自分の時間を自由に楽しむための珈琲店〈りむ商会〉

旭川近郊の珈琲好きから、よく名前を耳にする「りむ商会」は、マーケットのような小さな珈琲店です。村本晃二さんと恵子さんは、2016年に始まった「リムカフェ」を、2019年にりむ商会へとリニューアル。おいしい自家焙煎の珈琲や焼き菓子の他、環境に優しい日用品や雑貨などが購入できます。飲食メニューはテイクアウトのみですが、珈琲片手に雑貨を選んだり、図書室のような席で書きものをしたり、「自分の時間」を自由に楽しめる場所です。(取材時期/2020年11月

Shop Data

りむ商会
住所 旭川市東旭川南1条6丁目5-15
電話番号 0166-36-6255
営業時間 11:00~22:00
定休日 木曜、第1・第3水曜
URL https://www.rim-shoukai.com
楽しみ方 毎月第2土曜と日曜に「りむマーケット」を開催中

気になるお店、りむ商会

ある日、旭川近郊で暮らしている知り合いが、りむ商会で購入したという珈琲を淹れてくれた。「今の季節に合う豆を教えてもらったんだ。自家焙煎の珈琲もおいしいし、店もマーケットみたいで面白いからぜひ行ってみてよ」。マーケットみたいな珈琲店って、どんなお店だろう。純粋な疑問と、その時の珈琲のおいしさに心惹かれて、店を訪ねてみることにした。

扉を開けて、一番に迎えてくれたのは直火式の焙煎機。それから、珈琲のいい香りと、「いらっしゃいませ!」と恵子さんのさっぱりと明るい声。カウンターで迷っていると、「どんな珈琲が好みですか?」と、丁寧に珈琲の種類について教えてくれる。定番だというブラジルと一緒にスコーンも注文する。隣のカウンターで晃二さんが珈琲のドリップを始める。店に入った時のいい香りがもっと強くなって、お土産にしようと珈琲豆とスコーンを一つ追加で頼んだ。

りむ商会では、生産農園がはっきりした豆のみを取り寄せ、焙煎しているそうだ。

珈琲の焙煎やドリップは、晃二さんが担当している。最初はちょっぴり寡黙な印象を受けたのだけど(マスクをしていたからかもしれない)、珈琲や店について話す言葉の端々には柔らかさやユーモアな雰囲気が滲んでいて、話をしているうちに肩の力が抜けていく。

村本晃二さん。旭川出身で、店で仲間と集まり音楽などの趣味を楽しむことも。

もっとゆっくり過ごしてもらうために

晃二さんと恵子さんがリムカフェをオープンしたのは、2016年10月のこと。それまで7年ほど同じ場所で、旭川市内のカレー店のフランチャイズ店として店を切り盛りしていた。「昔から珈琲屋に憧れていて、いつかお客さんに寛いでもらえるようなカフェをやりたいなって思っていました。カレー店の時も、お客さんにはゆっくり寛いでくださいって声をかけていましたが、なかなか難しいですよね。みんな忙しいから、お昼時にサッと食事して帰ってしまう人も多くて」。次第にふたりの中で、「来た人にもっとゆっくり過ごしてもらうために、コーヒーをメインにした店をやりたい」という気持ちが強くなり、独立を決めた。

開店当初は札幌の珈琲店の豆を使っていたが、2009年に中古の焙煎機を購入し、自家焙煎をスタート。同時に「食べ物は珈琲に合うお菓子だけ」と決めて、食事メニューの提供をストップ。メニューは季節に合わせた珈琲を数種類と、珈琲に合うケーキやスコーンなどの焼き菓子というスタイルは、今も続いている。「焙煎を終えて釜から豆を出す瞬間は、未だにワクワクドキドキしますね」と、晃二さんは言う。

カフェを卒業、現在のスタイルへ

その後、2019年に「カフェを卒業」し、りむ商会へ。その経緯について晃二さんは、「すごく自然な流れだった」と話す。一番大きな変化といえば、カフェらしい飲食席がなくなり、飲食メニューはすべてテイクアウトに統一されたこと。そしてその代わりに、店の中央には靴下や石けんなどの日用品や小物が並ぶ棚ができたこと。

もう一つのうれしい変化は、「地元の常連さんが増えて、深く狭い関係性ができてきた」こと。取材日も地元の人が、ひとりで本を読んだり、仕事をしたりと、思い思いの時間を過ごしていた。確かに、こんなお店が近所にあったら、ちょっと一人になりたい時や、いつもとは違う場所で作業したい時などに重宝するだろうなと思う。何度も足を運ぶ中で、顔の見える距離感が生まれ、きっとここでの時間はもっと楽しくなるだろう。

“図書室のような席”で読書を楽しんでいる人もいた。

カフェ時代からお店の形態こそ変わったけれど、晃二さんと恵子さんの「来た人にのんびり寛いでもらいたい」という気持ちは今もぶれずに変わらない。店内のあちこちには、いくつかのイスや、図書室のような席が少しだけ設置されていて、そこでは珈琲や焼き菓子片手に自由に過ごすことができる。恵子さんは、来た人に珈琲や商品を渡しながら、「ゆっくりしていってくださいね」と笑顔で声をかける。晃二さんの言葉を借りれば、「カフェの枠にとらわれずに、もっと楽しく」なった店の姿が、今のりむ商会なのだろう。

淹れてもらった珈琲を飲み終える頃、晃二さんがぽつりと言った。「今もね、完成形ではないと思ってるんですよ。僕たちふたりの店で自由にできるからこそ、とことん楽しみたい。そして、そういう変化ごと楽しんでもらえたらうれしいです」。

ふたりと店を訪れる人それぞれが、したいことをしたい時に、思うままに。りむ商会は、そんな思いが叶う場所。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。