コーヒーと共に過ごす、小さな「余白」の時間。〈RS COFFEE〉

名寄市にあるカフェ、RS COFFEEが大切にするのは「余白」。2020年の緊急事態宣言での休業をきっかけに、店の在り方を考えた渡邊誠さん。現在は「暮らしに余白を」をテーマに、店での時間を通して、感性が豊かになるような経験をしてもらいたいと考えています。「いいな」と感じられるきっかけを、コーヒーの香りに、過ごす空間にちりばめて。渡邊さんは、今日も丁寧に豆を焙煎し続けています。(取材時期 2021年6月)

Shop Data

RS COFFEE
住所 名寄市東5条北8丁目25-4
電話番号 090-7654-0226
営業時間 12:00~19:00
定休日 水・木・金曜日
instagram @_rscoffee_maco_

時間ができて気づいた、店の在り方。

頑張りすぎることは短期的には良い結果を残すかもしれないが、無理がたたると、長期的にはすり減ってしまうだろう。好きなことだって、嫌いになってしまうかもしれない。だが身の丈に合った形でなら、焦りや不安から距離を置くことができる。

2018年に自家焙煎コーヒーの店を開いた渡邊誠さん。オープン当初はマフィンやケーキを日替わりで提供し、気づけば数十種類の味を生み出すように。しかし本当にそれが望まれているかどうかはわからなかった。営業日は深夜まで仕込みにあたり、プライベートの時間はなくなり、体調を崩してしまう。考えを改めたのは2020年のこと。緊急事態宣言で休業を余儀なくされて、自分自身と向き合う時間ができたのだ。「仕事をしているときも、できるだけ素のままの自分でいたい」。まずは無理なく店を続けられることが第一。その延長線上で客が喜び、心豊かになってもらえたら。傲慢にも聞こえるかもしれないけれど、持続可能とはそういうものだろう。

コーヒーと、自分自身と向き合いながら。

1回につき200グラムしか焙煎できない小さなロースターを使っているのも、持続可能のための大切な要素(2021年取材当時)。専門店にしては非効率的な大きさで、多い日は4~5時間にわたって焙煎し続けることもある。しかし一人で店を切り盛りしているからこそ、焙煎の間を瞑想の時間にあてられることで、心のバランスが保たれているのだという。

渡邊さんは「豆の質と状態で味の7~8割は決まる」という考えのもと、コーヒー豆の鮮度にはこだわりを持つ。店内で出すもの は焙煎から14日以内、販売する豆は8日以内と決めている。

現在の店のテーマは、「暮らしに余白を」。いいな、と思える経験を積み重ねると、感性が豊かになり、想像力が膨らむ。その結果、優しくなれたり、創造につながるというのが渡邊さんの持論。だから、店に入ったとき、焙煎で生じる煙や、落としたてのコーヒーの香りを感じてもらいたい。席の配置を微妙にずらして、客どうしの視線が合わないようにもしている。五感のどこかで「いいな」、と感じてもらうのが狙いだ。

ほど良い距離感で、創造のきっかけを提供してくれる店と主。好みの席に座り、コーヒーを飲んでひと息つくことで、想像力が膨らむだろう。

渡邊誠さん

現在は、1回につき400g焙煎できるロースターに新調+直火・半熱風の2方式で豆によって丁寧に焼き分けています。

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.68
「ここから始める、まちづくり」

私たちスロウ編集部が道内を巡る中で出会った各地のキーマンたち。地域の賑わいの起点となっている彼らに聞いたまちづくりのお話です。

この記事を書いた人

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猿渡亜美

剣山がきれいに見える十勝の山奥で、牛と猫とキツネと一緒に育ちました。やると決めたらグングン進んでいくタイプ。明治以降の歴史や伝統に心を揺さぶられ続けています。