるだけ」。店主の原弘美さんが、飾らない笑顔で教えてくれた。
函館市で生まれ育った原さんは、23歳の頃に上京。いくつかの仕事を経て、料理の道へ進む。「マクロビオティックの店で働いた後、野菜をたっぷり食べられるケータリングを始めました。当時はまだそういうケータリングは少なかったから、皆さん喜んでくれました」。
いつか北海道へ帰ろうと思いながらも、東京にはいつも、原さんの料理を待っている人がたくさんいた。「ありがたいなって応えているうちに、東京での生活もだいぶ長くなって。『今かな』って思えるタイミングで、思いきって帰ってきました」。
北海道で自分の店を持とうと動き出したのは、戻ってきて2年が経った頃。「場所を探し始めてすぐ、この土地に巡り合ったんです。それで『ここだ』って決めちゃったの」。雑木林だった土地を家族と共に整えて、店をオープンさせたのは、2010年秋のことだ。
内装には道南スギを使って、コツコツ集めてきたアンティークの家具を並べて。冷え込む時季には、大きな薪ストーブに火を入れる。この日は雲に隠れていたけれど、窓の外には駒ヶ岳(こまがたけ)がきれいに広がる。店の名前はニーヨル。インディアンの言葉で、「風」という意味がある。
「その時々で思うまま、いろんなことを決めてきました。結果的に今、ここに来られてすごく良かったと思う」。穏やかないい風に身を任せるように。原さんがここに辿り着いて、もうすぐ10年が経つ。
(取材時期 2020年7月25日)
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