公園の中の小さな宿で、旭川の日常を丸ごと味わう〈旭川公園ゲストハウス〉

旭川駅から電車で約15分の永山駅。さらに歩いて約15分、線路沿いの住宅街にある3棟のタイニーハウスが旭川公園ゲストハウスの宿泊棟です。3棟それぞれにコンセプトがあり、少しずつ仕様も異なります。オーナーの松本さんが伝えたいのは、「旭川のいつもの日常」。共同スペースに旭川家具のイスを置いたり、食事を出す器は地元の作家のものを使ったり。さりげなく旭川の魅力を旅行者に伝えています。オープンは2019年、宿泊のほか、カフェとしての利用も可能です。

Shop Data

旭川公園ゲストハウス
住所 旭川市永山1条24丁目2−4
電話番号 090-6664-4141
営業時間 11:00~16:00(カフェ)
定休日 日・月曜(カフェ)

宿泊料 1泊 7,300円~
URL https://asahikawakoen.com
新聞 元新聞記者のオーナーが「気まぐれ新聞 ASAHIKAWA JOURNAL」発行中

地元の人の日常は、旅人にとっての特別

住宅地の真ん中にある、小さな公園のような空間とタイニーハウス。ここ、旭川公園は地元の人と旅人が行き交い、たくさんのつながりが生まれていく場所だ。

「一番知ってもらいたいのは、旭川市で暮らす人々の日常。ここを拠点に、いろいろな場所へ出かけていってほしいから、宿としてのつくりは至ってシンプルです」とは、オーナーの松本浩司さん。兵庫県出身で、高校時代から何度も旅行に訪れていた北海道に宿をオープンしたのは、2019年の秋のことだ。

旭川を選んだのは、「まだまだ知られていない魅力が多い土地」だと感じたから。松本さんが思う旭川の魅力とは、「人と自然、人と人との距離の近さ」。街から森や山へのアクセスが良く、面白い活動をしている人や素敵なモノを生み出す職人たちが、小さなエリアにたくさん集まっている。

「旭川の人たちの日常のクオリティーってとても高いですし、その日常が旅行者にとっては特別だなと。そんな旭川の日常に気づいてもらえるような場所をつくろうと思いました」。こうして松本さんは、北海道で出会ったたくさんの人たちの協力を得ながら、かつては地域の公園だった場所に宿を建てた。

この土地で作られたモノから、地域を伝える

宿泊者の共同スペースとして使われるコモン棟「島」には、いくつかメーカーの異なる旭川家具のイスが置かれている。「ひとつのメーカーにこだわらず、いろんなタイプのイスを置くことで、それぞれの個性が混ざり合うような空間になったら」とは、松本さん。「一つひとつ、各メーカーを回って話を聞いて選んだので、思い入れがありますね」。

もうじき座面を張り替える予定の「ハーフチェア」

「たとえばこのイスは、メーベルトーコー(というメーカー)の『ハーフチェア』と言います。名前の通り、座面が普通のイスの半分しかないんです。元々チェロ奏者が楽器を演奏する時に適したイスなんですが、座ると身体が支えられる感じがして、姿勢が良くなるんですね。見た目も独特なので、お客様から質問を受けることも多いです。朝食を召し上がっていただく時におすすめです」。

セミオリジナルの「ホタルスツール」。白樺材を使用。

「これは、旭川家具のメーカーのものではないのですが、物語のあるイスなんですよ」。松本さんはそう言って、テキスタイルと丸いフォルムが可愛らしい2脚のイスを並べてくれた。「岡山県の家具メーカー・ようびと、氷室友里さんというテキスタイルデザイナーの作品に、ひと目惚れしてしまって。旭川の材を使ったものがあったらいいなぁという話を旭川の木こり・清水省吾さんに話したら、一気に話が進んでコラボレーションが決まったんです!」と、うれしそうに話す。

「一脚のイスから、清水さんの話や旭川の森の話、さらにそこから派生して薪の話につながったり。そういう風に、旭川の人やモノのことを知ってもらえたらうれしいですね」。旭川のものを中心としつつも、こだわり過ぎない。いろいろなものが混ざり合うことの面白さを忘れないのが、松本さんのスタイルなのかもしれない。

小さな気付きや、つながりに出合える旅を

ある日の朝食。お茶は市内の上森米穀店の黒米茶。

イスだけでなく、朝食に使う食器や材料にも、なるべく“地域”を感じられるものを。宿のすぐ側で、自分たちで育てた野菜を収穫し、食事に使うこともある。そんな風に、さりげない形で地元のモノに触れられるのも旅行者にとってはうれしいところ。いずれも、松本さん自ら工房や畑を訪ねて、その思いや背景に魅力を感じているものばかり。だから旅行者との会話の中で伝えられることも多い。

宿泊者が、宿の家具や食器から作り手の物語に興味を抱く。その先に、「どんな人が作っているのか知りたい、その人に会ってみたい」という気持ちが生まれたなら、それは松本さんにとって、とてもうれしいこと。「最近、ここに置いてあるイスをきっかけに旭川家具に興味を持ってくださった方がいたので、一緒に家具工房を訪ねました」。ただ説明するだけでなく、時には松本さん自身が宿泊者と地元の人とをつなぐこともあるなんて。旅先で知った工房を個人で訪ねるのはなかなかハードルが高いかもしれないけれど、松本さんのように間に入ってくれる人がいたなら心強い。

「僕が話せることもあるけど、やっぱり作り手の思いは、できることなら直接聞いたほうがいいじゃないですか。そうやって、お客様と旭川の人との間につながりが生まれてくれたらうれしいですし、そんな旅のきっかけになれたら」。そんな思いがあるからこそ、できるだけ一緒に工房を訪ねたり、「こんな人いるよ!」と紹介したり。小さな情報を結ぶように、地域の魅力を伝えている松本さんがいる。

情報にあふれた今という時代、インターネットなどで自分で調べるだけでも、たくさんのことを知ることができる。けれど、現地の人と直接会って得られる情報や、そこから生まれるつながりは、旅をすることで初めて出合えるもの。旭川公園は、そのきっかけをくれる場所なのだ。この宿を拠点に〝旭川の日常〟の中へ一歩飛び出せば、素朴だけれど心豊かなひと時が待っている。

(取材時期 2020年9月25日)

松本さん

「スロウ日和をみた」で、「みんなの公園ファーム」へご案内します。※冬期はポストカードプレゼント。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。