同世代の仲間と磨いていく、当麻町の魅力〈とうま振興公社 石黒康太郎さん〉

当麻町で開催されるイベントをチェックすると、そこには必ずと言っていいほど、とうま振興公社の職員である石黒康太郎さんの姿があります。サイクリング、ハンモック、スノーシューで森歩きをしたり、スノーキャンプまで。家族と共に当麻での暮らしを楽しみながら、日々当麻の良さを伝えようと町中を駆け回っている石黒さん。そしてその周りはいつも、その空間を心から楽しむ人々の笑顔で彩られています。

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とうまスポーツランドキャンプ場
住所 当麻町市街6区
電話番号 0166-84-3163(とうまスポーツランドセンターハウス)
URL http://www.densukesan.net/2018/asobu.html
※利用料など詳細は、観光協会のサイトから確認を。

元々は根っからのインドア派。当麻に来てから自然の中で遊ぶように

森、山、とびきりの景色。おいしいパン屋や飲食店。絵を描く人、家具を作る人、なんだか気になる面白い人。町のキャッチコピー通り、当麻には、「全部ある」。当麻の町にあふれる楽しさを誰よりも知るのが、石黒さんだ。町のコーディネーターとして、当麻の良さが伝わる企画を立て、町内外に向けて届ける人だ。
初めて石黒さんに会ったのは、2年ほど前に、旭川市周辺で開催されたサイクリングツアーに参加したときのこと。その際、地元のガイドとして自転車で当麻を案内してくれたのが、石黒さんだった。

その日は石黒さんの案内のもと、町をぐるっと巡り、風景や食、立ち寄りスポットなど、当麻にあるたくさんの素材の魅力に気づかせてもらった。それぞれの場所について、楽しそうに話してくれた石黒さんの姿も印象的だった。「きっと心から、当麻が大好きなんだなぁ」と感じたのを、今でもよく覚えている。

誰かに何かを伝えようとする時、伝える側が「心から思っていることかどうか」というのは、とても大切だ。 
そのツアーに参加した後、当麻が好きになっていたのは、石黒さんの当麻への思いがまっすぐで、確かなものだったからだろう。

その後もSNSなどで、石黒さんが関わるイベントの様子を時々目にしていた。町の自然をテーマにした内容が多かったこともあり、勝手に根っからのアウトドア派なのだと思っていた。
「実は元々、根っからのインドア派だったんですよ」と、石黒さん。「自然の中で遊ぶようになったのは当麻に来てからなんです」という意外な話を教えてくれた。

写真提供/当麻町

福祉の仕事から、地域おこしの会社へ

札幌市出身の石黒さんは大学卒業後、当麻にある障がい者福祉施設「かたるべの森」で働いていた。「かたるべの森」とは、広々とした森の中で、木工や陶芸など、障がい者の芸術的な活動を支えることを柱にしている施設だ。

「かたるべの森」の創設者は、石黒さんが学生時代に所属していたゼミの先生。その先生と出会ったことがきっかけで障がい者福祉の道を志した石黒さんにとって、ここで働くという選択肢は自然なものだった。
「福祉の仕事をする上で、当麻は町としての規模もちょうどいいと思ったんです」と、石黒さんは言う。地元である札幌はもちろん大好きだったけれど、もっと小さな町で、町で暮らす人全体が関われるような地域福祉がやりたかった。地域全体で取り組めた方が、「何か面白いことができるんじゃないか」という予感もあった。

こうして「かたるべの森」で働くようになってから、自然に親しむ機会が増えていった。当時一緒に働いていた先輩がアウトドア好きで、施設内でのアクティビティとしてさまざまな体験を提供していたそうだ。仕事として準備を手伝ったり、先輩と休日にカヌーに乗ったり。植物など自然全般に興味を持つようになり、誰かと一緒に自然の中で過ごす楽しみを知った。

福祉の仕事に就いて11年ほど経った頃、石黒さんは次の展開について考えていた。今までの福祉の仕事に大きなやりがいは感じていた。ただ、もっと「地域」とのつながりを強めていきたいという思いがあった。
そんな石黒さんに、転機が訪れた。当麻在住の友人から、「地域おこしの会社で働いてみないか?」という声がかかったのだ。第3セクターとして、町のキャンプ場や道の駅などの施設管理を行う、とうま振興公社での仕事だった。当麻での暮らしを楽んでいる石黒さんなら、観光面でも活躍してくれるはずだ。そんな期待があっての誘いだっただろう。

ここで働こうと心に決めたのは、公社の社長が、施設の管理だけではなく「地域おこしをする会社」だと話してくれたことが大きかった。「障がいを持つ人たちも、そうでない人もみんな、あたりまえに一緒にいられる社会をつくりたい」。石黒さんが描いていた地域づくりを実現できるチャンスだと思った。

写真提供/当麻町

わくわくするアイデアを持つ同世代の仲間がいる

入社して1年目は、町の施設をどうやって活用していけるか探るために、とにかく動いた。「まずは自分が試して楽しいと感じることから、町の観光資源を開発していこうと思って、できる限り毎日フィールドに出ていました」と、石黒さんは当時を振り返る。

ちょうどその頃、町で地域おこし協力隊の制度がスタートし、町で活躍する人が増えた。協力隊の原さんをはじめ、同世代の仲間たちとのつながりは自然に生まれていった。

「周りに本当にいろんなことできる人がいるんですよ! 僕はガイドのプロでも、アウトドアのプロでもない。何もないけど、楽しむことは大得意だなって、ある時気づいたんですよね。それからはそれが自分の武器だなって思えるようになりました」。

当麻というフィールドを舞台に、わくわくするアイデアをいつも持っている仲間たちが側にいる。町のあちこちで、楽しいことが起きている。公社の職員として、コーディネーターとして、それぞれをつないでいくことが、石黒さんの役割だ。

普段の業務は、とうまスポーツランドキャンプ場の管理運営に関することが中心。宿泊者との会話から得たヒントや、スノーシューで冬の森を歩いたり、ハンモックの上でひと晩過ごしてみたり、日々のフィールドワークから生まれたアイデアを柔軟に取り入れている。 

写真提供/当麻町

僕がやりたいのは、「ごちゃまぜ地域おこし」

2018年の冬からは、雪の上でテントを張ることができる「スノーキャンプサイト」がオープンし、2019年の夏から、ハンモックのレンタル利用が可能になった。石黒さんが中心となり始まった新たな取り組みだ。その他、キャンプ場を会場とするイベントも積極的に企画している。

「入社した頃からずっと言ってるんですが、僕のやりたいことって、『ごちゃまぜ地域おこし』なんです」。町民も、外から来た人も、本格的に自然を楽しんでいる人も、初心者も、障がいを持つ人も持たない人も、みんなが一緒に楽しめる世界を当麻につくっていく。石黒さんは、その入口的な存在になりたいのだと話してくれた。

そんな存在になることが、石黒さんにとってひとつの目標だとしたら、それはもう叶い始めている気がする。実際に2年ほど前、石黒さんと一緒に自転車で町を巡ってから、度々この町を訪れるようになった。石黒さんが関わった企画への参加をきっかけに、町の魅力を知った人は多いだろう。

「楽しいと思ったことを、伝える」。石黒さんが大切にしてきたことは、至ってシンプルだ。それを続けてこられたのはやっぱり、石黒さんがまっすぐな人だからだと思う。

見つけたわくわくを押し付けるのではなく、ぽんと手渡す。人々が集う空間をちょうどよく温める。自分や相手の感覚を素直に受け止めて大事にする。まっすぐで優しい力を、石黒さんは持っている。

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Q&A

Q
どんな資格を持っていますか?
A

学生時代に介護福祉士、就職してから木育マイスターや自然観察指導員、後は赤十字救急救急員の資格を取得しています。何かあった時に対処できたり、自然を案内する上で必要な技術や知識が身に付きました。

Q
勤務時間や休日について教えてください。
A

基本的に、勤務時間は8:00 ~ 17:00の間で8時間程度、週休2日制です。仕事柄、夏休み期間や連休など、繁忙期は出勤日が増えますが、キャンプ場の利用やイベントの少ない時期にまとめて休んでいます。会社の方針としてみんなそうしているので、申請もしやすいですね。

この記事の掲載号

北海道移住の本 りくらす vol.5

北海道への移住を選択した人を訪ねる「りくらす」。今回は全道各地で地方公務員や地域おこし協力隊として働く人々をピックアップ。今、自らの生き方を見つめ直そうとしているあなたへ、この本をお届けします。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。