家具へのこだわり。Cafe旭荘のひと時

旭橋を渡ってすぐ、表通りを1本入ったところにある山小屋のようなカフェ。旭川近郊の生産者の素材を使ったピザやパスタ、手作りのスイーツが楽しめます。コーヒー片手にお喋りを楽しむ人や、冬には薪ストーブの近くで読書する人など、穏やかなひと時を過ごしたい人たちに特に、人気のカフェです。旭川家具の老舗メーカー、カンディハウスが手がけた椅子や、AISU projectの小助川さんがデザインしたテーブルなどが使われています。

Shop Data

Cafe 旭荘
住所 旭川市旭町1条2丁目439
電話番号 0166-52-0031
営業時間 10:30~17:00
定休日 日曜
編集部のお気に入り 店内にある絵本を読む

穏やかな時間を求めて、旭荘へ。

温かい飲み物片手にひと息つきたい時、恋しくなるのが旭荘。店に入ると、スギ材を使った床や、適度な照明、冬には暖かな薪ストーブの心地良さに包まれる。入口で靴を脱いで上がるスタイルにしたのは、「来てくれる人にゆっくりと寛いでほしいから」だと、居倉香織さんが話してくれる。確かに、靴を脱ぐと家に帰ってきたようなリラックスした気持ちになる。家でのんびりもいいけれど、こんな風に居心地の良いカフェでゆっくり寛ぐ時間は、本当に心が安らぐ。

旭荘という名前も好きだ。一日中歩いてクタクタになった頃に出合う、山小屋のイメージが浮かんできて、なんだか気持ちがほっとする。三角屋根に煙突のある外観。広すぎず、狭すぎない店の造りもまた、旅人が集う山小屋の雰囲気を醸し出している。「地名である旭と、山小屋をイメージした荘を組み合わせて、旭荘。お店を開く前から、名前だけは決めていたんです」と、香織さんが教えてくれた。

居倉香織さん。夫婦で旭荘を営んでいる。

旭荘は、香織さんが夫と共に営む店だ。カフェの設計を手がけたのは、鶴居村で設計事務所を営む父の柏木茂さん。中標津町の腰折れ屋根が印象的なカフェ「夢風舎」を手がけた人でもある。

「ここは元々、自宅があった場所なんです。子どもたちもこの地域で生まれ育ったので、当初はここから近い場所でカフェを開く土地を探していました」という香織さん。そんな時、父の柏木さんによる「他で探すよりも、この場所でやってみたら」というアドバイスを受け、旭川市内にカフェを開いた。2015年の秋のことだ。

旭川家具に出合える店内。

旭荘の雰囲気をひと際落ち着きあるものにしているのが、店内に置かれた家具だと思う。全体的に深みのある色調の店内に、木の家具がしっくりなじむ。椅子の多くは、旭川家具の老舗メーカー、カンディハウスによるもの。席によって置かれている椅子が異なるので、何度も通って座面のデザインや座り心地からお気に入りの席を見つけるのも楽しい。

肘のデザインと座面が特徴的なカンディハウスの「アリエス」

「せっかく旭川でカフェをやるのだから、地元の産業である旭川家具を使いたいという思いがありました。どれもお気に入りだけど、個人的にはこのカラフルな座面の椅子が好きですね」と香織さんは微笑む。椅子に座って寛ぐ人々の姿に目を向けながら、「やっぱり、なんというか安心感があって、旭川家具を使って良かったなと思います」と香織さんは言う。ほとんどの椅子がオープン時から使われているものだけれど、くたびれることなく、いつも旭荘に訪れる人々に寄り添ってくれている。


テーブルのいくつかは、AISU projectの小助川泰介さんが手がけた。「小助川さんの奥さんと幼馴染だったことをきっかけに、店内の家具を造ってもらうことになりました」とは、香織さん。AISU projectの家具づくりは、オーダーメイドが中心。「デザインはほとんど小助川さんにお任せ」したそう。奥にある個室のテーブルは、北海道最高峰、旭岳にある絶景ポイントのひとつ「姿見の池」をイメージしたもの。山小屋のような雰囲気にぴったりだ。「どの家具にも物語があって素敵だなと思います」。

重厚感がありながら線の繊細さが際立つカンディハウスの椅子と、柔らかくシンプルで物語性を感じさせるAISU projectのテーブル。カフェで寛ぎながら、家具の個性に思いを馳せるのも、家具の産地である旭川らしい贅沢な時間かもしれない。お気に入りの椅子にゆっくりと腰かけて、そんな贅沢さを心ゆくまで噛みしめたい。

あつあつのピザとこだわりのコーヒーを。

提供される料理は、主に道産小麦を使用したピザやパスタ。メニュー表には旭川近郊や道内の生産者の名前が並ぶ。ここで味わいたいのが、あつあつのピザ。焼きたてを頬張れば、チーズのうま味と素材本来の力強い味が口いっぱいに広がってたまらないおいしさ。すべて一人前の大きさなので、一人で来店しても気兼ねなく注文できるのもうれしいところ。パスタは、トマトソースとクリームソース、日替わりパスタの3種類。どれも本格的な味わいだ。店を訪ねるたび、ピザにするかパスタにするかで迷ってしまう。

『ベーコンのピザ』とコーヒー。

コーヒーは、居倉夫妻がお気に入りの喫茶店に焙煎を依頼している。チーズケーキなどのスイーツは、香織さんの手作り。興部町(おこっぺちょう)の放牧酪農牧場ノースプレインファームの生乳を使ったソフトクリームも通年で注文可能。『コーヒーゼリーソフト』や『ラムレーズンソフト』など、大人な味わいも楽しめる。コーヒーの他、紅茶やハーブティーにジュースなど飲み物のラインアップも豊富。お腹が空いてしっかり食事をしたいお昼時にも、のんびりお茶をしたい午後にも訪れたくなる。

左は『ラムレーズンソフト』。右は『コーヒーゼリーソフト』。

休日は時間帯によって混み合うこともあるけれど、仕事をする人や読書を楽しむ人の姿も見かける旭荘。ここは、おいしい食事やコーヒーはもちろんのこと、店に立つ居倉夫妻と落ち着きある空間に惹かれて辿り着いた人々を、優しく迎えてくれる場所。

(取材時期 2017年5月25日)

この記事の掲載号

orthernstyle スロウ vol.51
「郷土菓子がつなぐ記憶」

小さな頃から食べてきた、土地ならではのお菓子。作り手たちを訪ねれば、真摯に、頑なに、一心に「あの頃の味」を守り続ける姿があった。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。