雨の森で、ひと休み。

おさんぽ日記#02
歩いた場所 歌才ブナ林(の入口)
日にち・天気 10月の終わり・雨
考えたこと 一雨ごとに、の意味

こんにちは、たつたかんなです。前回の日記から、あっという間に1ヵ月。編集部のある帯広は、まだ雪は積もっていないものの、空気はすっかり冬の匂いになりました。今日は、少しだけ季節を巻き戻して、秋の終わりに森を歩いた日の日記を書きます。写真は少なめですが、温かい飲み物片手に、読んでもらえるとうれしいです。

秋になると、いつも訪れているまちがあります。函館と札幌の大体中間に位置する小さなまち、黒松内町。私はこの町で、2年間ほど暮らしていたことがあります。その日々の間に、たくさん森を歩いて、植物の名前、葉っぱの形、森の見方や楽しさを、教えてもらいました。

帯広からはちょっぴり遠いそのまちの、大好きな森が恋しくなったのは、夏の終わりのことです。短い夏を駆け抜けるように過ごして、ふと立ち止まった時、風がもうほんのりと冷たいことに気がつきました。そのまま秋の気配を感じていたら、心の中に「ちょっと、ひと休みに行きたいな」という気持ちが広がっていきました。

時には駆け足で過ごすことも必要だけど、私はやっぱり、一歩一歩を確かめながら歩いていくのが好きなようです。少し急ぎ気味になっていた歩調をゆるめて、ちゃんと進んでいくために。これまで、何度も歩いた大好きな森へ行きたいなと思いました。

日本最北限のブナ林として知られる、歌才ブナ林。国の天然記念物にも指定されています。

「久しぶり」。よく一緒に森を歩いたり、焚き火をした友人と再会した時、日は傾きはじめていて、静かに雨が降っていました。「少しだけ、歩こうか」。傘はささずに、上着を羽織って、車に積んでいた長靴を履いて、森の中へ。

しっとりと静かな、雨の森。ぽつぽつと聞こえていた雨の音は、少しずつ強くなっていきます。それでも、私たちのところまで落ちてくるのはほんの僅かで、雨に当たる度に、「あ、今当たった!」と、つい楽しんでしまうほどでした。

入口から少し歩いたところの、ブナの木の下でひと休み。頭の上のずっと高いところから、雨が葉っぱに当たる音が聞こえてきます。

秋の色を纏い始めた葉っぱの色が、雨に濡れて濃くなっているのを眺めながら、

「きれいだね」。
「雨の森も、やっぱりいいね」。
そんな会話を繰り返しました。

そんな何げない会話の隙間に、頭の中で考えていたことがあります。天気予報などで時々耳にする、「一雨ごとに深まる秋」という言葉。私はその言葉が好きで、秋に雨が降るといつも思い出すのですが、「今、その言葉の中にいるな」って思ったんです。

雨の音が強くなる度に、はらはら、はらはら、色づいた葉っぱが落ちていきました。こうやって、黄葉が終わっていくこと。それもひとつ、秋が深まっていくということかな、と思って。自分が季節の変化の中にいると感じられた時、なんだかとても、ほっとしました。

「そろそろ、行こうか」。夏よりもずっと早い、日没の時間が近づいて、私たちは森を出ました。時間や距離で考えれば、とてもとても短い、森のおさんぽ。だけどそれは、私にとってはいちばんの、“ひと休み”になりました。

あれからまた時は流れて、今は冬のはじまり。今日は朝から、冷たい雨が降っています。ほんの数枚残っていたイチョウの葉も、落ちたかもしれません。私はあの日のおさんぽから、ちょうどいい速さで、毎日を歩けている気がします。来年もまた秋に、会いに行けたらいいな。

この辺りで、終わりにしますね。読んでくれた皆さん、ありがとうございました。雪が積もって、景色が真っ白になる頃に、また日記を書きたいなと思っています。それでは。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。