ひとつのタルトに込めた思い〈パティスリージャンレイ〉

驚くほどに濃厚な味わいのジャンレイのタルト。押さえ込まれていた小麦の風味と香りが、パアっと口いっぱいに広がっていきます。作っているのは菊田玲子さん。釧路市阿寒町の森の中で暮らしています。自分が納得できる生産者の素材を使って出来上がったお菓子は、Webでお取り寄せ販売が中心。売れ残りのないように、必要な分だけ作るようにしています。(取材時期 2013年8月)

Shop Data

パティスリージャンレイ
住所 釧路市阿寒町 ※店舗は構えていません
電話番号 0154-66-4320
URL https://www.facebook.com/patisseriejanrei/

お菓子づくりの基本は、人と人のつながり。

「小麦粉が好きなんだと思います。触っていると気持ちが落ち着くんですよ。中でもタルトが好きで、このタルトはだれだれさんへ、これはまるまるさんへって、プレゼントする相手のことを思い浮かべると、作っていてワクワクするんです」。目をキラキラと輝かせ、そう話してくれたのは菊田玲子さん。小さな菓子工房ジャンレイのオーナーパティシエとして日々お菓子作りに励んでいます。

お菓子作りの基本は人と人のつながり。「食べてくれる相手と、生産者の方が大事に育ててくれた食材があって、私が作ることができるんです」。笑顔で話す菊田さんの顔を見ていると、心の底からお菓子作りが好きなのだという思いがストレートに伝わってきて、こちらまで嬉しくなってしまいます。この人が作るお菓子を食べてみたい、そう思える魅力が菊田さんにはあるのです。

釧路へ移住し、訪れた転機。

神奈川県の自称「田舎育ち」。小学生の頃からお菓子作りに夢中だったという菊田さん。「小さい頃ってケーキに憧れるじゃないですか。でも、うちは田舎だったのでおしゃれなケーキを売っているお店がなくって、クリスマスにも買ってもらえなかったんです。それでも、どうしても食べたくて親にねだっていたら、そんなに食べたかったら自分で作りなさいって言われてしまって。じゃあ、自分で作るしかない! それからお小遣いを貯めて、必要な道具を自分で買い集めてケーキを作り始めたんです」。

子どもの頃からず~っと、菊田さんの胸の中にはお菓子屋さんになりたいという夢がありました。けれど、現実に進んだのは介護福祉の道。お菓子作りで本当に食べていけるのか。人生の節目ごとに、いつも決断に迷っていたといいます。しかし、釧路へと移住し、仕事の合間に細々とお菓子を作っていたある時、転機が訪れます。菊田さんの父親が亡くなってしまったのです。

「死んでしまうはずがないと思っていた人が、いなくなってしまった」。命には限りがあることを意識せざるを得なかった菊田さん。父親の介護で疲れ果て、心身共にボロボロの状態でありながら、「今やらなきゃダメかもしれない」という強い思いに駆られます。それから猛然と、開店の準備に取りかかりました。そして、何と半年後にはお店を始めてしまったのです。

生産者から直接食材を仕入れて、無駄のないように。

「フランスの焼菓子のように、食材の力強さが味わえるお菓子が好きなんです。しっかりと焼いた、食材の個性が分かるお菓子じゃないと私らしくない」。どんな店にしようかと考えた時、まずは自分の納得できる生産者の食材を使うことは外せませんでした。だからジャンレイで使う小麦粉や牛乳、バター、フルーツなど、食材のほとんどはこだわりを持って生産される道内産のものです。「店舗を構えての対面販売も魅力的だったんですが、そうなると売れ残ってしまった場合、食材を生産してくれた方に申し訳ないから。それに、仕入れられる食材の量も限られているので、お取り寄せ専門のお店にすることにしました」。

店を始めてからほとんど宣伝らしいことはしてきませんでしたが、少しずつお客さんが増えてきたそう。「タルトを食べられなかった人が、うちのを食べてタルトが好きになったと言ってくれることもあるんですよ」。ご縁をもらった人を幸せにしていくことで、菊田さんのタルトはさらに愛情が加わり密度が濃くなっていくのです。

スロウ日和編集部
この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.37
「ふるさとの色を描く」

絵画を始めとする芸術作品には、風土の色合いや空気、人々の生活の様子が色濃く反映されるもの。この地で描くことを選び、創作を続けるさまざまな人たちの「描く」を追った。

この記事を書いた人

スロウ日和編集部

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好みも、趣味もそれぞれの編集部メンバー。共通しているのは、北海道が大好きだという思いです。北海道中を走り回って見つけた、とっておきの寄り道情報をおすそ分けしていきます。