円を描くように生きること。〈薪屋とみなが 富永紘光さん〉

自宅の薪ストーブに薪をくべる富永さん。

道北の町、下川町で暮らす人たちを訪ねる特集『下川町でスロウ日和』。今回お話を聞いたのは、薪屋を営む富永紘光さんです。移住して10年目。不安を抱えてやってきた移住当時のことから、仕事と暮らしを自分の手で作り出してきたこれまで、「食を通して薪の魅力を広めていきたい」と語る今のことなど、たっぷりお話を聞きました。記事後半にある「往復書簡」のメッセージにも背中を押されます。(取材時期 2023年3月)

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薪屋とみなが
電話番号 080-5264-0081
URL
https://firewoodman.jp/

暮らしと仕事をつくりながら、移住して10年。

新しく移り住んだまちに、深く根を下ろすとき。それは、大きな樹木がゆっくりと根を伸ばすように、徐々に徐々に、訪れるものかもしれません。富永紘光さんが下川町で暮らし始めて、今年で10年。「季節が終わるたびに『来年は畑に何を植えよう』とか、『来年の薪はどうしよう』とか、自然とここにいる前提で考えていますね」。いつからだろう、と不思議そうに、そしてどこかうれしそうに話します。

東京の大学を卒業後、NPO法人「森の生活」で働くために下川へとやって来た富永さん。「最初は町の景色が寂しく感じて、やっていけるか不安な気持ちもありました。でも、まずは3年やってみようと決めて。いざ3年経ってみたら、全然足りなかったんです。何もやりきれていない、もっと自分の手で仕事や暮らしをつくりたいと思って、ここに残ることにしました」。移住5年目には薪屋として独立。空き家を改装し、畑を耕し、言葉どおり自分の手で仕事と暮らしをつくってしまいました。

「田舎にいると、家を直したり、畑の手入れをしたり、生活の中で『仕事以外』が占める部分がすごく大きい。だからこそ、仕事と暮らしを切り離すんじゃなくて、円を描くように両方大事にしたいと思っています。それが僕にとって、『暮らしを良くする』ということだから」。地域全体で、豊かな循環が生まれることを願いながら。富永さんが描く“暮らしの円”は、丸く大きく広がっていくでしょう。

富永さんの薪仕事と下川暮らし

薪屋としての仕事を営みながら、ニワトリの世話をしたり、アースオーブンを使ったイベントを企画したり、仕事に暮らしに大忙しの富永さん。取材に訪れた日も「薪ストーブに火を入れて、猫とニワトリに餌をあげて、それから…」と家の周りを動き回っていました。とっても忙しそうですが、その横顔には満ち足りた表情が浮かんでいました。

「薪屋とみなが」としての仕事

オリジナルグッズとして販売している「キャリーエプロン」は、妻のさいこさんが手がけたもの。

元々は、森のコーディネーターとして働いていた富永さん。薪ストーブを使う人が多い地域で暮らす中で、「薪が手に入りにくくなった」という町民の声や、「自分で薪を割るのが難しくなった」というお年寄りの声を聞く機会が増え、「これまでの経験を活かして役に立てたら」と、薪屋を始めました。山に生える樹木を伐り出すところから、薪を割り、届けるところまですべて手がけています。「薪に興味を持ってもらえる入口を増やしたい」と、グッズの販売などにも挑戦しています。

できるだけ、町内で循環する暮らしを

「衣食住に関することや、そこから生まれるお金の循環をできるだけ町内で回せるような暮らしがしたい」。2022年からはニワトリを飼い、卵は日々の食卓に、鶏糞は畑の肥料に活用する暮らしを始めました。「下川って、パン屋とか木工職人とか、自分の得意なことを生業にしている〇〇屋が多いでしょう。町外にある大型スーパーにも行くときもあるけど、できる限り町内で買い物をして、小さな循環が回っていくのが理想だなと思います。もっと〇〇屋が増えてくれたら、日常はより楽しくなりそうですよね」。

アースオーブン、活躍中

自宅の倉庫には、土・藁・砂などを原料に手づくりしたアースオーブンが。最近は町内のベントに出店し、アースオーブンを使ったピザを提供する機会も増えているそうですが、根底にあるのは「薪の良さをもっと広めたい」という薪屋ならではの思いです。

「薪は、先人たちの暮らしの知恵や北国の風土が詰まっているもの。その文化を広めていきたいけど、薪ストーブを使っていない人に伝えるのはなかなか難しい。でも、おいしいものって誰でも親しみやすいじゃないですか。『薪でこんなにおいしいものができるんだ!』というところから、興味を持ってもらえるきっかけを作れたら」と話してくれました。

富永さんとスロウ編集部の往復書簡

取材を通して感じたことを尋ね、お返事をもらう文通企画を始めました。

もし移住当時の富永さんのように、『ここでやっていけるか不安』と話す人がいたら、どんな声をかけますか?
立田

あなたが今、旅人だとします。たまたま下川の存在を知り、興味を持ち、ほんの少し滞在してみようと思います。とあるカフェに入り、食事をしながらマスターからこの町の話を聞きます。そうするうちに居合わせた客が異なる客を呼び、次第に話が弾み、いつの間にか居心地良いなあと思うようになります。こんな感じでいいと思うんです。旅をするようにこの町に途中下車し、気に入れば長くいれば良いし、合わなければ合う場所を探し続ける。ここが終着地点だと思わず、降り立ってみてください。
富永

下川町で活き活きと自分なりの暮らしを営む人々の物語は、特集「下川町で、スロウ日和」からのぞくことができます。定期更新中ですので、ぜひ寄り道してみてくださいね。トップページは上のボタンから。記事の一部をこちらに掲載します。

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この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.75
「薪ストーブと手づくりの冬」

北国の冬といえば、薪ストーブ。「料理」を軸に薪ストーブの活用方法や魅力を訪ねて。

この記事を書いた人

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立田栞那

花のまち、東神楽町生まれ。スロウの編集とSlow Life HOKKAIDOのツアー担当。大切にしているのは、「できるだけそのまま書くこと」。パンを持って森へ行くのが休日の楽しみ。