旅をしながらものづくり。「鮭がおいしく食べられる皿」とは〈マリモデザインファクトリー〉

目を輝かせて楽しそうに話す菊川あずささんを中心に、いつも笑いの絶えない仲間たち。彼女たちは今、マリモデザインファクトリーという屋号を掲げて、北海道で新たなものづくりを始めようとしています。普段はデザイナー、設計士、電気工事など全く別の仕事をしている彼ら。専門性のある大人が力を合わせた結果、あっという間に成果が生み出されていました。(取材時期 2023年3月)

Shop Data

マリモデザインファクトリー
住所 石狩市花川南10条3丁目1-6
電話番号 080-5592-5919
URL https://marimodesign.shop-pro.jp/
Instagram @marimo_designfactory

フィンランドのものづくりを、北海道でも。

マリモデザインファクトリーの中心で旗を振る菊川あずささん。北海道出身で、現在は札幌と愛媛に拠点がある。今治タオルで作った布ナプキン「ヒエトリパット」を生み出し、女性が暮らしやすくなるためのものづくりを行ってきた。転機はフィンランドで目にした北欧文化。北国らしい自然を感じるデザインが気軽に取り入れられている様子を見て、「環境は似ているのだから、北海道でもできるのではないか」と思うように。以前から、北海道にまつわるものづくりがしたいと考えてきたこともあり、思いは加速した。

帰国してからはあらゆる知人に思いを共有し、アイデアを温めてきた菊川さん。コロナ禍によって仕事が落ち着いたことが追い風となり、友人たちに声をかけてマリモデザインファクトリーを設立。古くからの気心の知れた仲間が集まった。ビジネスではあるけれど、楽しみながらものづくりをしよう。最初に手がけるシリーズを器と定めて、まずは旅をすることにしたというのが面白い。一台の車に乗って、厚岸、標津など全道各地へ。牡蠣やスケソウダラの漁師などの一次生産者の話を聞きながら、実情を知りものづくりに活かしていく。大人の修学旅行のようだ。しかも旅をしながら事業計画を立ていったという。

ミッションとして掲げるのは「ふるさとにかえす」というワード。「かえす」には「帰す・還す・返す」と複数の意味がある。鮭が川に帰るように、帰りたくなるふる里にする。鮭が帰るためには、川もきれいでなければならないから、環境面から元の状態に還す必要もある。アイヌ文化やふるさと納税、北海道出身の菊川さんや瀬川さんが恩返しをするという意味も含んでいる。

阿寒湖の風景を表現しているロゴマーク。水色の部分が空(雨・雲)、間の三角のスペースが山(森・木・雪)、ブルーの四角が水(湖・川・海)、その中にある緑の円がマリモ(生き物)を指す。空も山も水もマリモもすべて繋がっていて、循環していることを表現している。全体では雪のかかった屋根の丸窓の家を表現していて、「かえるふる里(実家)がある」という意味もある。

天然物の鮭を乗せるための皿を。

器シリーズの核となるのが、「北海道の鮭がおいしく食べられるお皿」。メンバーの中でも特に鮭に熱い思いを抱いているのがデザイナーの本間哲朗さん。「寿司ネタのサーモンも良いけれど、北海道にいるなら地元のいろいろなおいしい種類の鮭を食べてほしい」と言う。

「北海道の鮭がおいしく食べられるお皿」は焼き鮭を乗せることをイメージして作られた横長の皿。「北海道には紅鮭、秋鮭、時鮭、鮭児、銀毛などさまざまな種類の鮭が存在していることを知ってほしい」と考え、それぞれの身の色味と名前のイメージに合う皿のカラーを選定。たとえば、時鮭の皿のモスグリーンは、鮭の朱色が際立つ補色に近い色を選んだ。銀毛の皿はグレーの皿だが、ムラのある釉薬が角度によっては銀色に見える点が特徴だ。

全国を仕事で飛び回る本間哲朗さん。店舗デザインやものづくりに携わる中で、信頼できる笠間焼の窯元に出会い、マリモデザインの皿づくりを依頼した。

鮭のための皿以外にも、オーバル皿、豆皿といった定番のタイプの器も作った。器の色は共通で、北海道各地の色を採用。積丹ブルー、夕張の黄色いハンカチ、美瑛の青い池、十勝のモール泉…。味わいのある深い色味だ。ザラリとした独特の手触りも印象に残る。笠間焼を採用しており、製造は茨城県笠間市で行う。笠間焼は釉薬の「流し掛け」や「重ね焼き」といった装飾技法が特徴。自由で伝統や格式にあてはまらず、このシリーズも個性豊かに表現されている。

いくらを乗せるとちょうどいいサイズの豆皿。底にフチがついていて、タテに重ねることも可能。近々、イクラを盛るとちょうどいい高さの小皿も出来上がるそう。
裏面にはマリモデザインファクトリーのロゴが入っている。

器にとどまらず、ガラスや木工にも広げたい。

まずは器を発売するが、今後のマリモデザインファクトリーの展開は陶器に限らないという。「ガラスや家具、木工品もやってみたい」と話す菊川さんたち。同じコンセプトを持つブランドとして、横に展開していく将来像があるのだ。 携わる人々の輪も広がっている。

取材当日もメンバーは東京や札幌などそれぞれの拠点から函館に集結。魚市場で鮭について聞いたり、博物館の人に教えてもらったり。いろいろな地域でインプットをして、ものづくりにアウトプットしていくのだ。
マリモデザインの仕事を手伝っている学生たち。(写真提供/マリモデザインファクトリー)

人が人を呼び、自然に仲間が増えてきた。さらに楽しそうに活動する大人たちを見て、学生たちも興味を抱いてやって来るようになった。マリモデザインファクトリーのプロジェクトはまだ始まったばかり。助走期間を過ぎて、ここからはさあ本腰だ。人を巻き込んでいくのが上手な菊川さんを中心に、大人の発想や興味関心がグッと集まったチームから、次は何が生み出されるのだろう? 玉手箱のように魅力が詰まった、大人の遊び心があるプロジェクトに出合えた。

スロウ日和編集部

購入・詳細はコチラから
2023年5月10日販売スタート・出来上がり次第順次発送
《lineup》
●北海道の鮭が美味しく食べられるお皿(カムバックサーモンシリーズ)
●北海道のOVAL皿
●北海道カラー 幸せの小皿
●北海道カラー 幸せのIKURA小皿

この記事を書いた人

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猿渡亜美

剣山がきれいに見える十勝の山奥で、牛と猫とキツネと一緒に育ちました。やると決めたらグングン進んでいくタイプ。明治以降の歴史や伝統に心を揺さぶられ続けています。