考え、選び、行動する。パン職人出合さんの生き方

パン,石窯パン,イートイン,富良野市

自分たちの作るパンで、元気に幸せになってほしい。そんな願いを込めて作られる、ラフィのパン。作るパンは約30種類。生地には、十勝産小麦とルヴァン(小麦で起こす酵母)を使います。薪窯で焼き上げるどっしりしたハードパンから、気軽に食べられるスイーツ系まで。納屋を改装した店内には、イートインスペースもあります。

Shop Data

Boulangerie Lafi(ブーランジェリー ラフィ)
住所 富良野市字西扇山2
電話番号 0167-23-4505
営業時間 9:00~16:00
定休日 不定休(主に月曜)
店名の由来 アフリカのブルキナファソの言葉で「元気」や「状態が良い」という意味

この日は大きなイベントのために、店内スペースをフル活用してのパンづくり。

挫折から、パン職人の道へ

出合祐太(であい ゆうた)さんにとって、パン職人という生き方はあくまでもツール。理想の暮らしを実現するための選択肢の一つだ。

学生時代を野球ひと筋で過ごし、いずれは野球関係の職に就きたいと思っていた出合さん。ところが「だんだん、現実が見えてきて」、夢を諦め、大学3年生の冬から一般企業への就職活動を始めた。

合同企業説明会で「体力あるならうちにおいでよ」と誘ってくれた札幌市内のパン屋に、製造スタッフとして入社する。「これまでの生活リズムとほとんど真逆だしわからないことだらけで、とにかく大変(笑)」。それでも自分なりに勉強しようと、休日には道内のパン屋を巡ったりしていた。

振り返ってみて、「すごく影響を受けた」パン職人との出会いもその頃のこと。郊外型で、手づくりの石窯を使ってパンを焼く人気店の店主だった。「こんな人がいるんだ、石窯って自分で造れるんだって。ぼんやりと、自分もいつかはこんな風にできるかなって憧れました。で、僕がそう言うと『やればいいじゃん』って」。23歳の若者に、先輩が贈った言葉。「でも、当時の僕にはその意味がわからなかった。大学でいっぱい挫折を経験していたのもあったんでしょうね。わかったのは、アフリカに行ってからでした」。

パン屋でハードに働きながら、出合さんの中には次第に迷いが膨らんできた。「この仕事を一生続けていくのだろうか。他にやり残したことはないのだろうか」。思い至ったのは、高校生の頃から興味を抱いていた海外ボランティア。出合さんは1年勤めたパン屋を辞め、JICAの海外ボランティア派遣に参加することに。

アフリカの子どもたちが教えてくれた、行動を積み重ねることの大切さ

ブルキナファソにて。

行き先は西アフリカのブルキナファソという国。先方からの要請は、野球文化の普及。出合さんに打ってつけの内容だった。文化も生活環境もまったく異なる異国で過ごした2年間。「電気も水道もない所で何かやろうと思ったら、作るところから始めないといけない」。水がなければ井戸を掘る。野球を知らない子どもたちに、野球ボールに触れてもらう。

ゼロからイチを作るために、一つひとつの行動を積み重ねていくことの大変さとやりがい。「リスクがあってもその先に楽しいと思える目標があるなら、それは『やりたい』ことなんだ」。そう気づいたとき、あのパン職人が言っていた言葉の意味が腑に落ちた気がした。

手づくりの石窯は、“挑戦”や“やりたいこと”を象徴する道具

任期を終えて帰国すると、新規オープンする商業施設内のパン工房に職人として勤務。同じく富良野市出身の妻と共に、店舗を開くための準備に取りかかった。「ボランティアを続けたかったから自営業をやろうと思って。自分にできることは、やっぱりパンだった」。

こうして2013年、富良野市の郊外の古民家をフルリノベーションしてブーランジェリーラフィを開く。店名は、ブルキナファソの言葉で「元気」や「状態が良い」という意味。「自分たちの作るパンで、元気に幸せになってほしい」という願いを込めた。耐熱レンガを積み上げて手づくりした小さな石窯でスタートさせたパン屋。2015年には奥行きの長いものに造り直し、同時に敷地内にあった納屋を改装して、店舗をリニューアルしている。

石窯の良さについて、出合さんは「窯伸びがいい」と話す。成形したパン生地を窯の中に入れて30〜40秒すると、生地がぐっと膨らむ瞬間がある。これが窯伸びだ。「遠赤外線効果だと思うのですが、石窯だと他の機械よりもよく伸びます」。

扱いは、やはり少々難しいと出合さん。「データを蓄積するというよりも、感覚的に身体に覚え込ませる」。前日から窯の中に薪を入れて乾燥させ、翌朝着火。約1時間後、窯内が十分な温度になったら灰を掻き出す。窯の入り口に温度計をかざして測ったところで、小麦をひと掴み窯の中にパッと振り入れる。何をしているのかと思えば、「小麦の焼け方を見ている」そう。「すぐ黒くなったら高すぎるんです。たぶん300度くらいある。240〜250度くらいがちょうど良い。小麦はゆっくり茶色くなっていきます」。正確には測れないので感覚や経験則で。そして左右の奥から中央の順に、「パズルみたいに」成形したパン生地を並べていく。

焼き上がる順番も、パンを入れた場所やパンの種類によって異なる。ピールでパンを素早く出し入れする様子は、どこかリズミカルだ。工房では複数のオーブンを併用しているので、あちこちで鳴る「ピピピ」という音にも素早く対応する。次々と焼き上がるパン。取材に訪れたのは大きなイベント前。Closedの看板がかかった店内にはところ狭しとパンが並び、香ばしい小麦の香りでいっぱいだ。

十勝産小麦とルヴァンで仕込む、外はカリッ、中はしっとりのパン

出合さんが理想とするのは、「クラスト(外側)はしっかりして、内側はしっとりしたパン」。生地には、十勝産小麦とルヴァン(小麦で起こす酵母)を使う。「良い一次発酵ができるよう、環境を整えることが大切」と出合さん。調整はするけれど、「手をかける程にパンはおいしくなくなる」というのが持論だ。一番良い状態で石窯に入れることで、酵母も生地も、その力を存分に発揮してくれる。

あくまでも環境を整えることに徹して、より良い方向に向かっていけるように導く。それは、野球を教えるときにも共通することだ。子どもたちが自分で考えて、挑戦できる環境を作る。そうして自信をつけて、成長していく姿を見られることが、出合さんの歓びだ。

午前3時に起きて午前中はパンを焼く。昼過ぎに配達を終えたら、午後は自身が主宰する野球教室などの時間。年に一度、1週間ほどは店を従業員に託してブルキナファソに行き、野球普及のボランティアも続けている。

考えるから、面白い。パンづくりも、人生も

2019年時点で、36才の出合さん。これからの展望を聞いてみると、「今の店は誰か若い人に譲って、僕は次の“クリエイト”に向かいたい。それが別のパン屋なのか、他の何かなのかはわかりません。でも、面白い人を育てていけたらいいなと思うんです」。あっけらかんとした笑顔。その言葉に驚かされたけれど、出合さんらしい。

「早く効率的にはできません。でも、便利すぎると考えなくなるでしょう? それは面白くないから」。パン作りも、人を育てることも同じ。考えて、選び、行動する。その繰り返しが、生きるということなのかもしれない。

(取材時期 2019年10月25日)

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.61
「パンは語る」

道産小麦もあたりまえになりつつある現在。BIO小麦や薪窯、酵母。それぞれのこだわりを追い求める、北海道のパン。

この記事を書いた人

家入明日美

家入明日美

火の国・熊本出身。野生動物の勉強がしたくて北海道へ移住し、自然のことを伝えたくてスロウ編集部に入る。馬とナキウサギ、やんちゃな飼い猫と怒髪天が心のオアシス。