再開発によって変化し続ける旭川駅周辺。駅裏には東西に延びるガーデンがあります。植えられているのは50種類、6500株の宿根草。時期が来たら花を開き、駅前を訪れる人々を楽しませています。コロナ禍にあって市民の心の拠り所となった、公共のガーデン。影で支えていたのは、母と娘のような関係のボランティアとガーデナーでした。
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あさひかわ北彩都ガーデンセンター
住所 旭川市宮前2条1丁目
電話番号 0166-74-5966
開館期間 1月5日~12月29日
営業時間 9:00~18:00(11~4月は~17:00)
休館日 月曜(祝日の場合開館、翌火曜休み)、年末年始
URL http://www.asahikawa-park.or.jp/kitasaito/
まちなかのオアシスとして、人々を癒やす
ヤナギなどの草木が生い茂る場所だった旭川駅の南側。以前は忠別川によって分断されているような印象で、少し暗く、鬱蒼としたエリアだった。1990年代から再開発が進められ、2014年に完成。「北彩都」と名づけられ、中心部に再び人が集まる拠点として注目を集めている。
ひと昔前の旭川駅周辺しか知らない人にとっては、まるで別の都市になったかのような変貌ぶりだろう。真新しい駅、大型商業施設、高層マンション、移転してきた病院、多くの人が訪れるカフェ。そんなエリアを支えるのが、駅の南口から東へ約500メートルにわたって広がるあさひかわ北彩都ガーデンだ。市民や観光客が気軽に利用できる憩いの場としての役割を担っている。
「魅力はね、全部!」。開園前の準備段階からボランティアとして活動する清野眞理子さんは、声高らかに話してくれた。東西に長いガーデンには、エリアによってさまざまな工夫がなされている。
旭川駅の南側に造られた「川のボーダー花壇」は、春にはアリウムやゲラニウム、初夏はアスチルベ、エゾフウロなどの花が咲き誇り、夏から秋にはエキナセア、ルドベキアなどが見ごろを迎える。50種類、6500株の宿根草が、旭川の工芸品「優佳良織」の布のように色を重ねるのだ。
川のボーダー花壇に隣接するテラスや広場では、駅に近いこともあって、水路の心地良いせせらぎを聞きながらベンチに腰掛けたりしてくつろぐ人の姿を見る。春から秋まで次々と咲き変わる花々を楽しめるガーデンは、結婚式の前撮りにもよく使われるのだとか。真っ白なドレスと黄色や紫色の花々はとても相性が良い。花が散った後も、絨毯のように花びらが地面を彩ってそれもまた美しい。
駅近くの広場とガーデンセンターの間には、とても大きな鏡池がある。夕方には池に夕焼けが映り込み、息をのむ景色が広がる。晴れた日は大雪山系や十勝岳連峰が見えることも。旭川らしい景色が見られる新たな名所となりそうだ。昼だけでなく、夜も見逃せない。駅の北側の繁華街の明かりが鏡池に反射して、そこに夜景が広がっているかのようなのだ。「え、ここ函館? と思うくらい、素敵な景色なのよ」と清野さんは熱心にアピールしてくれた。
同じくボランティアの西海澄子さんのお気に入りは、ガーデンの東端にある神人(かむんど)の森。数多くの野菜が植えられている「農のガーデン」と、40種類以上のハーブが育つ花壇がある。西海さんは備え付けられた椅子に座り、読書したり、写真を撮ったりして過ごしているとか。「小高いところにあるから、駅を含めたガーデンの全景を写せるんです。お友達に写真を送るとみんな『行きたい』と絶賛。実際に何人もの方が来てくれました」。“優雅な休日”と名づけたくなる過ごし方だ。
旭川を、北彩都ガーデンを愛するボランティアの存在
北彩都ガーデンを造っているのは、4名のガーデナーと9名のフィールドスタッフ、そして80~90名のボランティアである。中でも農のガーデンの主役は、ボランティアの一般市民だ。農のガーデンは、見て楽しめる家庭菜園。トマト、ナス、ジャガイモといった一般的な野菜の他、マイクロキュウリ、バナナピーマンなどの変わり種も多い。何もないところから米を育てたことだってある。変わった野菜にチャレンジするからか、失敗はつきもの。動物による食害だってある。試行錯誤しながらも、毎年立派な農のガーデンをつくり上げるのだ。
「ボランティアの募集を始めた頃は、『10~20名ほど担い手が集まり、そのうち熱心な方が4~5名いるといいな』と考えていましたが、こんなに規模が大きくなるとは」。そう話すのはガーデナーの髙橋恵さん。8年前にスタートしたボランティア活動。当初の想定とは裏腹に、多くの市民が花に親しんでくれている。
「ガーデンを愛して、旭川を愛している人が集まっているの」とは、清野さん。「ここの魅力を話したら、一昼夜はかかっちゃう」とおどけて周囲を明るくするムードメーカーだ。ガーデナーからは〝トップセールス”と評されるほど、清野さんに連れられてボランティアに参加した人も多い。次から次へとガーデンへの思いが紡ぎ出されて、仲間や娘のようなガーデナーと一緒に作業し、おしゃべりするのが楽しくて仕方がない、といった感じだ。
「(清野)眞理ちゃんとおしゃべりするのも楽しい」と言う同じくボランティアの村田美栄さんは、自宅の庭があまり広くないのだという。旭川という都市環境では珍しくない話だ。「この景色の中にいられるだけで幸せ」と心から満足そうだ。
市内の自宅とガーデン近くのマンションを行き来して暮らす西海さんは、30年以上のガーデニング経験がある。生活拠点の一部を駅前に移したことで、ボランティアに参加するようになった。「赤シソができすぎたからと、(ガーデナーから)分けてもらったことがあり、煮詰めてジュースにしたら好評だったの」と微笑む。また、「朝晩散歩に訪れたときにも、スタッフの皆さんが優しく手を振ってくれるのがうれしい」のだとか。お互いの間に育まれてきた信頼関係がうかがえる。
ボランティアの活動日は決まっているが、不参加でも連絡は不要。「そういうところが気軽でいいの」と西海さん。その日集まった人数でできることを行う。草むしり、植え込み、花がら摘み、イベントの手伝いまで。ガーデナーの山下なつ絵さんは「ドライフラワーを干す作業は大変なのですが、刈り取って、縛り、吊るすまで1時間くらいで終わってしまう。みんなパワフル」と補足した。高いところにも難なく登るから心配になることもあるが、ガーデナーもボランティアを頼りにしている。
訪れる人の心の拠り所になるように。
ボランティアの彼女たちの話を聞いていると、生きがい、やりがいを感じて活動を楽しんでいるのがよくわかる。それを可能にしているのは本人たちの熱意と共に、全体の調和をとるガーデナーの存在が欠かせない。父母や祖父母ほども年の離れているボランティアと、どのようにしてガーデンを造り上げていくのか。秘訣は、「間を取る」ことにあるという。
農のガーデンの作業では、自宅の家庭菜園で培った技術やノウハウを持ったボランティアが力を発揮してくれる。その日行う作業と完成イメージを伝えて、細かいやり方は自宅で実践している方法を聞きながら、臨機応変に進めていく。多少の変更は気にしないそうだ。
ガーデナーの島田めぐみさんは「皆さんとは楽しみながら活動していきたい。野菜作りはボランティアさんのほうが詳しいので、作業前に相談していくつか案が出たら、例えばこの部分をAさんのやり方で、こっちはBさんね、というように両方の意見を取り入れてバランスを取ります」と話す。思いの強い人どうしで衝突してしまうのでは、という懸念はない。ただし最終的に農のガーデンを仕上げるのはガーデナーの仕事。微調整して見た目にも美しい庭を造り上げていく。
一級造園施工管理技士の資格を持つ髙橋さんは「ガーデンというと有料施設が多いかもしれませんが、ここは無料。お金をいただくための仕掛けではなく、いつでも訪れる人の心の拠り所になるように。常に還元することを心がけています」と話す。
確かにガーデンという名ではあるが、敷居は高くない。空き時間をボーっと過ごしたり、家族で敷物を広げて弁当を食べてもいい。そんな気軽さが人気となり、2020年は過去最高の来場者数を記録した。演出しすぎず、ローカルで入りやすい雰囲気に。広く招き入れているボランティアと、調和を図るガーデナーがバランスよく力を発揮することで、実現できるのだろう。
「夏にいらっしゃいよ、〝うちの”ガーデンはすばらしいのよ」と、清野さん。市民協働の成果は、そのままガーデンの魅力に直結していた。
この記事の掲載号
northernstyle スロウ vol.67
「小さな菜園を持ったなら」
プロじゃなくても、農業のいろはを知らなくてもいい。思いのほか気軽に、食べ物を作る場に立つことができるのが家庭菜園。広い北海道の地で菜園を楽しむ人たちを訪ねました。