赤い腰折れ屋根の古民家カフェとスープカレー

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『スープカレーは、「赤」「黒」「白」の3種類。メインの具材は鶏、エビ、豚角煮、野菜から選べます。 写真提供/café Jorro

北海道の風景にしっくりくる、腰折れ屋根の古民家。古民家再生を手がける建築家に依頼して、赴きある佇まいを残しつつリノベーションしました。2013年夏にジョウロを開く前は、長年、カレー店を営んできた店主。スパイスの効いたコク深いスープカレーは、「赤」「黒」「白」の3種類。メインの具材は鶏、エビ、豚角煮、野菜から選べます。当別町の陶芸家、清水しおりさんが手がける器で提供されるスイーツには、札幌の老舗コーヒー店森彦が焙煎したコーヒーを添えて。

Shop Data

cafe Jorro(カフェ ジョウロ)
住所 音更町木野新町1
電話番号 0155-30-6617
営業時間 11:00~17:30(L.O.17:00)

定休日 日曜
URL https://cafejorro.wixsite.com/jiro
編集者のお気に入り席 奥の部屋のカウンター席。本を読むのも好き。

店主のイチローさんのこと

私がイチローさんについて知っていることと言えば…。

本名、中山一郎。トレードマークの眼鏡と帽子(最近では髭)。オレンジ色の小さな車に乗っている。酔っ払うといろんな物をなくす。ついでに記憶もなくす…。そして、とびきりおいしいカレーを作るということ。何を隠そう、私のスープカレー初体験は、イチローさんが営んでいた店、「天竺」でだった。

妹に「絶対おいしいから!」と誘われるままに、スープカレーを食べた。サラサラのスープに、ごろりとした骨のないチキンとニンジンのみのシンプルなもの。正直、はじめは「え? これだけ?」。そう思った。その頃は、ルーとライスが別々に出されるスープカレーの食べ方すらわからなかったから、妹にならってご飯を全部スープに入れて食べた。

…それは衝撃のおいしさだった。チキンは煮込まれて、フォークを刺すとすぐにほろほろと崩れるようだったし、スパイスの効いたスープの深いコクといったら。それ以来ずっと、天竺のカレーのファンのまま。商売っ気がないように見えたから何かあったら店を辞めやしないかと心配で、客にアピールできるよう、テーブルに飾るポップを手づくりしたこともあった。

腰折れ屋根の古民家をリノベーション。カレー屋天竺 カフェになる

そんなイチローさんが、ある時「いい建物があるんだよね~」と、不動産会社のホームページに載っていた建物を見せてくれた。森に囲まれた、赤い腰折れ屋根の家。郊外の農家跡か何かと思ったら、音更市街地にあるという。「登り坂のカーブに入ろうとするところから、チラッと見えるから」。場所を教えてもらい、雨が降る中、そこに向かった。注意深く見渡しながら向かうと、「あ、あれかも!」一度は通り過ぎてしまった。背後を山に、周りを住宅に囲まれた場所に、雨にぬれそぼった2階建ての古い家が建っていた。まるで、遠い昔に、かくれんぼしたまま、誰にも見つけられなかったかのようにして。

そのとき私はイチローさんに、「写真の被写体になるよね」というくらいにしか話を聞いていなかった。だから、だいぶ後になって、「あの土地と建物を買ってカフェをやる」。そう聞いたときには驚いた。カレー屋天竺オープンから13年。「店を始める前から、いつかコーヒーを淹れるオヤジになりたいな~と思ってたんだよねぇ」。そんなイチローさんの夢も、初耳だった。天竺カレーはどうなってしまうのか。それが私の知りたいことだったけれど、とにかくイチローさんの夢が叶いそうだということで、カフェとして生まれ変わる予定の腰折れ屋根を再び訪れることにした。

イチローさんがその建物を初めて見たのは、2011年の冬のこと。雪深かったこともあり、その時はちらりと見るだけに。春になってふたたび訪れてみると、福寿草やふきのとうがあちこちから顔を出していて、その様子をとても気に入ったそうだ。「生命の芽吹きというか。あちこちからぽこぽこ芽を出してて、それが面白くて、欲しくなってきたんだよね」。

建物は築60年。以前住んでいた人は井戸水を使っていたため、上下水道もなかった。空き家になってから15年くらい経っていた。

買い取った家を自分で改装するのは、あまりにも困難だったので、天竺を始める前から知り合いだった古民家再生を手掛ける建築家に相談する。新築の家は今の技術を持ってすれば、数ヵ月で建てることができる。しかし、古い家を直しながら造るとなれば、一年越し。時間も手間もかかる仕事だ。

イチローさんが正式に家を買い取ったのは、2012年7月。当初店だけを造る予定で図面を考えていたのだが、イチローさん、10月に突然結婚! 相方の詩子さんと共に、その2階に住むことになって、図面は変更になる。1階にトイレやお風呂などの水周りと店、2階に2人の新居があるという造り。3月から本格的な工事がスタートし、まずは床を壊して、壁はもう一層増やして内断熱材を入れた。外断熱ではなく、内断熱にしたのは、蔦が這う外壁の雰囲気を残したかったから。

古い物のデザインや造りは、今では失われてしまったものも多く、そこに、可愛らしさや懐かしさを見出すのは、イチローさんだけではないはずだ。使えるものは使いながら、カフェとして生まれ変わる建物。

家自身も驚いていることだろう。そして、うれしがってもいるに違いない。建物はそこに人が居てこそ。2人の住まい、そして新たに人が集うカフェとして、再生した家。新しくつくるカフェには、「Jorro」、じょうろと名づけた。木を植えて水をやる。イチローさんの新しい夢だ。

人が訪れる場所として、再スタート。メニューには、おなじみのカレー

1階はカフェで2階は住居。スパイスの効いたコク深いスープカレーは、「赤」「黒」「白」の3種類。メインの具材は鶏、エビ、豚角煮、野菜から選べる。

中山さんが叶えたかった夢のひとつが、本格的なコーヒーを出すこと。そのために、札幌の老舗カフェ『森彦』に通い技術を身につけた。

「自分が学生の頃には、帯広にも100軒以上の喫茶店があったんだよね。そのほとんどがなくなってしまったけれど…」。青春時代に憧れた喫茶店のマスターたちの姿。いつかは自分もあんな風になりたい。その思いを温めながらカレー屋を13年。現在の建物に出会ってにわかに喫茶店熱が高まり、とうとう「コーヒーを淹れるオヤジ」になったのだ。

カップやスイーツの器は、当別町の陶芸家、清水しおりさんの作品。

店内のテーブルやイス、照明、棚などは、もともとこの家にあった物や、古道具屋を巡り手に入れた物がほとんど。そのせいか、自然と空間に馴染み居心地がいい。これからも少しずつ手を加えて、周りには木を植えていきたいと中山さんは話してくれた。「かつて店の周りで暮らしていたリスたちが、戻ってくるような森にしていきたいですね」。

10代の自分が描いたコーヒー屋のマスターという夢を叶え、さらに未来に向けての夢に向かって思いは募る。コーヒーを淹れるようにじっくりと。ジョウロで水をあげるように少しずつ。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.35
「古きよき建物に集うこころ」

歴史を刻んだ建物を、カフェとして活かしながら守る、その意味とは。私たちの心を惹きつけて止まない、古建築とそこに集う人々の物語。

この記事を書いた人

家入明日美

家入明日美

火の国・熊本出身。野生動物の勉強がしたくて北海道へ移住し、自然のことを伝えたくてスロウ編集部に入る。馬とナキウサギ、やんちゃな飼い猫と怒髪天が心のオアシス。