小さな老舗工場から、紙工の技術を世界へ〈北海紙工社〉

紙が持つ、素材としての面白さ。それを活かす、「紙工(しこう)」の技術。北海道の老舗紙工会社「北海紙工社」の自社ブランド「ほっかいしこう社」が生み出す北海道ポストカードは、紙でものづくりをする楽しさを思い出させてくれるような、そんな商品です。誕生したきっかけは、家業を継ぐためにUターンして来た梅田さん自身が、紙工の面白さに見出されてしまったことでした。(取材時期/2020年6月)

Shop Data

北海紙工社
住所 石狩市新港南2丁目3722-4
電話番号 0133-64-5633
URL https://sikoh.co.jp

「紙工」の技術に特化した「北海紙工社」

紙で形ある「もの」を作る。その可能性は無限大だ。種類や厚さ、色…。それらだけではない。貼り合わせたり、打ち抜いたり、箔を押して模様をつけたり。素材のさまざまな特徴に、紙自体を加工する技術「紙工(しこう)」を掛け合わせることで、紙の可能性は真に無限大になる。北海紙工社は、そんな紙工技術に特化した印刷加工会社だ。

1931年、札幌市の中心部でスタートした北海紙工社。当時から今日まで、お菓子のパッケージとして利用される、貼箱や化粧箱をメインに製造している。加工の種類は、任意の形に紙を切り抜く「打ち抜き」、厚手の紙に印刷する「厚物印刷」、熱と圧力で箔を紙に転写する「箔押し」、紙と紙や、紙と段ボールを貼り合わせて強度を高める「合紙」など。中でも北海道ではいち早く、打ち抜きの加工ができる機械を導入した会社として知られていた。「機械のメーカー側が工場に視察に来るほど」熟練した技術を持った職人もいたくらい、技術力で知名度を上げていた同社。専門性の高い分野である紙工の世界で、優れた技術を持った職人の存在はとても大きかったことだろう。北海道では、「紙工なら北海紙工社」と言われることもあるほどだった。

ビクトリア式打ち抜き機を巧みに操る工場長の高橋さん。

工場を大きくするため、少しずつ郊外へ移転し、2003年から現在工場を構える石狩市へ。工場を訪ねると、それぞれの持ち場で誇りを持って機械を動かす職人たちの姿があった。人数は少数精鋭の14名。50年も使っているという、ビクトリア式打ち抜き機(上写真)など、レトロな印象の機械が現役で使われている。ちょうどそのとき、オリジナルポストカードのホッキョクグマを打ち抜いているところだった。止まることなく動き続けるビクトリア式打ち抜き機に、職人がタイミングと見当を精度よく合わせてホッキョクグマに
使う紙を挟み入れる。一歩間違えれば大けがを招く恐れもあるほど、むき出しでシンプルな機械。勤続26年になる工場長の高橋さんは、身体全体を使って機械を使いこなしていた。「自分より技術のある人はたくさんいますから…」と控えめに語る姿が印象的だった。少ない人数で回すため、一人で複数の工程を担当することもあるという。各工程にかかった時間を計測しながら、無駄を省き日々技術の向上に努めている。

人気雑誌『デザインのひきだし40(グラフィック社)』の付録にもなった、組み立てられる名刺。小さくて複雑なスジ入れ(折り目)ができる北海紙工社ならではの製品。複雑な立体構造は、札幌市で活動する「HACOYA」。デザイナーの森川瞬さんとの三者共同制作。

Uターンして、紙工のおもしろさに目覚めた

オリジナル文具ブランド「ほっかいしこう社」は、現社長の息子である、梅田修平さんが北海道に帰ってきたことから始まった。梅田さんが家業の北海紙工社へ入社したのは2015年のこと。それまで携わってきた東京の映像制作の仕事とは、まるで異なる世界へ足を踏み入れることになった。「最初は印刷や紙の加工に価値があるのかわからず、戸惑いもあった」と振り返る梅田さん。まず始めたのは、紙工の技術を学ぶところから。少しずつ知識の扉を開くうちに、全国の紙工会社について知ることになる。

東京都にある福永紙工や篠原紙工。紙工を生業とする会社が生み出す製品から感じる、紙工技術の可能性や圧倒的な風格。彼らのものづくりを目にするうち、梅田さんから見る「紙工」のイメージは少しずつ変わり始めた。幼い頃から、遊び場にして走り回っていた工場。周囲で見守ってくれていた、親のような職人たち。昔のそんな思い出が、北海紙工社をあまりに身近なものにしていたのだろう。日本で活躍する紙工会社を知り客観的になったことで、北海紙工社の職人やその価値の高さ、技術のかっこよさについて、改めて再認識することにつながっていったそうだ。

印刷の過程において、どうしても終盤の工程になる紙工。下請けの仕事だけでなく、自信を持って発表できるものを作りたい。「北海紙工社オリジナルの製品が作れないだろうか」。梅田さんは、次第にそう考えるようになった。そんな折、日本政策金融公庫が主催する商談会の話が舞い込んだ。

2018年、製品化の機会を得て、オリジナル文具ブランド「ほっかいしこう社」が生まれた。「平仮名にしたのは、まずは読んでもらえるように。そして、難しそうな紙工のイメージを柔らかくするため」という2つの意図があった。

紙工の面白さが詰め込まれた、「北海道ポストカード」シリーズ

まず形にしたのは、「北海道ポストカード」シリーズ。ヒグマや木彫りのクマ、山岳や流氷など、北海道のイメージに紙工の技術を掛け合わせたポストカードだ。北海道発のものづくりであることを大切にしたい梅田さんだから、できるだけ北海道のクリエイターを起用したいと考えたのも自然なこと。そこで札幌市で活動するグラフィックデザイナーの川尻竜一さんに声をかける。「ひと目で驚きを与えるようなものにしたい」という梅田さんの要望に、四角や丸などのシンプルな形で想像力を掻き立てる川尻さんのグラフィックデザインがぴたりとはまった。当初1種類の予定が、5種類制作することになったのは言うまでもない。「実は、じっくり見ると気づけるような工夫がたくさん隠されているんです」と、楽しげに語る川尻さん。「紙工技術でものを作るワクワクを、たくさんの人に伝えたい」というコンセプトを自分たち自身で体現しながら、北海道ポストカードは完成した。

作品に落とし込まれた作り手のワクワクした思いは、きっと物から滲み出るように相手に伝わる。北海道ポストカードは、手にした人に驚きや感動を与える紙製商品に贈られる「紙モノ大賞」において、2019年に手紙部門の大賞を受賞。梅田さんが感じた北海紙工社の可能性は、外からの評価を受けて、より確かなものになっていった。

梅田さんと、北海紙工社を支える職人たち。「一人でも欠けると回らない」と信頼を口にする梅田さん。

「ほっかいしこう社」の立ち上げを機にメディアへの露出も増えた。自社商品ができたことでイベント出店を始めた。商品を通して一般の人とリアルなコミュニケーションを重ねることで、自社のファンができた。知名度は増し、道外のクリエイターからの依頼も増えてきているという。「ものづくりへの志を同じくする仲間が増えているような感じです」と、梅田さん。「北海道から世界へ、紙工技術の可能性や面白さを伝える」という思いの芽は、今ちょうど背を伸ばしているところだ。

北海紙工社が選ばれる理由は、職人の技術力だけではない。前例のない依頼がきても、できる限り追い返さない。実現する方法はないか、プライドを持って道を探る。そして、コンセプトの部分からクライアントと一緒になって考える。対等な関係性の中で、より良いものを作ろうとする姿勢が生む信頼。それも、北海紙工社の大きな特長だ。

きっとその社風は、梅田さんにとっても追い風になっている。新しく始まったブランドを、面白がって応援してくれる社員たちがいる。技術で応える職人がいる。自らが置かれた環境の意味を探りつつ、「自分にできることを」と、これからの北海紙工社の道を作り始めている梅田さんがいた。

筆者も同じく印刷会社に属する一人として、北海道にこんな熱い志を持つ地域企業がいることを知り誇らしさを抱いた。手元にあるポストカードを誰に送ろうか考える楽しみをもらった。こんな風にして、ほっかいしこう社の活動は、今日も小さな誰かの心に、ものづくりのワクワクを届けている。

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この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.64
「手紙に添えて」

コロナ禍を受けて。届けたい足元の豊かさ、今、変わらない思い、気づいたこと、考えたこと。変えていこうとしていることを綴った手紙。

この記事を書いた人

石田まき

石田まき

スロウ日和編集長。ライター兼カメラマン。初めて訪れた北海道で、空の広さに一目ぼれ。言葉と写真の両方でこの地の豊かさを伝えるため、九州から移住。ホタテが大好物。