白老町虎杖浜。ここに工房兼ギャラリー「セラミックスタジオガク」を構えるのは、ガクさんこと吉田南岳さん。いつも編集部のことを気にかけてくれる、みんなの優しいお父さんのような存在だ。作る器は、色合いで言えば白と黒と、至ってシンプル。だからこそ「他にはないものを」、「武器となる工夫を」と常に心に置き、ものづくりに向き合ってきた。(取材時期/2019年)
Shop Data
CERAMIC STUDIO GAKU
住所 白老町字虎杖浜86-11
電話番号 0144-87-3302
営業時間 10:00~18:00
定休日 不定休
URL https://csgaku.wixsite.com/csgaku
ガクさんの工房を訪ねて
ガクさんこと吉田南岳さんに会うとつい、「カッコいいなぁ」と心の中で呟いてしまう。颯爽としていて、気さくで、いつも楽しそうに笑っている人。編集部とは、出版物やイベントを通して交流の深い作り手のひとりだ。
工房兼ギャラリー、セラミックスタジオガクがあるのは白老町虎杖浜。爽やかな青空と、風に運ばれてくる潮の香り。何となく、ガクさんのイメージと重なる部分がある。
そんなガクさんが作陶を始めて30年以上の時が流れた。大量生産大量消費があたりまえだった時代から、「楽しむ器」という概念が加わるようになった近年。そうした背景を受けて、ガクさんが作品づくりの大きなテーマに据えたもの。それは、「北国の風土」だ。
北海道の自然をヒントに。陶芸ひとすじ35年以上。
ふんわりと軽やかで、儚い雪をイメージした「沫雪」。対する「雪氷」は、凍りついた雪が膨張してひび割れる様にインスピレーションを得ており、ピリッと引き締まった雰囲気だ。2016年には、鈍い光を帯びた黒い器、「夜凪」シリーズが登場。工房の近くに広がるあの美しい海に、夜、優しい光を放つ月の昇る様子がありありと思い浮かぶ。
そして最近新しく加わった、もうひとつの「黒」の表現。厳しい寒さに凍りついた大地に幾筋も走る縮れ模様のようなひび割れを表現した「凍裂」シリーズ。最も厳しい季節を超えて春に向かおうとする、生命力のようなものまで感じられる。
白の表現から、黒の表現へ。そして今後は再び、「違う方向から白の表現をやってみたい」と話すガクさん。月日を重ねながら、その時々に「目指すもの」を深めていく。
ひとつのカタチを作り上げるまでには、長い道のりがある。しかしガクさんは、それらの過程をことさらに語らない。その器を目にしたとき、手に取ったとき、「ほしい」と思えるものかどうか。ただそれだけのこと。器を作ることがゴールではない。使ってもらえなければ意味がない。独りよがりにならないように、いつだって使う人の存在を忘れないように…。
見て、手に取って、「この器がほしい」と思う瞬間の高揚感。器を購入するという行為の中で、作り手と買い手の間を目に見えない無数の情報が行き交う。器を通して私たちの中に流れ込んでくるものの正体は、一体何なのだろうか。ふと、ガクさんの言葉を思い出した。「作品ではなくて、作風を作る感覚で器を作る。それ自体から、醸し出されるエネルギーのようなものが感じられる器。それが、長く愛される要素でもあるんじゃないかな」。
この記事の掲載号
northernstyle スロウな旅北海道 vol.8
「西北海道 3泊4日のドライブへ」
北海道を東西に分けて、ゆったり、じっくりと楽しむ旅をご提案する旅本シリーズ第8弾。今号は、西エリアを回る3泊4日の度のルートをご紹介。