変わらなさを守る、温かな理由。〈丹野製麺 丹野重男さん〉

道北の町、下川町で暮らす人たちを訪ねる特集『下川町でスロウ日和』。今回お話を聞いたのは、町内にある製麺所・はるお製麺の丹野重男さん。2022年3月まで役場職員として働いていましたが、両親が営む製麺所を受け継ごうと新たな一歩を踏み出しました。そんな修業の日々と背景にある思いを訪ねて見えたのは、町を思う温かな理由でした。(取材時期 2022年9月)

Shop Data

はるお製麺
住所 下川町錦町65
電話番号 01655-4-3326
開館時間 10:00~19:00

定休日 日曜
URL https://haruoseimen.com
※手延べ麺は店舗のほか、町内スーパー等で購入できます(電話で地方発送可)。

役場職員から製麺所の二代目に。現在修業の真っ最中。

下川町の市街地にある「はるお製麺」は、昭和59年(1984年)創業の製麺所。創業者の丹野晴男さんと妻の美津子さんはここで、地元の特産品である手延べ麺を作り続けてきました。今、晴男さんが守り続けてきた製麺所と麺づくりの技術を受け継ごうとしているのが、息子の重男さんです。

丹野重男さん。撮影日、製麵作業はお休みでしたが「せっかくだから」と製麺所で機械などを見せてくれました。

30年近く下川町役場で働いてきた重男さんですが、晴男さんや自らの年齢、これからのビジョンを考え、「教わるなら今だ」と心を決めました。2022年3月に役場職員としての生活に区切りをつけて、現在は晴男さんの指導のもと、午前3時から仕込みを始める修業の日々を送っています。「父は麺を触っただけでわかるという感覚が、僕にはまだ、まるっきりわからない。まだまだ先は長そうです。でも今、どうしたらもっと多くの人に食べてもらえるだろうとか、新商品のアイデアとか、自分で考えて動くことがすごく楽しくて」。

重男さんが製麺所を継ごうと思ったのには、もうひとつの温かな理由がありました。「地元を離れた人たちが帰ってきたときに、変わらないなって感じてもらえる場所を作りたかったんです」。新しい魅力を着々と作り出せる人がいる一方で、変わらない光景をつないでくれる人がいる。両者が心地良い関係を築いているからこそ、下川の「地に足のついた空気感」が生まれているような気がします。そしてその空気に、今日もどうしようもなく心惹かれてしまうのです。

とことん「下川思い」な重男さんと手延べ麺のこと。

晴男さん(写真左)と親子でツーショット。

旭川にある高校へ進学するため地元を離れ、改めて地元の良さに気づいた重男さん。高校卒業後は「下川のためになる仕事を」と下川町役場に就職。これまでを振り返って、「本当に周りの人に恵まれました。下川に帰ってきて良かったなって心から思います」と朗らかな笑顔で話してくれました。取材後日に送ってくれた晴男さんとの製麺作業の様子を添えて、手延べ麺について紹介します(製麺作業の写真提供/はるお製麺)。

手延べ麺とは?

はるお製麺では、うどんやそば、そうめんなどの乾麺を製造販売しています。「ゆくゆくは半生麺にも挑戦したい!」と重男さん。

小麦粉に食塩水を練り合わせ、食用植物油を塗付し、ヨリをかけながら引き延ばしと熟成を繰り返す製法で作られる麺のこと。下川は道内最北の手延べ麺の産地として、地元産の小麦を使った麺づくりが営まれてきました。製造には寒冷な気候が適しているそうで、下川でも「農家の冬場の仕事として入ってきた」のが特産品として広まるきっかけになったそうです。

麺づくりは、昔ながらの製造方法で

麺を乾燥させる際に行う「箸分け」の様子。長い箸を使って一本一本手作業で行います。麺に使うのは、晴男さんお手製の機械。工程のほとんどが手作業のため、生地づくりから麺の完成まで1日半~ 2日かかるそう。今のところ、町内で手延べ麺を食べられる飲食店は限られているようですが、「〆のラーメンに代わる『〆うどん』の文化を作っていけないかという野望があるんです」と重男さん。晴男さんから受け継いだ技術を糧に、その野望を叶えてしまう日を楽しみに待ちたいと思います。

町のイベント、しもかわうどん祭り。

写真左は、「うどん掴み取り」の様子(写真提供/下川町)。

町内の製麺所や飲食店が軒を連ねる地元ならではのお祭り。丹野さんは実行委員として参加。毎年8月下旬に開催され、早食い競争など各種コンテンツが用意されているそうです。

丹野さんとスロウ編集部の往復書簡

取材を通して感じたことを尋ね、お返事をもらう文通企画を始めました。

下川町は、移住者が増えたり新しいお店が次々とオープンするなど、緩やかな変化を続けている町だと感じています。丹野さんは今、そんな町の姿をどんな風に受け止めているのでしょうか?
立田

ピンチをチャンスに変える「しもかわイズム」という言葉に沿って、逆境に負けない強さを持っている町だと思っています。そんな強さと、新しいものや人を受け入れる寛容さを持ち合わせている町の風土が大好きです。これからも、下川にずっと住んできた人(土)と新しく下川に住む人や興味を持ってくれている人(風)が一緒になって、持続可能な風土を作っていけたら良いなぁと思っています。
丹野

下川町で活き活きと自分なりの暮らしを営む人々の物語は、特集「下川町で、スロウ日和」からのぞくことができます。定期更新中ですので、ぜひ寄り道してみてくださいね。トップページは上のボタンから。記事の一部をこちらに掲載します。

下川町の移住情報はコチラ

立田栞那

長く地元で暮らしてきた人の視点に触れて、またひとつ、このまちに心惹かれる理由がわかりました。余談ですが、うどんが大好きなので、〆うどんの誕生も楽しみです!

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.73
「巡る道具、巡る記憶」

大切に受け継がれる古道具と、それにまつわるもの。それらを今、そして未来に残し伝える意味や思いに考えを巡らせる。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。