北海道に徳島の風を。テトチトパの阿波晩茶レシピ

石狩市に暮らす徳光(とくみつ)理英さんは、徳島県出身。徳島の中でも一部の集落でしか生産されない「阿波晩茶(あわばんちゃ)」の魅力を発信しようと、オリジナルブランド「テトチトパ」を立ち上げて北海道で活動中です。徳島の文化と、北海道の食材が出合ったら…? 徳光家の普段の食卓に上がる料理のレシピと共に、その活動について教えてもらいました。

(取材時期 2020年7月25日)

Shop Data

テトチトパ
URL https://www.instagram.com/tetochitopa/
おすすめ阿波晩茶レシピ 輪切りのレモンと砂糖に漬け込んでシロップに

徳島県の名産品、阿波晩茶。

徳島の阿波晩茶を、北海道の人に伝えたくて

地元に根づいた文化を知り、それを他の地域へと発信していくことを大切に思う一方で、今ここにない文化を取り入れていくことも重要だ。異なる地域で築かれてきた文化どうしが出合って、化学反応のように新しい価値が生まれることがある。

徳島県産の無農薬・無化学肥料栽培の阿波晩茶を商品化する、徳光理英さん。石狩市に暮らしながら、故郷徳島の阿波晩茶の魅力を伝える活動を続けている。

夫の仕事の都合で移住した徳光理英さん。夫と息子3人とネコ1匹と、石狩市内で暮らす。ここへ来る前は沖縄のゲストハウスで働いていた。その頃、旅人が語る「徳島の良さ」に触れ、故郷の魅力に改めて気づかされたという。「徳島に住んでいた頃は、窮屈な田舎が嫌だと思っていました。離れて初めて、独自の文化の魅力に気づきました」。

「北海道ではお茶が生産されていないので、もちろん阿波晩茶を飲む文化もない。だからこそ、この魅力を北海道の人に知ってもらいたいんです」。徳光さんが立ち上げた阿波晩茶のブランド、「テトチトパ」。認知度の低い阿波晩茶を気軽に手に取ってもらうため、まずはパッケージをおしゃれにデザインすることからスタート。「パッと見て、可愛いと思ってもらえれば成功。贈り物にしたくなる商品を目指しました」。今はイベント出展を中心に、少しずつ活動の輪を広げている。

発酵の働きで健康に。それぞれの家庭の味

■阿波晩茶レモンシロップ

材料
レモン3個、 砂糖550g、阿波晩茶葉3g(軽く熱湯をかけてふやかす)


作り方
①レモンをよく洗い、薄くスライスする
②保存瓶にレモンと砂糖を交互に詰める
③常温でひと晩おき、水分が出てきたら
阿波晩茶葉を入れる
④毎日かき混ぜ、砂糖が完全に溶けたら
出来上がり
⑤水や炭酸水、お酒などで割って飲む

■阿波晩茶の炊き込みご飯

材料
白米2合、揚げ1枚、人参小1本、ゴボウ1/2本、 二煎目の阿波晩茶2カップ、阿波晩茶殻適量
《調味料》
しょうゆ大さじ2と1/2、みりん大さじ2、塩小さじ1/2


作り方
①一煎目の阿波晩茶を飲んだ後、二煎目のお湯を注ぎ冷ましておく
②揚げ、人参、ゴボウをそれぞれ細かく刻む
③研いだ米に、冷めた二煎目の阿波晩茶を入れる。
 炊飯器によって水が足りなければ足す
④30分浸水させる
⑤❹に❷と刻んだ茶殻、調味料を入れて軽くひと混ぜし、炊く

阿波晩茶とは、主に徳島県の那賀町(なかちょう)(旧相生町(あいおいちょう))と上勝町で生産される乳酸菌発酵茶のこと。世界的にも珍しい「後発酵」という製法で作られている。同じ発酵茶の一種である紅茶は、葉に含まれる酵素を酸化発酵させるのに対し、阿波晩茶は一度釜茹でして、葉自体の酵素の働きを止め、樽に詰めて嫌気(けんき)発酵させる。後から自然に付着した微生物(乳酸菌)の働きで発酵させるから、「後発酵」と呼ばれるのだ。

「工房によって樽や空気中に存在する菌の種類が違うから、生産者ごとに出来上がるお茶の味わいが全然違うんです」とは、徳光さんの言葉。北海道で言うところの「手前味噌」のようなものだろう。昔は各家庭で作られたそれぞれの味、「手前阿波晩茶」があったようだ。

総じて特徴として挙げられるのは、カフェインが少ないこと、苦みが少ないこと、まろやかさや甘みが強いことなど。また、高血圧やアレルギー症状を和らげる効果についても研究が進められているという。

白花豆の阿波晩茶煮

ファンとして、産地を守るためにできること

徳光さんがなぜ、故郷の阿波晩茶を北海道で広めようとしているのか。尋ねると、ひと言目には「好きだから!」との答が返ってきたが、詳しく話を聞くうちに、生産現場の複雑な事情も教えてくれた。「栽培から収穫、製造まで、ほとんどが昔ながらの手作業で、担い手がどんどん減少しているんです」。

阿波晩茶となる茶葉は、地域に古くから自生していた山茶のひとつ。茶畑と聞いてイメージされる整った段々畑ではなく、山や崖の急斜面に生える茶の木から葉を収穫するのだそう。「とにかく大変。それに、収穫は年に1回だけだから、生産量も限られています」。高齢化が進む集落では、近隣の学生や地域おこし協力隊、ボランティア等の手を借りながら作業を行っているという。

収穫時期は7月から8月中旬。盛夏の四国、最も暑い時期だ。春先の新芽ではなく大きく育てた葉を収穫する。徳光さんは毎年、収穫を手伝いに生産者の元を訪れている。「本当に過酷です。でも、木から葉を摘む作業は機械化が難しいんですよ」。

■阿波晩茶クッキー


材料
小麦粉 100g、ベーキングパウダー 1g、砂糖 15g、菜種油 10g、阿波晩茶殻適量、水(阿波晩茶、牛乳、豆乳でも可)大さじ1


作り方
①ボウルに小麦粉、ベーキングパウダー、砂糖を入れて泡立て器で混ぜる
②❶に菜種油を入れ、ポロポロになるまで手ですり合わせる
③❷に茶殻と水を入れ、ひとかたまりになるまで混ぜる
④クッキングシートの上にのせ、めん棒で薄くのばす
⑤カードなどで割れ目をつけ、180℃に熱したオーブンで15分ほど、焼き目が付くまで焼く

こうした事情から生産農家は年々減少傾向にあり、栽培や製造の技術が失われつつある。さらには生産量が限られるために、宣伝して販路を拡大するというのも難しい。「昔ながらの農家さんの場合、売り先はほとんど決まっていますから」。

そんな中で徳光さんは、これまで阿波晩茶を知らなかった層への働きかけこそが、産地を守る一助となると考えた。おいしくて、健康にも良い阿波晩茶。小さな集落で細々と受け継がれてきた技術や伝統。地域の中では「毎日の飲み物」としてあたりまえに根づいているお茶が、実は世界的にも珍しい製法で作られてきたという事実。北海道という土地で、別の切り口で伝えることが新たな文化を生み出す糸口になるかもしれない。

北海道の作り手とのコラボレーション

テトチトパを立ち上げて2年。「まだまだこれから」の活動ではあるが、同じ価値観を持つ地域の仲間が少しずつ増えつつある。たとえば、オーガニックや道産素材の焼き菓子を製造する札幌の「クスクスオーブンプラスホッパーズ」ではクッキーを。自家製酵母と道産小麦でパンを焼く、厚真町のベーカリー「此方(こち)」ではベーグルを。それぞれテトチトパの阿波晩茶を使って開発し、店頭等で販売。2020年3月に札幌市内のカフェ「インソムニア」で行われた販売会では、カフェメニューとして琥珀糖を添えた阿波晩茶や茶葉を使ったケーキが提供された。徳光さんが発信する徳島の文化と北海道の作り手の思いが合わさって、少しずつ新しい価値が生まれつつある。「阿波晩茶は、生産者さんによって味わいがそれぞれ違うのが魅力。テトチトパの味を『やっぱりコレがいい』と言ってリピートしてくれる人が、道内にも少しずつ増えてきました」。

食卓に新しい風を。テトチトパのこれから

カフェでのイベントやSNSなどを利用して、阿波晩茶の飲み方や茶殻のアレンジメニューを盛んに発信している徳光さん。その阿波晩茶の活用ぶりは、徳島の生産者にも驚かれるほど。「農家さんは茶殻を畑に撒く。料理に使うと話したらびっくりされました(笑)」。今後は、阿波晩茶を使った料理を食べてもらうイベントのようなものもやってみたいと考えているそう。「阿波晩茶には乳酸菌が豊富だし、きっといろいろな効能があるんだと思う。でも私は専門家じゃなくて、ただのファン。おいしい飲み方や、料理に使う楽しさが伝われば、それでいいと思っています」。

故郷の伝統に、新たな土地の素材や価値観を組み合わせて。テトチトパの阿波晩茶は北海道の食文化と出合って、きっともっと面白くなる。

テトチトパさんに、木のうつわで食べたいスープレシピを教えていただきました!

この記事の掲載号

northernstyle スロウ vol.64
「手紙に添えて」

コロナ禍を受けて。届けたい足元の豊かさ、今、変わらない思い、気づいたこと、考えたこと。変えていこうとしていることを綴った手紙。

この記事を書いた人

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片山静香

雑誌『northern style スロウ』編集長。帯広生まれの釧路育ち。陶磁器が好きで、全国の窯元も訪ねています。趣味は白樺樹皮細工と木彫りの熊を彫ること。3児の母。