北海道産の豆を愛する伊藤さんに教わる「地豆」の魅力

豆の一大産地、北海道。雨が少ない内陸性の気候は、豆の栽培に適していると言います。それにも関わらず、北海道の豆の消費量は、全国でも少ないほうだということを知っていますか?“一消費者”という立場から、豆の魅力を伝える活動「豆活」にマメに取り組むひとりの女性、「お豆の伊藤さん」に会いに行きました。(取材時期 2018年7月)

Personal Data

伊藤美由紀さん
URL
https://www.instagram.com/greenshellbean/?hl=ja

話を聞いたのは、札幌市のカフェエスキス。

魅力に満ちた、北海道の豆

豆に魅せられて10年。豆と出合い、豆の魅力に開眼した伊藤美由紀さんは、豆料理を作り始め、豆の写真を撮り、イベントで豆の販売をし、豆料理の本まで出版してしまった。本人の言葉を借りれば「豆に導かれ」るようにしてここまで歩んできた人だ。そんな伊藤さんは、自身のことを「豆のよこ好き」と表現する。「正面きって何もやっていない、ということなんです。専門家でもないし、料理を習いにも行ってないし、農家でもないし。横から好きになってる、という」。しかし聞けば聞くほど、豆への想いは一直線。伊藤さんをそこまで夢中にさせる「豆」というものの魅力がどんなものなのか。その輝く好奇心の向かう先を、たまらなく覗きたくなった。

伊藤さんが特に心惹かれているのは、北海道の在来種の豆だ。在来種の豆とは、研究機関で品種改良された一般の豆とは異なり、農家が自家用に代々作り継いでいる、あまり流通していない豆のこと。「開拓時代に入植した人が故郷から持ってきた豆が、作り継がれているうちにその土地に馴染んだものなんです。だから、全国各地のいろんなルーツがあるみたい」。品種改良された豆に均一性があるのとは対照的に、在来種は野性味があって個性的なものが多いのだそう。実際に伊藤さんが見せてくれた在来種の豆も、それぞれに表情が異なる。

花嫁小豆は、下から2段目の左から二つ目。ピンク色の模様も花嫁を連想させ、かわいい。(写真提供/伊藤美由紀さん)

さらに特徴的なのは、その名前だ。たとえば、「花嫁小豆」。「小豆って基本、水に浸さなくてもすぐに茹でられるんですよね」。話しながら、伊藤さんの顔が輝き始める。「その中でも花嫁小豆は、特に茹で上がりが早い豆なんです。で、お嫁に行った娘が帰ってきて、『帰ってきたぞー』ってなった時に、それから茹でてもすぐに食べさせられるので、花嫁小豆。または、『娘きた』とかそういう呼び名もあるみたいです」。味も一般の豆と在来種の豆では異なるらしく、在来種の豆のほうが「良い意味で癖があって、濃い気がする」と伊藤さん。

楽しそうに話す様子につられて、こちらの姿勢もどんどん前のめりになる。大好きなものについて夢中で話す人は、どうしてこんなに輝いて見えるのだろう。伊藤さんをここまで虜にした、豆との出合いについて聞いてみた。

伊藤さんが豆に興味を持ったのは、過去に本誌に登場した北海道産豆の販売をしている遠軽町の「べにや長谷川商店」がきっかけだった。新聞で長谷川商店の記事を見て、在来種の豆というものがあることを知り、早速購入。頼んだ豆がダンボールにぎっしり詰められているのを見て、「すっごいきれい!」と豆の美しさにまず驚いた。それらを食べてみるとさらに、そのおいしさに感激した。「どんどん料理していったら、20品以上になったんです。それを食べきった達成感があって、こんなに喜んで食べたよということを長谷川さんに知ってほしくて、料理の写真をポストカードにして送ったんですよ。そしたらすごく感激してくださって」。
以来ますます豆料理やその写真撮影にのめり込んでいき、長谷川さんと直接対面を果たした際にもあっという間に意気投合。こうして伊藤さんは晴れて「豆のよこ好き」としての活動を始めることになったのだ。

現在は、長谷川商店と切り口は違えど、志を同じくする仲間として豆の生産量をなんとかして増やそうと、地道な活動を続けている。「どんどん減ってるんですよ。それがもうもったいなくて。せっかくこんないい豆があるのに、使わないのも、知らないのももったいないなって」。この想いが、伊藤さんが豆のすばらしさを伝える活動を続ける原動力となっているのだ。

伊藤さんが在来種の豆で初めて作った思い出の料理「前川金時のお赤飯」を味見する。ほんのり甘い赤飯と、ほくほくの大きな前川金時がおいしい。

豆の生産量が減っているのは、私たちが豆を消費する量が減っているからでもある。食べる人がいなくなると、その作物は次第に作られなくなっていく。伊藤さんは、豆を食べるまでのハードルを少しでも下げ、消費量を上げようと、簡単な下ごしらえの方法や、手軽なレシピを編み出すことにも力を注いでいる。「豆って、どうしても調理に時間がかかるんですよ。一晩水に浸けて戻してっていう。そこをなんとか短縮できないかと思って」。さらに伊藤さんは、ほとんど流通していない稀少な豆を、12〜13種類、自宅の庭で育てているそうだ。

こんなにも本気で豆の未来を考えている伊藤さん。その真摯な眼差しを見て初めに感じたのは、すでに「よこ好き」の域を超えているのではないかということ。だが、詳しく話を聞けば聞くほど思うようになったのは、「よこ好き」だからこそ発信できること、やれることがきっとあるのではないかということだった。「こんな風に、豆のある生活を楽しんでいますよ」という一消費者から発信される情報は、とても身近で、何より信頼できるメッセージとして私たちの胸に響いてくる。

心にグッとくるもの、心底好きだと思うもの。それが伊藤さんにとっては「豆」だったが、他の誰かにとってはまったく別のものだったりする。なぜ、伊藤さんにとっての「それ」は、豆だったのだろう。「やっぱり、北海道に住んでるからじゃないですか」。まっすぐに前を向いて伊藤さんは言う。「『北海道にこういうものがあったんだ』っていうことに気づいたからだと思いますね」。「豆」という、豊かな食べ物が育つ大地の延長に、自分が生きているということ。伊藤さんと「豆」という2つの点が、北海道によって線で繋がったということだろう。

べにや長谷川商店の地道な取り組みのおかげで、少しずつ認知度は高まってきているという、在来種の豆。北海道の風土に馴染み、ただ「おいしい」という理由でひっそりと作り続けられてきた小さな宝の粒が、これからも北海道に残っていきますように。

伊藤美由紀さんに、木のうつわで食べたいスープレシピを教えていただきました!


伊藤さんがおすすめする、豆の戻し方二つ

❶スープジャーで戻す
1.豆を洗う
2.スープジャーに豆を入れて、2分間熱湯で温める
3.一度湯を捨て、再び熱湯を注いでフタをしてそのまま3時間以上放置

❷一晩水に浸けて戻す
1.豆を洗う
2.豆の4〜6倍の量の水に浸けて戻す
3.豆のシワがなくなるまで一晩(約8時間)吸水させる


伊藤さんに教えてもらったレシピを元に、編集部で作ってみました!

暑い日にさっぱり食べたい「いんげん豆とミニトマトのはちみつレモンマリネ」

伊藤さんに教えてもらったレシピを元に、編集部で作ってみました!

●材料
いんげん豆 40g ※豆は、白金時豆、手亡、大福豆、白花豆といった白い色のいんげん豆がおすすめですが、なければ金時豆、とら豆、うずら豆、紫花豆でも。(写真は福白金時と紅しぼりを使用)
カラフルミニトマト 160g
国産レモン 1/2個
*ハチミツ 大さじ1
*水 大さじ1
*レモン汁 小さじ1.5
*白ワインビネガー 小さじ1.5
*塩ひとつまみ

●作り方
①下の「豆の戻し方」❶または❷の方法で、豆を戻す。
②鍋に豆を浸け汁ごと入れて中強火にかけ、煮立ったら弱火にしてフタをする。
 豆が軟らかくなるまで煮る(❶の場合は10〜15分、❷の場合は20〜30分)。
 火を止め、10分以上蒸らす。
③カラフルミニトマトを湯むきする。
④*をあらかじめ混ぜてマリネ液を作っておく。
⑤水けをきった豆、カラフルミニトマト、国産レモンの薄切り2~3枚を❹と和え、
 冷蔵庫に入れて30分以上おく。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.56
「深呼吸する旅へ」

スロウ編集部が、「心から行きたいと思える旅のかたち」を模索。旅先で出合える「自己の変化」にも目を向けた。

この記事を書いた人

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。