道南の魅力が咲くキャンドル 〈710candle〉

710candle(ナナイチマルキャンドル)は、作家の和泉詩織さんが営むキャンドル工房です。2017年に函館市の大三坂ビルヂング内にオープン後、2019年5月に谷地頭電停のすぐ側の店舗に移転しました。店内では和泉さんやスタッフが手がけた作品を購入できる他、製作体験も可能です。キャンドルを華やかに彩るドライフラワーはすべて、函館周辺の森町や七飯町で生産されたもの。「いつか芯も蝋も地元で生産したい」という思いで、和泉さんは現在、地元の生産者と共に芯の素材となる和綿栽培プロジェクトに挑戦中です。(取材時期/2020年11月)

Shop Data

710candle
住所 函館市谷地頭町25-16
電話番号 0138-76-1123
営業時間 12:00~16:00
営業日 土・日曜

製作体験 下記メールか各種SNSより事前予約。年中無休で対応可能。
mail 710candle.order@gmail.com
URL https://710candle.com
贈りものにも 思い出の花束を持参してキャンドルに使うこともできます。

小さな灯りに救われて

色とりどりのキャンドルやドライフラワーに囲まれた710candleで、和泉詩織さんは明るい笑顔で迎えてくれた。和泉さんの第一印象は、明るさにあふれたひと。少し会話をしただけで、なんだか元気を分けてもらったような感覚になった。そう伝えると、「こんな風に笑えるようになったのは、キャンドルに出合ってからなんです。実はそれまで、ふさぎ込んでいた時期がありました」という意外な言葉が返ってきた。

和泉詩織さん。710candleの名前の由来は、誕生日である7月10日から。

和泉さんがキャンドルと出合ったのは、地元を離れ、東京で働いていた頃のこと。忙しい日々を送る中、さまざまなことが重なり、気が付いたら「すっかり心が疲れて」いた時期があったという。「そんな時、佐藤伝さんの『夜の習慣』という本に出合って。その中で、お風呂でキャンドルを点す習慣が紹介されていたんです」。それを読んだ和泉さんは、ある日の夜、実際に試してみた。「心がほっと癒やされて、解けていきました。それだけで本当に、心の持ちようが変わったんです」。

それから日々の癒やしとしてキャンドルを楽しむようになった和泉さんは、2010年頃、あるキャンドルの体験会へ参加。それがきっかけとなり、キャンドル作りの技術を学び始めた。「あっという間に夢中になって、作って使っているうちに気が付いたら心もすっかり明るくなっていて。本当に、キャンドルとキャンドルがつないでくれた縁に救われたなって心から思います」。

地元の良さを伝えるために

キャンドル作りを続けるうちに、少しずつ和泉さんのキャンドルを求める人が増えていった。同時に、心は故郷へ向いていく。「父が漁師で、実家には大きな畑があって、ほぼ自給自足のような環境で育ちました。子どもの頃はあたりまえだと思っていたけど、実はすごく豊かですよね。東京に出てみて、地元の良さに気づけたというのかな。キャンドルのお店も開きたいし、自分らしく暮らしたい。そう考え始めた時、地元へ戻ることが一番自然に思えて」。こうして和泉さんは、森町へ移り住む。その後、七飯町や函館市など道南を拠点に活動するようになる。

「七飯町って、カーネーションの生産量が北海道で一番なんですよ」と、和泉さんはちょっぴり誇らしげな表情で教えてくれた。「もちろん出荷量が多いだけじゃなくて。初めてハウスいっぱいに咲くカーネーションを見た時に、ほんっとに美しいなって圧倒されました」。和泉さんの中で、「地元の魅力をキャンドルで伝えたい」という気持ちが花咲くように広がった。

自分たちの畑でも花を育てる傍ら、和泉さんがいつも心に留めているのは「持続可能」というキーワード。七飯町では、より質の高いカーネーションを生産するために最初に咲いた花は捨てられてしまうそうだ。710candleでは、そんなカーネーションの花も活かしてボタニカルキャンドルを作っている。美しさを伝えながらも、炎が燃え移らないように計算し尽されたバランスで花を埋め込んでいる。

この土地のもので、みんなを笑顔にする

710candleでは今、森町の山本農園の協力を得て、和綿栽培プロジェクトに挑戦中だ。「今はすべて、国産のコットンを使用しているのですが、ゆくゆくは芯の素材となる和綿から自分たちで作りたいと思っていました。森町で育てた綿花で芯を作って、道南の花を入れたキャンドルを作る。すべて、この地域の土から生まれたキャンドルでみんなを笑顔にできたらなって」。

森町で栽培を始め、初めての収穫シーズンにできた綿花。

「綿花は、海が好きなんですよ。海岸の気候が栽培に向いているんです」。森町が海に面した地域だから、綿花の栽培に適しているはず。とは言え事例はなく、本当に成功するかはわからない。最初は協力してくれる農家探しに苦戦したという。そんな時に出会ったのが、山本農園の山本さんだった。「収穫できるまで、3年はかかるよ。上手くいくって保証もないよ。どれくらい覚悟あるの?」という山本さんの問いに、和泉さんは「5年でも10年でも待ちます!」と力強く答えた。山本さんは「そうか」と笑って、和泉さんの思いを受け止めてくれた。こうして2020年の春、和綿栽培プロジェクトは始まった。

これから収穫した和綿を使った芯づくりを進めていく予定。

「山本さんは3年かかると言ったけど、1年目で収穫できたんですよ!」。和泉さんはうれしそうに、収穫した綿花を見せてくれた。真っ白で、ふわふわと柔らかい。紙など他の素材を混ぜないコットン100%の芯は、ススも出にくく、空気清浄効果も上がることから、キャンドルとしての質も高まるそうだ。「芯から始まって、ゆくゆくは服に広がってもいいなと思ってます。森町のコットンって地域のPRにもなるはずだし、上手くいけば地元に雇用も生み出せる。簡単じゃないと思うけど、きっとできる。そんな風に考えていたら、ワクワクしちゃって」。そう言って、和泉さんはまた明るく笑った。

和泉さんにとって何より大切なのは、使ってくれる人、作る人、花を育てる人、みんなが笑顔でいられること。だから、「キャンドル作家になりたい」という人から相談があれば、スタッフとして受け入れて和泉さん自身の経験を伝えることを惜しまない。地元の人を巻き込んだ和綿栽培のような活動の根底には、雇用やPRなど地域のためになればという思いがある。

「心にアカリを」。それは、710candleのものづくりの芯。その芯に点るささやかな炎は、今日も明日も、たくさんの人々の心で優しく揺れる。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。