担い手のいない畑を継ぐ、事業継承のかたち

池田町は農業が基幹産業の町。畑作のほか、酪農、肉牛飼養など多様な農業が営まれています。特に有名なのは、畜産ではブランド牛である「いけだ牛」。希少な褐色和種である「あか牛」を町内一貫生産で流通させています。畑作では馬鈴薯や玉ネギのほか、ブランドヤマイモ「ネバリスター」、北海道では池田町のみで生産されている「つくねいも」など、農畜産物のブランド化にも力を入れている地域です。近年、少子高齢化と過疎化が進む地方では、担い手がいないために耕作放棄地は増える一方。池田町でも継ぎ手を探している農家は多く、事業継承の需要は高まっています。

飲食店で働いていた梅村信輔さんが池田町に来たのは7年前。妻の恵美さんの実家の農場に担い手がいないと知り、結婚を機に跡を継ぐことを決意しました。野上農場は4代目の義父・野上清司さんの曽祖父の時代から、脈々と受け継がれてきた歴史ある農場。畑の総面積は17ヘクタールもあり、トラクターなど大型重機を使った農業が行われています。農作業は信輔さんと、義父母の清司さんと初美さんの3人が中心。現在は麦や小豆、金時豆、ビートの4種類を育てています。

農業は、人が生きていく上で欠かせない「食」を支える大切な役割を担っています。より良い野菜を、よりたくさん作るために、常に試行錯誤が必要です。「日々の仕事を通して、食を担う責任を感じています。やりがいは大きいです」と話す梅村さん。義父からノウハウを一つひとつ教わりながら、日々畑で汗を流し、時には収穫の喜びに胸を震わせています。

札幌市出身の梅村さんにとって農作業は大変なことも多いですが、「都会では見られない、美しい景色の中で仕事ができるのが幸せ」と、自然を相手に仕事をする醍醐味を感じている様子。十勝の田園風景の代表格でもある、畑のまっすぐで美しい畝(うね)。トラクターで等間隔に耕すことで作られるこの風景も、実は案外難しい作業。無駄なく畑を使えば収穫量も向上するため、効率よく種や肥料を散布できる等間隔の畝は、畑において必須なのです。梅村さんも理想の畝づくりを目指して修行中だとか。いずれは十勝を代表する美しい田園風景を担う人材になることでしょう。

数年後には梅村さんに代替わりする予定の野上農場。梅村さんは5代目の就任に向けて、生産の幅を広げようと計画しています。今後チャレンジしたい作物は、ブロッコリーとネギ。勉強会や研修会に積極的に参加して、知識を深めている真っ最中。新しい農場主としての新たなチャレンジの構想を抱きつつ、今日も畑仕事に精を出しています。

広々とした敷地内で駆け回る息子の海斗(かいと)くんと娘の美空(みく)ちゃん。

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スロウ日和編集部

好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。