北海道の空に旅するように浮かぶ、2人の暮らし〈PIZZERIA飛行船・気球堂〉

十勝には新しい店が多い気がします。100年以上前から根づく開拓者の流れでしょうか。住民たちが新しいもの好きだからでしょうか。いずれにしろ、開業したい人にとってはもってこいの土地柄のようです。

ピザ窯を搭載した小屋を車で引いて、北海道のあちこちを旅するように移動するPIZZERIA飛行船と、出展の機会があれば各地に赴く七宝焼きアクセサリー作家の気球堂。2人とも道外からの移住者です。自営業やフリーランスで仕事をするなら、場所は問わない時代になりました。

Shop Data

PIZZERIA飛行船
住所 帯広市西4条南19丁目7-1
電話番号 050-5849-3014
営業時間 11:30~15:00 ※夜の営業は予約制
定休日 月曜

写真提供/PIZZERIA飛行船

おいしいものを選んだら、自然と十勝や周辺の材料が集まった

2019年2月の初め。「最強寒波」という言葉が報道によって広まり、北海道は連日マイナス30度付近の最低気温を記録していた。帯広市でPIZZERIA飛行船を営む伊藤翼さんに連絡してみると、2月いっぱいは網走市の流氷到来に合わせて、オーロラ号の乗船場の近くで出店しているという。日中はオホーツク海沿いで自分で作った「ピザ小屋」でピザを販売し、夜はキャンピングカーで車中泊。そんな生活を真冬に1ヵ月間も続けるそうだ。平気なのだろうか…。「一人で話し相手がいなくて寂しかったので、大丈夫ですよ」。翼さんはそう言って取材を引き受けてくれた。

茨城県出身の翼さんは、友人を頼って北海道へ。「ナポリで食べたピザの味を再現したい」と、窯を手造りしてしまったのだ。ナポリのピザは外側がカリッとしていて、中はもちもち。薪で火を熾おこし、高温になった窯で生地をサッと焼き上げる。シンプルな材料とトッピングもポイントだ。飛行船のピザに使う小麦粉は十勝産、チーズは白糠町の酪恵舎のもの。「おいしいものを選んだら、自然と十勝や周辺の材料が集まった」と翼さんは言う。当初は更別村の道の駅で移動販売を行っていたが、2015年に帯広市内に店舗を構えることになる。窯を自分で造ることのできる翼さん。築40年の店舗の改装作業も自ら行った。帯広には大きなホームセンターが多く、材料の仕入れがしやすいとか。「木材はここ、鉄板はここ。仕入れる店を材料ごとに決めています」。お気に入りはジョイフルエーケー帯広店。特に木材が充実しているという。

イベントへの出店も貴重な収入源。2017年にはトレーラーの上に小屋を載せ、窯と一緒に旅ができる「ピザ小屋」が完成。全道各地のイベントに出向いている。この小屋も例によって翼さんの手造りだが、そのクオリティの高さに知人から製作の依頼が来ているのだとか。ピザ屋だけど、何でも作る翼さん。この先はどんな楽しいチャレンジをするのだろうと、ワクワクさせられる。

旅する七宝焼きアクセサリー作家「気球堂」

翼さんの妻、紀子さんは七宝焼きのアクセサリー作家だ。七宝焼きとは、金属の下地の上にガラスや石で作られた釉薬を載せて焼き上げる、伝統工芸のひとつ。紀子さんは兵庫県出身で、大学生のときに七宝焼きに出合い、卒業後に教室に通って学んだという。作家としての屋号は「気球堂」。ふっくらとした質感の気球のブローチをはじめ、カラフルで可愛らしい作品を手がけている。

作業工程は驚くほど繊細で、切り抜いた銅板の上に釉薬を幾重にも載せていく。釉薬の種類は透明、半透明、不透明の3種類で、60色以上。色を混ぜ合わせて別の色を作ることはできず、先を細く削った竹串で1色ずつ釉薬を載せて、800度に熱した電気炉で焼いて、冷めたら別の釉薬を重ねる。そんな作業を繰り返すという。細かすぎて気が遠くなりそうだ。イメージ通りの色にするには、電気炉の温度や取り出すタイミングも大切だという。

ふっくらでぽってり。シャープで艶やか。釉薬の透明度によって色や質感は変わる。新しく完成した北海道の動物シリーズは、本誌編集部でも「ワッ、ほしい!」とあちこちで歓声があがっている。「シカが不意に人間に出会ったときに、一瞬止まって『え?』という顔でこちらを見ますよね。その瞬間のきょとんとした顔です」と紀子さん。個人的にはオオワシの羽の反り具合がたまらない。

気球堂のファンは多く、京都や大阪、東京など本州のイベントへ出店することもある。紀子さんも拠点は帯広に置きながら、各地へ赴く「旅する作家」。自営業やフリーランスで仕事をするなら、場所は問わない時代になったなとしみじみ思う。

北海道の真ん中、十勝に拠点を構える

飛行船と気球堂。名づけたのは気球堂が先だ。気球に近いもので、飛行船という店名を選んだという。道内のイベントは2人で参加することが多い。ピザ小屋を引き連れキャンピングカーで会場に向かう。夏は飛行船、冬は気球堂がそれぞれ売上の柱なのだそうだ。

また、自宅は飛行船の店舗の上階。店舗スペース同様に翼さんの手によってリフォームされた。元々あったコンクリートに木の質感がうまく融合している。

北海道の空に旅するように浮かぶ、飛行船と気球堂の2人の暮らし。北海道の真ん中あたりの十勝にベースを構えるのは、どこへ行くにもちょうどいいからなのかもしれない。

写真提供/PIZZERIA飛行船

お店・事業を始める
Q&A

Q
店舗を開店した際の開業資金はどのくらいですか?
A

帯広商工会議所から1,500万円の融資を受けました。小規模事業者事業資金(マル経資金)というもので、金利が低く、開始して数年のうちは金利の1%を負担してもらえました。事業計画の作成などは、会議所のサポート体制に助けてもらいました。

Q
小屋を作るにはどのくらいの資金がかかりましたか?
A

材料費で250万円くらい。うち特注のトレーラーが150万円ほどです。トレーラー以外はすべて自分で造りました。大体半年くらいかかりましたね。

この記事の掲載号

北海道十勝・移住の本
りくらす vol.4

自分らしい生き方、より良い子育て環境を求めて、あるいは家族や仕事の都合で。北海道への移住を選択した人を訪ねる「りくらす」。

この記事を書いた人

猿渡亜美

猿渡亜美

剣山がきれいに見える十勝の山奥で、牛と猫とキツネと一緒に育ちました。やると決めたらグングン進んでいくタイプ。明治以降の歴史や伝統に心を揺さぶられ続けています。