先人たちが積み重ねてきた旭川家具の物語。今、旭川では、その歴史と思いを受け継ぎ、新しい視点で未来をつくっていこうとする職人たちが活躍しています。「AISU project」の小助川泰介さんもそのひとり。旭川市内のメーカーでの勤務を経て、2012年に独立。自身のものづくりの傍ら、年に1度、木工に携わる人たちが旭川に集う「旭川木工コミュニティキャンプ(AMCC)」の実行委員長を務めるなど、〝旭川家具〟を盛り上げ、伝える活動にも力を入れています。
Shop Data
AISU project
住所 旭川市永山4条2丁目2-5
電話番号 0166-49-7736
URL http://www.aisuproject.com
家具 旭川デザインセンター内で展示販売中
コンセプトは、「使い捨てない、長く愛す」。
木の家具のいいところ。冷え込んだ日でも温度がゆっくり伝わって、触れてもヒヤッとしない温もりがあること。手入れや修理を重ねて使い続けるうちに、風合いや愛着が深まっていくこと。森から木を伐り使うことで、森の循環を育むことができること。
〝いいところ〟がたくさん詰まった木の家具を「使い捨てない、長く愛す」。それが、旭川市にある小さな家具工房、「AISU project (愛すプロジェクト)」のコンセプト。家具のデザインから制作までをほぼ一人で手がけるのが、小助川泰介さんだ。
函館市で生まれ育った小助川さん。高校卒業後は、建築の道へ。24歳の時、英語を学んで世界を広げたいとアメリカへ留学する。さまざまな経験を重ねる中で、子どもの頃から好きだった、ものづくりの道へと心が向いていく。
家具が生まれる森への思いが、原点になった。
2006年、小助川さんは日本に戻り、旭川市内のメーカーで家具職人としての第一歩を踏み出した。特注家具や店舗の什器(じゅうき)などを中心にものづくりをする日々は充実していた。けれど、「百貨店などでは、店舗が入れ替わると同時に、什器も替えていかなくてはいけない。使い回すことはできないから、捨ててしまうしかない」。そんな現実に、心が痛んだ。
家具に使われる木は、数十年、数百年という時をかけて育つ。大きく育った木を伐り、乾かし、木材として使えるように加工するのにも、月日を費やす。長い時を経てきた木材を、家具として長く使えるように。そんな思いが、「AISU project」の原点になった。
一人ひとりの暮らしや気持ちに寄り添いたいから、オーダーメイドの家具づくりを。いつまでも愛着を持ってほしいから、飽きのこないシンプルなデザインに。小助川さんの作る家具は、どことなく柔らかい。家具が生まれる森への思いの温かさが表れているのだろう。
AISU projectの家具がある店
- 居酒屋りしり(東川)
- Cafe 旭荘(旭川)
- 福吉cafe(旭川) など
「旭川木工コミュニティキャンプ(AMCC)」の存在。
小助川さんが旭川で家具職人の道を歩き始めてから、ずっと大切にしてきた場がある。年に1度、木工に携わる人たちが旭川に集う「旭川木工コミュニティキャンプ(以下、AMCC)」だ。旭川の木工を盛り上げようとする人々が有志で企画している。
2018年で10回目の開催を迎えたが、小助川さんは1回目から参加、10回目からは実行委員長を務めている。「家具づくりに関わる人たちと出会えたことがとても大きかったですし、横のつながりがあることが、産地としての旭川の強みだと思います。だから、この場を今後もつないでいきたくて」。
大小さまざまなメーカーや、一人で活動する職人がつながることで、“家具のまち”を支え、発信する。これからの旭川家具にとって、重要なコミュニティであることは間違いないだろう。
「10年やって、ひと区切り」したというAMCC。これからは小助川さんたちが中心となって新たな色を加えながら、続けていく。若い世代と、より良いものづくりのために。
小助川さんが思う、旭川家具のこれから。
小助川さんが家具に向ける思いは、広くて深い。家具を作るときには森や木々に思いを馳せる。自らの道を極めるだけでなく、仲間とのつながりを大切に〝旭川家具〟を盛り上げ、伝えていこうとしている。
これからについては、「『旭川って家具のまちだよね!』って、みんながあたりまえに知っていて、もっと多くの地元の人が、旭川家具を使ってくれるようになったら」と笑顔で答えてくれた。優しく語られる未来には、地域への確かな誇りが感じられた。
「AISU(愛す) project」。使い捨てない、長く愛す。家具が生まれるまちと森を愛す。その家具を使う日常を愛す。短くてシンプルな言葉の中にはきっと、抱えきれないほどの思いが込められている。
(取材時期 2019年11月25日)